253)戦いの終焉

 決着が付いたフィルとアルジェとの戦い……。



 そんな中、アルジェを庇うフィルの声を聞いた玲人は……前世の記憶を一部、一部思い出した為か……激しい頭痛に襲われ蹲る。



 そんな彼に寄り添った小春も……フィル達の姿を見て、遠い記憶を感じた為か……滂沱の涙を流すのだった。



 

 「……マニオス様だけでは無く……小春も、この子達を見て……魂に刻まれた記憶を呼び起こした様ですね……」


 「多分そうだねー。うちの小春は、凄く良い子だから! うーん、ヨシヨシ!」



 涙を流す小春を見ながら透明な少女ヘレナが呟くと……小春の横でフヨフヨ浮いていた10㎝程度のアリたんが、小春の頭を撫でながら返事する。




 ヘレナは玲人に寄り添う小春を見ながら、リジェに話し掛ける。



 「……今回の覚醒の儀……マニオス様とこの子達が、再び出逢えば……必ずマニオス様の覚醒に近付くと、リジェ様は予測されていましたが……正にその通りとなりましたね」


 「まぁ……それも大きな理由だったけど……何と言っても、成長して強くなったコイツ等を……マニオス様に見せてやりたかったってのが大きいかな……。アハハ、チビなりに本当、頑張ったぜ……」



 ヘレナの言葉に、リジェは静かに答えながら……フィルに近寄り、彼の頭を乱暴に撫でた。




 そして、気絶したアルジェをそっと抱きかかえた後……玲人に寄り添う小春の方を向き、満面の笑みで話し掛ける。



 「……んじゃー帰るわ! 小春、またデートしようぜ! キャロ、お前等は、このアタシに啖呵切ったんだ。その覚悟の通り、小春の御伴をちゃんと務めな!」



 小春と、キャロ達にそう言ったリジェアルジェを抱きながら、フラフラのフィルとシャリア達を伴って去ろうとしたが……。




 『う、動くな……! 投降して貰うぞ!』



 前原と沙希のエクソスケルトンがリジェの前に立ち塞がる。



 「あぁ? ……お呼びじゃねーんだが……?」



 リジェの低い声と共に、背後で突っ立っていた量産型レリウスが“ズンズン”と歩いて前原達のエクソスケルトンの前に立つ。




 どうやら透明な少女、ヘレナが動かした様だ。



 「……本日の覚醒の儀は、終了とさせて頂きます……。マニオス様の記憶が一部思い出されたと言う事で……途中では有りますが、及第点に達したと此方は考えております。子供達も遊び疲れておりますので……この場はどうか、引いて頂けませんか?」



 ヘレナは務めて冷静な態度で、前原達に話したが……。




 『はぁ!? こ、これだけやっておいて! 冗談じゃ無いわ!!』



 ヘレナの言葉に沙希は怒り心頭で叫んだ。



 「……さ、沙希さん……ダメだ……よ、よせ……!」

 「れ、玲人君!」



 頭痛の為か膝を付いたままの玲人は、傍に居る小春に心配されながらも、不穏な空気を感じて沙希に制止する。

 


 だが……沙希の叫びを聞いたリジェは、小馬鹿にした様な笑みを浮かべて……アルジェを左手で抱いたまま、すっと右手を差し出す。



 「…………」



 そんなリジェを見て、小春は背筋に冷たいモノを感じ、大声で叫ぶ。



 「リジェさん、止めて!!」



 しかし、小春の叫び声も空しく……リジェの右手から眩い光が放たれてしまった。



 “キュン!!”



 放たれた光弾は、リジェの前に立っていたレリウスを難なく貫通したかと思うと……前原と沙希のエクソスケルトンの間を抜け、背後の林を通り抜けた。



 全ては一瞬……何も起こらないかと思ったが……。



 “ドガガガガガガアアアン!!”



 後方で大音響が生じた。全員が大音響が響いた方を見ると……リジェの光弾によって抉られた大地が延々と続いた先の上空に、巨大な火球がされているのを見た。



 そして光弾が貫いたレリウスは……その頑強なボディに大穴が開いており、完全に機能停止している。



 特殊技能分隊の面々が呆気にとられる中……。



 “ドオオン!”



 球体ボディに大穴が開いて、機能停止したレリウスが……前原と沙希のエクソスケルトンを押し潰す様に倒れ、彼等のエクソスケルトンは下敷きになってしまった。




 「……全くめんどくせぇ……弱い癖にでしゃばんなっつうんだ……トルアめ、こんな奴ら飼ってどうする心算だ? まぁ、弱いからどうでも良いか。ヘレナ、後始末は任せた!」


 「……私も面倒と言う意味では、激しく同意ですわ……」



 下敷きになった前原達のエクソスケルトンを見ながら、つまらなさそうに呟いたリジェに対し、仕事を押し付けられたヘレナは恨み言を言う。



 「じゃーまたな! マニオス様、小春! 次に会う時を楽しみにしてんぜ!」


 「……マ、マニオス様、今日は有難う……御座いました……」



 玲人に対し、アルジェを抱えながら、満面の笑顔で別れを告げたリジェと共に、横に居たフィルが深々と頭を下げ、礼を言う。



 「ま、待て……」



 去ろうとするリジェ達に対し、玲人は制止しようとしたが……頭痛と戦いのダメージが大きいのか、立ち上る事が出来ない。



 「玲人君、む、無茶しちゃダメ!」

 


 無理して立ち上がろうとする玲人を小春は制止する。



 そんな玲人と小春に向かい、リジェは笑顔で手を振った後にフィルと共に歩き出し、シャリアやシエナ達は玲人と小春に向け頭を下げ、リジェに従う。



 すると、リジェが進む先に大きな黒い穴が開き……彼女達は、その中に吸い込まれて行った。



 消えたリジェ達だけでなく……破壊されたレリウスの残骸や、アリたんが呼び出した人型のレリウスも、光の粒子になって消えていく。



 レリウスが完全に消えた後……透明な少女ヘレナも玲人と小春に対し、丁寧に頭を下げ消え去った。



 それと同時に小春の護衛役であるローラ達も小春に手を振り、この場より飛び立つ。



 最後に残ったのはアリたんだったが……「小春ー、アタシは呼んでくれたら、いつでも、どこでも現れるからー、またね!」



 その様に明るい声を残してアリたんは消えた。



 後に残ったのは……リジェの光弾で長く抉られてしまった大地と、フィル達との激しい戦いによる破壊の痕跡だ。



 破壊尽くされた美術館裏庭と、無残な姿となった広大な遊歩道に残された……玲人達、特殊技能分隊の面々は、突然の戦いの終焉に戸惑うばかりだった……。



【後書き】

 いつも読んで頂き有難う御座います! 原稿が底をつきましたので次章話からは暫く週二回投稿とさせていただきます。恐れ入りますが、何卒よろしくお願いします。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る