275)恐怖の夜①

 「……う~ん……なーんか……おっかしいなー」



 街の音が消えた深夜……特殊技能分隊の予備隊員である、垣内志穂は自室で、納得出来ないと言った様子で呟く。


 彼女は、今……特殊技能分隊長の坂井梨沙少尉の依板を受け……怪しい動きを見せる、安中大佐の背後関係を調べていた。



 志穂の居る自室は、アニメキャラのフィギアが所狭しと置かれ、壁にもアニメのポスターが張られている。


 机の上のパソコンは 魔改造されており、あり得ないスペックになっていた。


 

 安中大佐を調べる為……志穂は、その魔改造パソコンを使い……自衛軍の機密情報が保存されているサーバへのクラッキングを、仕掛けている所だ。


 そんな中……何か設明出来ない、違和感を感じて戸惑っている状況だった。



 小春を交えた、あの模擬戦以降……立て続けに起こったアガルティア12騎士の襲撃。


 それらは特殊技能分隊に所属する、玲人に対して……“覚醒の儀”とやらを、行う為らしい。



 そのアガルティアの12騎士と……特殊技能分隊を創設した安中大佐が繋がっている……。



 そう予想した梨沙から頼まれた志穂は、先ずは安中大佐の個人情報を調べる事とした。



 しかし仕事人間の安中大佐はSNS等も利用しておらず、プライベートでは恋人である梨沙とのメールだけだ。


 今どき、メールサービスしか利用しない安中大佐に呆れながら……それでもと、志穂は安中のメールサービスアカウント情報を総当たり攻撃で入手して、メールシステムへ侵入した。


 そこで片っ端から、安中のメールを覗き見したが……得られた情報は、梨沙へのノロケメールと、大量の業務メールだけだった。



  それでも過去から現在までのメールを頑張って見たが、志穂が求める内容の情報は入手出来なかった。



 そこで、安中の端末を踏み台にして、自衛軍のサーバーに侵入し、彼の動向を調べたが……これまた、面白くも何ともない仕事人間な、安中の日常が見られただけだった。



 志穂は梨沙に"安中の愛人を見つけるかも!"と言って冷やかしたが……どこをどう調べても彼には、そんな暇も無く……ましてやアガルティアの12騎士騎士等の第三者と接している傾向も無かった。



 "これは梨沙の取越し苦労かな……"と諦めかけた時……バックドアより侵入したネットワーク上から常時稼動中の不自然な端末を見つけた。



 志穂が不自然と感じたのは、その端末の設置場所だ。



その端末は、梨沙と志穂が密談した薄暗い倉庫にある事になっていた。


 あの場所には志穂も実際に行っていた為、倉庫内の様子は分っているが……廃棄出来ない書類が大量に箱詰めで置かれている他……古い机や事務器材が、乱雑に入り込まれている様な場所だ。


 サーバーからの情報で示す様な、常時稼動中の端末が有る様な場所では無いし、実際に志穂が入った時もそんなものは見られなかった。


 諦めかけた時に、偶然見つけた端末だっただけに……志穂は余計に言い様の無い気持ち悪さを感じたのだ。


 ネットワーク上の管理情報ミスか……と思いながら、その端末内を除き見していると、巧妙に隠された暗号化フォルダを発見した。



 そのフォルダの名前は“overtime”と書かれている。直訳すれば残業だ。

 


 ありえない場所に置かれてい端末に、これ見よがしに存在している怪しい暗含化フォルダ……。 まるで誘われている様な状況だ。




 志穂は自室でイスをギコギコ揺らしながら、魔改造されたパソコンのモニターを見つめながら唸る。



 「……やっぱ誘ってんのかな。自衛軍のサーバーって割にはサクサク入れちゃったし……その癖、つまんない情報しか無いし。

 やっと見つけた美味しそうなネタは、危険な香りがする……。どーしようかなー」



 そう呟いた志穂は 目を瞑って悩む。パソコンの前で唸っていた志穂だが……。



 「悩むなんてキャラじゃない! 壁を乗り込まてこその私だ! 玲ちゃんにも、そう言ったしな! 見てろよ、玲ちゃん……。今、私は壁を越えてやるよ……。フオー!」



 志穂は目をカッと目開らき、興奮しながら叫んだ。



 「さぁ、禁断の扉を開いてやるぜ! お? 12ケタ数のパスワードか? しかも文字やら記号が混ぜてやがんな……。面倒だが……私は一人じゃない! さあ、ゾンビちゃん達……総当たりで叩き潰してやるがいい!」



 志穂はマルウェアで乗取った、多数のゾンビコンピューターを用いてボットネット化し、 同時に総当たり攻撃を掛けた。



 総当たり攻撃は、暗号に全ての番号や文字の組合せを全て入力して解読する。


 膨大な検証数で解読には長い時間が掛かるが……志穂の場合、ゾンビ化した多数のパソコンで同時処理する事で、圧倒的な処理速度を確保していた。その為……。



 「お!? よっしゃー! 良くやったゾンビ共!」



 復雑な暗号は、数分で解読され……フォルダの閲覧が可能になった。



 「……さあ、いよいよ御開帳といきますか! 勝利のビールを片手に……ポチっとな!」


 

 志穂は、解読中に持ち出したビールを手に……元気よく叫んで、解読されたフォルダをクリックする。すると……。



 "バツン!!"



 大きな音と共に、いきなり自室の電気が消えた。



 「え? え? な、な何が起こった!?」



 突然、真っ黒になった自室に大きく狼狽する志穂。



 「て、停電!? あれ? 外は電気付いてる……そ、それじゃ、ブレーカー? えーと携帯端末で照らすか……」



 志穂は電気が消えた事で、停電かと思って窓の外を見ると……街の明かりは消えておらず、志穂の自室だけが電気が落ちている様だ。


 

 ならば、ブレーカーか……そう思った志穂が、携帯端末のライトで照らしてブレーカーを復旧するべく、立ち上がろうとした時……。



 "ブン!!"



 真黒な部屋の中……いきなりテレビが付いて、真白な映像を映し出した。



 「……え……な……何で……テレビ、だけ……」



 真黒な部屋の中、いきなり付いたテレビの白い画面だけが、明るく光る。


 志穂は異常な状況に、呆然と呟くだけだった。



 そんな中……。


 

 真白いだけの映像を映すテレビに……血の様な赤い点が画面の中央に現われ……。



 "ジジジ……"



 小さな音を立てて、赤い点が独りでに動き……文字を記しだす。



 「ヒ!?」



 あり得ない出来事に頑来、気の弱い志穂は口を押えて悲鳴を上げた。



 恐怖で固まる志穂に構わず、テレビの赤い点は文字を書き終えた。そこには……。



 “……志穂ちゃん。あの部屋で……梨沙ちゃんから頼まれた残業……お疲れ様。今まで……楽しんで貰えた?”



 テレビに……そんな事を、血の様な赤い文字は書かれていた……。


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