252)出会った過去

 意識を失っていた玲人は、“ブツン!!”と言う音と共に、目を覚ました。



 そこは暗い小さな部屋で……何も無く、そんな場所に玲人は、ポツンと立っていた。




 「……玲人……目を覚ましたのか」



 そんな玲人にいつの間にか現れた修一に声を掛けられる。



 「……父さん……俺は……また、意識を失っていたのか……? あの子達との戦いは……どうなったんだ……?」


 「戦いの途中で、激しい攻撃を受けた君は……無意識状態で、反撃し……彼等を圧倒した。攻撃を仕掛けようとした際に……あの少年の声を聞いた君は、突然動きを止め……この状態になったんだ……」


 「そう……か……。彼等には申し訳無い事を……」



 玲人と修一が、意識奥に出来た暗い部屋で話し合っている時だった。



 “ジジジ……”



 ラジオから出る様な音と共に……四角い部屋の壁に、突然映像が映し出される。



 それは、瓦礫と焼け野原と……無数の死体が転がる戦場の映像だった。



 「……こ、この映像は……」


 「多分だけど……これは……マニオスの記憶だと思う……」


 「……マニオス……前世の俺か……」



 映し出された映像をを見て、……修一が答えると玲人は、小さく呟く。そんな中……。




 “お、お願い……この子を……”



 暗い部屋の中に小さな女の子の声が響き、真白い光が部屋を包むのであった。




 ◇   ◇   ◇




 “お、お願い……この子を……助けて、下さい……”




 そんな、小さい女の子の……か細い声が響いた後、玲人と修一が居た小さな部屋は光に包まれた。



 次の瞬間……玲人は、小さな部屋では無く、瓦礫と焼け野原と無数の死体が転がる戦場に居た。



 焼けた地面に転がる死体は、鋭角な黒い鎧を纏っている事より……アーガルム族だろう。



 また、シリンダー状の突起が飛び出た、見慣れない巨大な兵器が幾つも破壊され、彼方此方に点在する。その破壊された兵器から焼けた人の死体がはみ出ている。



 奇怪な巨大な兵器に、黒い鎧を纏ったアーガルム族の死体が群がる様に転がっている事より……アーガルム族は、この巨大な兵器と戦っていた様だ。



 その状況より、この戦場は……アーガルム族とマールドムと呼ばれた人類との戦いだったと玲人は推測した。




 そして、この情景は……先程、小さな部屋で修一と一緒に見た、マニオスの記憶なのだと理解した。



 これは過去に生きたマニオスが見た光景なのだと……。



 激しい戦闘が続いたのだろう……大地は焼けて抉れており、辺り一面にアーガルム族とマールドム族の死体で溢れていた。




 (……ここまで酷い戦場は……初めて見た……。俺の前世だと言うマニオスは……こんな時代に生きていたのか……。それにしても……これでは、誰一人……生きては居ないだろう……)



 敵味方区別なく無数の死体が転がる……この戦場を見渡し、玲人はそんな風に考えていたが……。



 “……だ、誰か……助けて……”



 突然、玲人の脳裏に……少女が苦しそうな声な響いた。アーガルム族が持つ、心通と言うテレパシー能力によるものだ。



 玲人は、その声がした方へ向け駆け出した。見慣れぬ場所だったが、何故か玲人には声がした場所を感知出来た。



 正確には、玲人では無く……マニオスが、声を響かせた少女の場所を感知したのだろうが……。




 玲人が駆け付けたのは……多くの死体が転がる焼け落ちた集落だ。



 丸い形をした不思議な建造物が幾つも崩れ落ちて、木立が整備された街路には……抗って事切れたらしいアーガルム族の死体が転がっている。



 そんな状況の中、折り重なる死体の内、かすかに動くモノを玲人は見つけた。



 慌てて玲人が駆け付けると……。



 その場で目にしたのは……血塗れのフィル覆いかぶさりながら、自分もボロボロの状態で……涙ながら助けを求めるアルジェの姿だった。



 額から血を流しながらアルジェは、涙を一杯に溜め……玲人に懇願する。



 「……お、お願い……私の事はいいから……この子だけは……」



 (!? お、俺は……この子を……この子達を知っている! この風景、この場所……確かに……俺は……此処で、この子達に会ったんだ……。ぐぅ!? あ、頭が割れる様に、痛む……!)



 アルジェの懇願を聞いた玲人は、突然……何かを思い出し……マニオスの追憶の世界に居るにも関わらず……強い頭痛に襲われる。



 そして……玲人は、そのまま意識を失うのであった……




  ◇   ◇   ◇




 美術館裏庭で、玲人の反撃を受け……気を失ったアルジェを庇うフィル。



 そんな彼女達に追撃をしようと意識を無くしながらも、巨像の腕を振り被っていた玲人は、フィルの声を聞いて突然……動きを止めたまま、静止していたが……。



 「……フィル……アルジェ……」



 動きを止めていた玲人は、何か大事な事を思い出した様に……彼等の名を呟いた。


 何故かは分らないが……玲人は彼等が大切で守るべき者達だった事を理解した。



 そして、玲人は……振り上げていた巨像の腕を消して……彼等の前で立ち尽くす。



 意識を無くした玲人は……フィルの声を聞き、遠い過去にマニオスとして生きた時代で……彼等に出会った時の事を、思い出した様だ。



 立ち尽くす玲人の前に……。



「……そこまでにしてやって、くんねーかなー。……マニオス様……」



 玲人の前に現れたのはリジェだ。



 彼女と共に、小春も居る。他には小春の護衛であるローラ達や、メイド服姿のシャリアや、玲人が美術館の玄関で出会ったシエナも居る。



 「……ア、アンタは……? うぐ!」



 声を掛けてきたリジェを見た玲人は、彼女の名を問おうとしたが……またも、強い頭痛に襲われ膝を付いた。



 リジェの顔を見て、再び何かを思い出しそうになった様だ。




 「れ、玲人君!?」



 膝を付いた玲人を見て、小春は慌てて彼の傍に駆け寄る。



 「……大丈夫です、小春……。マニオス様でも有る玲人様は、前世の記憶を思い出しただけ……。マニオス様が……戦地で救った、この子達の事を……。マニオス様はマセス様と一緒に、この子達を可愛がっておられました。そして……エニ、貴女も同じ様に……」


 「そ、そうだったんですか……。昔の玲人君が……この子達を……。あ、あれ? な、何で……わたし……泣いてるの?」



 蹲る玲人に寄り添う小春に、透明な少女ヘレナが優しく声を掛ける。



 小春は彼女の話を聞きながら、アルジェを庇うフィルを見る内に……自分が滂沱の涙を流している事に気が付いた。



 小春自身も、アルジェとフィルを見つめる内に……遥かな過去に、二人と共に過ごした記憶を、心の奥底で思い出したのだろう……。

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