282)梨沙少尉の休日②
志穂から託されたメッセージ通り、休暇を取って駅前のレストランに来た梨沙。
しかし、そんな彼女が望む待ち人の代わりに、突然来襲したのは銃を持ったテロリスト達だった。
(……そう言えば 志穂から見せられたメッセージ……拓馬の奴が絡んでそうだったけど……。まさか、こいつらの中に拓馬が……!?)
突然のテロリスト襲撃で、梨沙はこのレストランに来た目的を一瞬忘れていたが、冷静に状況を見る中で思い出した。
志穂から伝えられたメッセージによれば、このレストランで……安中大佐が"残業"すると言うニュアンスだった。
自分の恋人である安中が、襲撃してきたテロリストの一人か? と嫌な思いが横切り…… 9人のテロリスト達を、梨沙はしっかりと確認したが……。
(……違う……この中に拓馬は居ない。それもそうだな……メッセージでは拓馬は"あっち側"だ……。だとしたら、こんなチンケな事はしない……)
9人のテロリスト達は全員フェイスマスクで顔を隠しているが、体形や身長で安中とは全くの別人だった。
その事を確認した梨沙は安堵しつつ、安中が属するであろう……アーガルム族について考えていた。
梨沙の考えている通り……アガルティアに騎士を始めとするアーガルム族なら、武器など使わず、思うだけでレストランを大破させられるだろう。
(……なら……"残業"って何だ? 一体、何をする心算だったんだ拓馬は……?)
梨沙が志穂から伝えられたメッセージに思案している中……状況が変化する。
「我々は真国同盟に属する者だ! 我々は、この腐った世の中に絶望しつつ変革を求める勇士! お前達には、堕落した現政権に我らの要求を突き付ける為、犠牲となって貰う。
お前達の死を持って……捕えられたままの同志の解放を要求する。さぁ! 一人ずつ大切に死んでもらおうか!!」
テロリストの内、リーダーらしき男が集められた客達の前に立ち、名乗りを上げる。
その上で集めた客達に向け、死刑宣告を行った。それを聞いた客やスタッフ達は当然、黙ってはいられなかった。
「じょ、冗談じゃない!! 俺はこんな所で死にたくない!」
「いやぁ! 早く家に帰して!!」
死を改めて突き付けられた者達は立ち上がり抗議の声を上げたが……。
テロリストのリーダーは最初に声を上げた、サラリーマンの男性と主婦に迷い無く銃弾を放つ。
撃たれた2人は、血に塗れて呆気なく倒れた。
「いやああ!!」
「た、たすけてくれ!!」
撃たれた二人を見て、他の客やスタッフ達は一斉に騒ぎ出す。
“ダダダダダ!!”
騒ぎ出した客達を大人しくする為、テロリストは天井に向け発砲して叫んだ。
「黙れ! 今、この場で全員殺しても良いんだぞ!! 現政権が我らの同志を開放すればお前達は助けてやる。少しでも長生きしたければ大人しくするんだ!」
真国同盟のテロリストは、そう叫んで客やスタッフを黙らせる。そして次に、テロリスト達はカメラをセッティングし始めた。
捕えた客達を処刑映像をネットを通じて、公開し現政権への交渉材料とするつもりなのだろう。
(……拙いな……このままじゃ、ここに居る人質は全員殺されてしまうわ。国家はテロに絶対屈しない……。通らない要求にこいつらは行動をエスカレートさせるだろう……。その前に何とかしないと……)
着々と準備を進める真国同盟のテロリスト達を見て、梨沙は残された時間が少ない事を理解した。そんな中……。
「最初はお前だ! 早く来い!」
「いやあああ!!」
カメラの準備が整った為か、テロリストの一人が客の少女を腕を掴み、怒号を上げて無理やり立たそうとする。
だが 少女は泣き叫んで必死に抵抗した。
「こ、この!」
「待ちなさい!!」
抵抗した少女に苛立ったテロリストの男が、彼女に向け発砲しようとした時、梨沙は立ち上がって制止する。
「何だあ? お前!」
「アタシが代わるわ! それで良いでしょう!」
少女に向けて銃を向けていたテロリストは、怪訝な顔で声を上げた梨沙に問うと、彼女はきっぱりと言い切る。
少女が、今まさに殺されそうになっているのを見た、梨沙は黙ってはいられなかった。
梨沙は、侵略戦争により家族を失った過去より、こんな理不尽な暴力で殺される少女を見捨てる事など出来なったのだ。
そんな、どうしようもない世界に抗う為に、梨沙は銃を手にして戦ったのだから……。
だから、梨沙は圧倒的に不利な状況の中、戦う事を決めた。
「……ふん。良いだろう……最初はお前からだ。こっちへ来い」
「ええ……分った……よ!」
梨沙はテロリストの男に、腕を捕まられ引張られる。
彼女は素直に従って、自然な動きでテロリストの懐に入り込み……隠し持っていたフォークで男の太ももを突き刺した。
「いぎゃ!!」
痛みで叫んだ男は腰を屈めると、梨沙は顔を下げた男の顔を思い切り蹴り上げる。
鍛えられた梨沙の蹴りでテロリストの男は、意識を失い倒れた。
「き、貴様!!」
別なテロリストがすぐさま梨沙に小銃を向けるが、彼女の動きは素早かった。
隠し持っていたステーキナイフを投げ、小銃を向けたテロリストの顔に命中させる。
「うがあ!!」
顔にステーキナイフが突き刺さったテロリストは叫び声を上げ倒れた。梨沙は蹴り上げて倒した男の小銃を手にした所で……頭上から低い声が響く。
「……そこまでだ……。それ以上動けば、こいつらを殺すぞ?」
倒した男の小銃を掴み掛けた梨沙に、テロリストリーダーが低い声で問う。
リーダーの男は小銃を客の少年少女達に向けていた。梨沙が少しでも行動を起こせば、間違いなく彼らは殺されるだろう。
テロリストリーダーの言葉が脅しでは無い事を理解した梨沙は、これ以上の抵抗を止め、手を上げて立ち上がる。
「この動き……素人では無いな。軍の犬か?」
「……お前達に答える気は無いね」
「そうか……どの道、お前には今すぐ死んで貰う」
問うたテロリストリーダーに梨沙は回答を拒絶する。リーダーの男は、構う事無く小銃を梨沙に向けた。
リーダーに合わして他のテロリストも一斉に彼女に対して銃口を向ける。確実に梨沙を殺す心算だ。
悔しそうに歯噛みして手を上げた梨沙を、冷たい目で見ながらテロリストリーダーは小銃を発砲すると、他のテロリスト達も全員で一斉に銃弾を放つ。
“ダダダダ!!”
音を立てて火を放つテロリスト達の小銃。放たれた銃弾に梨沙は貫かれて絶命する筈だった。
死を覚悟した梨沙は思わず目を瞑ってしまったが、一向に痛みに襲われない事に気が付き、そっと目を開けると……。
放たれた銃弾が全て空中でピタリと止まっているではないか。それに……梨沙の体を守る様に白い光が球体となって覆っていたのだった。
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