251)懇願

 フヨフヨと小春の傍で浮く、ミカンを模した10cm程度のアバターであるアリたんの宣戦布告の直後……。



 美術館外に巨大な人型のレリウスが、落下してきた。



 『な!? 何だ、コイツは!?』 

 『今度は……人型!?』



 突然、落ちて来た人型のレリウスを見て……現場に居た前原と沙希は、その姿を見て驚いた。




 そこに現れたのは……全長10mを超える、彫像の様な巨大レリウスだ。



 アガルティア城の門番として設置されていたレリウスと同様に、白く光り輝く銀製のボディは騎士鎧の様な装甲を纏っている。



 しかし、そのボディは滑らかで継ぎ目が無く僅かな関節の隙間からは青い光が覗いている。


 騎士の様な姿のレリウスは円筒形の頭に、一つ目の様な模様がモヤの様に光輝き浮かんでいた。



 その形状は門番のレリウスと似通っていたが、頭部には意匠を施した羽の様なパーツが付けられ……厚みのあるボディを持っていた。


 決定的に違うのは、手に装備されている武器だ。門番型レリウスが装備していたのは剣だったが、このレリウスは手元が太い円錐状の長い槍だった。




 「……どう言うつもり? アリエッタ?」



 アリたんが呼び出した人型の巨大なレリウスを見て……リジェの横に居た透明な少女、ヘレナが、フヨフヨと浮かぶアリタンに向け問う。



 「ブブブー! 今のアタシはアリたんですー!」


 「……そう言う冗談は、要らないわよ、アリエッタ? そんなモノ呼び出して……何をする心算なのかしら?」



 透明な少女ヘレナに問われたアリたんは、明るい声で答えるが……ジト目のヘレナは冷静に返す。



 「……ふぅ、付き合いが悪いわね……。まぁ、良いわ……。ヘレナ、今の私は小春専属のオペレータです。……彼女の意志に従い……彼女を守るのが我が使命……。小春が、あの量産型レリウスと戦う事を望むなら……私もその意に従い、支援します。そんな訳でアガルティア城を守る、衛兵型のレリウスを一体拝借させて頂きました。どうしますか、ヘレナ? 物量戦で勝負しますか?」


 「分ってるでしょう、アリエッタ? 貴女一人に対し……こちらは15人居ます。……と言う事は、例え貴女がアガルティアの機能を使えるとしても……それは16分の1でしか有りません。扱えるレリウスの数量も然り……15人居る私達に、貴女が勝てる訳が無いのは理解出来る筈よね?」



 体長10㎝程の……ミカンを模したアバターであるアリたんは、リジェの背後に居る後任透明少女ヘレナに、胸を張って答えた。



 対してヘレナは淡々と事実を告げた。



 しかし……。



 「……無駄よ、ヘレナ……こちらには小春が居る。エニとマセス様である小春が……。一声、小春がアガルティアの皆に呼び掛ければ……一体、どうなると思う? 貴女だって、ルチアナ達だって……喜び勇んで小春の元に付くでしょう?」


 「全く、貴女って子は……凄く嬉しそうにして……。そんなの私達だって……小春の横が良いに決まってる……。どうして私達が、こんな貧乏くじを……」


 「……ゴメンね、ヘレナ……」



 アリたんはヘレナの問いに自信に満ちた声で答える。そんな様子の彼女を見たヘレナは……心底、残念そうに呟く。



 ヘレナの落ち込んだ姿に……先代の透明少女であるアリエッタこと、アリたんは苦笑しながら謝罪するのだった。



 「……おいおい……仲間内で揉めないでくれるかい? アリエッタも、あんまりへレナを弄るな。ヘレナもマニオス様の復活までは我慢して仕事してくれよ? それまで辛抱だからさ」

 


 二人のやり取りを見ていたリジェが、彼女達を制止すると、アリたんとヘレナも頷いた。



 「小春とアリエッタが参戦すりゃ……正直、こんなレリウスなんざ足止めにもなんねーか……。丁度、マニオス様の方も決着が付いた様だな」



 そんなリジェの言葉と同時に……。



 “バキイイイイン!!” 



 一際、大きな音と共に……そびえ立っていた巨大な金属柱に、大きな亀裂が立てに走る。



 そして、金属柱自体が眩く光った後、爆散した。



 “バガアアアァン!!”



 金属柱の爆散により、大きな衝撃波が美術館や木立を揺るがした。その衝撃でアルジェとフィルが美術館の裏庭まで吹き飛ばされ、地面に激突する。



 「……あ、あう……」

 「ね、姉様……」



 地上に激突したアルジェは、ダメージが大きかった為か……起き上がれずにいた。


 フィルも立ち上がれない様で、体を引き摺りながら彼女の元へ寄り添う。




 そんなアルジェとフィルに……破壊の権化かゆっくりと近付く。



 “ズズズズ……”



 禍々しい黒い瘴気の様な粒子を纏わせながら……玲人が動けない彼女達の元へ歩み寄る。



 アルジェとフィルの激しい攻撃を受けた為か、隻眼のフルフェイスメットは破壊され素顔を見せているが……その目は虚ろで表情が無い。



 ゆっくりとフィル達の元へ進む玲人は意識が無いのか……一言も発しない。



 彼の背後には……二本の漆黒の腕が、守る様に浮いて付き従う。




 対してフィルは、倒れたままのアルジェに覆いかぶさって動かず、守ろうとしている。



 玲人は無言のままでフィル達の前に立ち……巨像の腕を振り上げた。



 “だ、駄目だ!! 玲人!! あ、相手は子供だ! 攻撃を止めろ!!”


 (…………)



 玲人の脳内では、修一が必死に攻撃を止めようと呼び掛けるが、玲人自身の意識が無いのか、応える様子が無い。



 巨像の腕を振り上げて、フィルとアルジェを攻撃しようとする玲人。


 

 そんな彼に、フィルは……。



 「……お、お願い……僕の事はいいから……ね、姉様だけは……」



 フィルは、弱々しい声で……アルジェを庇いながら、彼女を救う為に懇願した。



 すると……。 


 

 彼の声を聞いた玲人は、まるで電撃を受けた様に……ビクリと体を震わせ、ピタリと動きを止める。


 そして……。


 “ブツン!!”


 玲人の意識奥で、電源を落とした様な音が響き……無意識だった玲人は……何処か見知らぬ部屋で目覚めるのだった。

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