259)おかしな三人組

 所変わって……アーガルム族の居城であるアガルティア城にて……。



 中央制御装置に近い広間に安中は居た。



 彼の本当の正体は、アガルティア12騎士長のトルアだ。その彼が居る広間は体育館程の広さが有り、様々な機器が乱雑に置かれている。



 良く見れば置かれている物の中には、見覚えのある車やバイク……テレビと言った電化製品の他……巨大なNC旋盤と言った加工機械や、ジェットエンジン等の機械部品が所狭しと置いてある。



 そうかと思えば……不思議な光が走る黒い石柱や、レリウスなどアーガルム族が使用する装置も並べられていた。




 そんな広間で、トルアこと安中は……奇妙な三人組の前に座っていた。



 この三人組は……何が奇妙かと言えば、その姿だ。三人の内、真ん中に座る男の顔は……ドクロそのままだった。



 良く見ると目の周りが、黒く塗られている為にドクロの様にしか見えないのだ。



 ドクロ顔の男は痩せており、顔色も白い。にも拘らず、塗られた目の周りの大きなふちは、眼孔の様に見え、恐怖しか生まない。



 男の格好も不気味だ、着ているのは手術服の様な白衣で……まるで病院からドクロが白衣のまま抜け出た様に見える。


 その白衣には、何かの液が飛び散ったのか……赤やら黄色やら蛍光色の気持ち悪い染みが付いている。



 三人の内、ドクロ男の右に居るのは、小柄な少年だ。年の頃は小春と同じか、少し年下に見える。


 美しいブロンドに、アーガルム族を示す金色の瞳を持ち、幻想的なほど美しい容姿をしているが、その服装がおかしい。


 だぼだぼの白衣を着ており、袖から手が出ていない等、サイズが全然合っていない。



 ドクロ男の左に居る最後の三人目は女性の様だが、彼女も色々おかしい。


 完全に女性のボディラインだが、真黒なミニスカートと黒いジャケットを着ている。


 美しい長い生足を惜しげもなくさらけ出し、目のやり場に困る程だ。



 此処までなら何の問題も無いが、彼女の顔には真黒な板の様なアイマスクをしている。



 顏半分を覆うそのアイマスクでは何も見えそうに無いが、女性は特段不便を感じていない様だ。


 美しそうな、その素顔を見る事は出来ない。



 奇抜すぎる三人の容姿を見て、彼等と向かい合う安中は苦笑を浮かべる。



 三人と安中の間には、大きな作業台が在り……その上には、これまた様々な機械が置いてある。


 その中に円筒状のガラスケースに納められた、ニョロメちゃんが有った。




 やがて、奇妙な三人組の内、ドクロの男が話し始める。




 「……お呼びたてして悪いね、トルア君……是非に相談したい事が有って……」


 「どうしたラシュヒ……何か進展が有ったのか?」



 ドクロ男は、安中にラシュヒと呼ばれた。



 「……うん。君の方から提供を受けた……このサンプルだが……」



 そう言ってラシュヒはニョロメちゃんの入ったガラスケースを能力を使って引き寄せる。

 

 彼がそっと手を差し出し、その手を光らせると、ガラスケースは独りでに浮かび、彼の手元に収まった。



 ガラスケースに入っているニョロメちゃんは……模擬戦の後、安中を呼び出した早苗が、彼を操って正体を自白させようと、安中の体に侵入させたモノだ。



 もっとも、アガルティア12騎士長のトルアである安中には、何の効果も無かったのだが……。



 「……それは私の方から君へ提供した……マセス様、いや今は小春君だな……。彼女の得意とする能力から生み出されたモノだ。それの解析を君に頼んだ訳だが……相談とは、何か問題が生じたのか?」



 「問題と言う程事では無いよ。絶賛コレの解析中だがね……。君の寄越した、このサンプル……実に興味深い! まず感じたのが、その独自の発想が面白い。対象に憑依させて意志力を顕現させるという観点がね! 我々アーガルムは、自ら直接意志力を発動させる。それで全て事足るのだから、こういう発想は無かった。対して、君が寄越したコレは……間接的な意志力の発動と言う観点で斬新だった。

 聞けば、マセス様と同化した小春君は……小型のレリウスにこのサンプルを憑依させて戦うとか……。我々純粋なアーガルムからすれば、直接戦えば良いだけの事だが……、元はマールドムとして暮らして居たエニ、いや小春君だからこその、着想だろう。

 何故わざわざ間接的な操作を求めるのか、そこは謎だが……そもそもマールドムは、此処に有る様な道具を創り出して、弱い自分達を強化するものだ。我々アーガルムからすれば、無駄な事でしか無いが、彼等はそうするしか無いので様々な道具を創り出す。それも、実に多種多様な……。その全てが我々からすれば、無意味で理解不能だ。しかし、そこに至るまでの過程が興味深く……」

 


 “ギュルルルル!!”



 ドクロ男のラシュヒの話が余りに長く、興奮して更に収拾が付かなくなると思われた矢先……。


 ラシュヒの左に居たアイマスクの女性が、何処からか黒い鞭を生み出し……ラシュヒの顔を縛り付ける。



 「ムグモゴゴ……!」


 「コレは失礼しました、トルア卿……。全く教授ったら、直ぐに興奮して止まらなくなるのですから……。教授? トルア卿はお忙しいのですよ? 要件は手短にお願いします、宜しいですか?」



 アイマスクの女性は、静かにラシュヒに話し掛ける。言われた彼は、アイマスクの女性に鞭で縛られながら身振りで“分った!”と右手で親指を立てて、ジェスチャーで答えた。



 それを見たアイマスクの女性は鞭を解いてラシュヒを開放する。



 「ふう! いきなり酷いねユマ君は! 真横にいるハミル君も止めてくれたまえ! 君は一応、僕の護衛なのだろう!?」



 「……教授の暴走を止めるのも助手である私の仕事です……」


 「いつも通り……仲が良い……」



 ラシュヒの文句を、ユマと呼ばれたアイマスクの女性は軽く流し、ハミルと呼ばれた白衣の少年も彼女に続く。


 そんな三人のコントの様なやり取りは、彼等の日常だった。ラシュヒが興奮して暴走するのをユマが物理的に縛り付け、ハミルは二人の様子を生暖かく見守るといった感じだ。



 ラシュヒ達の変わらない様子を、安中は少々疲れ気味で見つめるのだった。

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