274)真の戦い

 前原に事実を話しながら、分隊から離れる事を制止するドルジ……。



 しかし、前原はドルジの話が理解出来ず、問い返す。



 「……い、意味が分らん……何でアンタに異動する事を止められてんだ……。元は……お前達が……分隊を良い様に操ってるのか、我慢ならねぇんだよ……。

 それで、一番分らんのが……分隊に居る事が最前線? そして小春君の傍に? 玲人君じゃ無く? 何が何やら……」


 「お前は躍らされるのが嫌だと言ったな……。ならば、事実を知った上で事を起こさん限り……自ら躍っているのと同じだ。

 お前はマールドムだが、戦士の矜持を持っている……。そんなお前が……小春殿の元を去るのは惜しい……。アリエッタから頼まれたのも事実だが……俺自身、本気でそう思っている。流石にトルアが集めた戦士だとな……」



 分隊から離れる事を、その原因であるドルジ本人から止められ、更に混乱する前原に、ドルジは本心を伝える。



 彼はどうやら本気で前原の事を認めている様だ。ドルジの本心を聞いた前原は……。



 「お、俺を買ってくれるのは……有難いが……アンタの言う事が今一つ、分らん……。さっきの話、一体……どういう事だ……?」


 「……真実を教えてやる……その上で……上辺の日常に自ら躍るか……我らに翻弄されながらも、真の戦いに挑むかを考えるがいい。

 我らはお館様に仕える騎士……。故にお舘様の覚醒をお助けせねばならぬ……。その為にはゴミ共でも、お前達でも利用する。

 そんな訳で、俺と同じ12騎士長のトルアは……長らく雛の少年を支えながら、覚醒へと導びいてきた……。我らも同じくな。

 その介あって……お舘様のお目覚めは近い……。だが、雛の少年に眠るお館様は……お前達、人類の殲滅を望んでおられる。1万と3000年前からな……。

 そして小春殿は……それを阻止せんと立ち向かわれるだろう。最強無比であるお舘様は、誰も止められぬ……。我等とて真に目覚めた、あの御方の前では……到底、足元にも及ばぬ。

 唯一、お止め出来るとすれば……マセス様とエニである小春殿のみ……。俺が言った、世界の中心……そして最前戦とはそう意味だ。

 お前が、マールドムの為に戦うと言うのなら……小春殿の元を離れず、小春殿が成す事を支えてやれ。それこそが、真の戦いだ」

 


 前原の問いに、ドルジは静かに言い放った。



 「……そ、それが……真実だとして……。何で、敵である筈の……俺に、それを伝えるんだ!?」


 「一つは、我等の同胞であるアリエッタに頼まれた事も有る。……彼女は、小春殿を何より案じて……小春殿の為になる事なら何でもする。

 だが……頼まれただけで無く……俺自身が、以前の覚醒の儀で……俺に立ち塞がる、お前を見て……このまま去るのが余りに惜しいと、思ったのが本音だ。

 あの時……お前は、絶対に勝てない筈の俺に……何度も立ち塞がった。その姿は……お館様や、小春殿と同化したマセス様の御姿に通ずる……。

 お前だけでは無い……。お前の巣に居る連中は、流石にトルアが選りすぐっただけ有り……それぞれが骨が在る。敵であるマールドムである事が惜しい程だ。

 ククク……あの生真面目で忠義深いトルアの奴が、自らの立場を超え……フラフラするのも分らんでも無い」


 「…………」



 ドルジの称賛に、前原は何も言えなかった。しかし……その心は、大きく揺り動かされていた。



 (……この怪物が……俺を、認めている……。俺は、それが嬉しいのか……)




 ドルジの言葉に、前原が戸惑う中……、当の彼は小さく呟く。



 「……柄にも無く、語り過ぎた。ここに居るのがディナならば……上手くやるのだろうが……」




 そんな事を言いながらドルジは、湯船から立ち上がる。



 「お、おい! どこに行くんだ!?」


 「……伝えるべき事 は……全て伝えた。後はお前が決めろ……」



 制止した前原だが、ドルジは湯船から出ながら、彼に伝える。



「……今は女を優先するなら……そうすればいい。だが、お前に……真の戦いに挑む覚悟があるのなら……小春殿の中に居る……早苗と言う女を頼れ……」



 そう呟いたドルジは浴室から出てしまう。



 「くそ! 待てよ!」



 前原は、ドルジを追って湯船から紐で出して、浴室を出たが……。




 どう言う事か、既に脱衣場には誰の姿も無かった。



 番をする筈の、番台の老婆は深く眠り込んでおり……これではドルジが何処へ行ったか、老婆に聞くだけ無駄であろう。



 前原は、誰も居なくなった脱衣場で歯噛みしながら呟く。



 「くそ! 何なんだよ、 アイツは……! だがここに、俺を誘ったのは……話を聞かせる為だったのか……」



 前原は呟いた後、ドルジが言われた事を思い返す。



 (……俺達を集めたと言うトルアと言う奴……。ドルジと同じ騎士らしいが……。どう考えても、“あの人”だよな……。そして、何より……玲人君の中に眠るお館様と……小春君の事……。人類を滅ぼす存在と、それを守ろうとする存在……。あの中学生カップルが、そんな柄か? どう考えても、信じられ無い……。やはり、早苗さんに聞くべきか?

 ……いや……これらは、とても俺の中だけには留められない情報だ。とりあえず、坂井分隊長に伝えるか……)



  前耳は誰も居ない脱衣場で、ドルジの話した内容について整理しながら、分隊長の梨沙に入手した情報を伝える事を決めたのだった。

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