250)フィルとの戦い⑧

 巨大な金属柱を落下させ、玲人を閉じ込めている石球ごと押し潰したアルジェだったが……その石球に亀裂が走り、驚愕する。



 対してフィルは、迷う事無く上空に飛び……金属柱の頂上へと飛び蹴りを加えた。



 ”ドゴオオン!!”



 その攻撃はアルジェの攻撃を全力で後押しする為だった。しかし……。



 ”ビシ! バギキィ!”

 


 玲人が埋まる石球からだけでは無く金属柱にも亀裂が入り、石球のヒビも更に成長する。




 「……私達では……やはり……でも、負けません!」



 アルジェはそう叫んで、割れようとする金属柱を補強する為、周囲に落ちている砕けた岩を集め金属柱に押し付けた。


 その上でフィルに向けアルジェは叫ぶ。



 「フィル! 貴方も力を貸しなさい!」



 アルジェの声を聞いたフィルは、金属柱の天辺で光の輪を生み出し……金属柱と固められた岩の上から、幾重にも光の輪を巻き付け強化する。



 「……私達の力……あの方に示すわよ……!」

 「はい、姉様!」



 アルジェとフィルは必死に能力を発動しながら、互いに叫びあうのだった。





 ◇   ◇   ◇





 「玲人!!」



 アンちゃんを操りレリウスを倒した仁那だったが……玲人に向け落された、余りに巨大な金属柱を見て叫ぶ。


 仁那(体は小春)の意識奥では、小春も早苗も玲人が受けた攻撃を見て、同じ様に叫んだ。



 そんな彼女達を余所に、特殊技能分隊による総攻撃を受け、大破した筈のレリウスに動きが見られた。


 レリウスは僅かに震えると……その胴である球体が眩く輝く。



 すると……瞬く間に破壊された部位が復元されてしまう。



 ”ヴオン!”



 そして不思議な音と共に、結界を展開したレリウスはゆっくりと立ち上るのだった。




 レリウスは起き上がると、アンちゃんの方を向き対峙する。



 「……悪いな……マニオス様の覚醒の儀を止める訳に行かなくてね……。もう少し、このオモチャで遊んでてくれ……!」



 リジェは両手の平を顔の前に合わせて、申し訳無さそうに仁那(体は小春)に向け謝った。



 ”……仁那……ちょっと替わってくれないかな? あのリジェって人に聞きたい事が有るんだ”


 (うん、分ったよ)



 リジェの謝罪を意識奥のシェアハウスで聞いた小春は、仁那と交代して貰う様に頼んだ。




 「……やっぱり……玲人君が戦う事を邪魔されたくないんですね……?」



 仁那と意識を交換した小春は、リジェから距離を置いて向き合い……真剣な顔で問う。



 「今は、小春だね? ……小春……アタシに取って一番大事なのは……恩義に報いる事さ……。その恩義は、お前とマニオス様にある……。お前とマニオス様の為なら……アタシは、アタシ等は……命を賭けて戦うさ」


 「……僭越ながら……この私もリジェ様と、同じ気持ちです」


 強い覚悟で言い切るリジェに、対し横に立っていたシャリアが静かに話す。



 「……貴女達の言葉に……嘘が無い事は……何故か、凄く分る……。貴女達が、わたしや玲人君をとても大切に思っている事は……本当に良く分るの……。でも! それでも、玲人君を戦わせない!」



 小春はリジェとシャリに向かい合って……力強く答えた。


 小春の想いが伝わったのか、美術館外のアンちゃんがレリウスに対し戦闘態勢で構える。



 「……やっぱり……こうなっちまうか……流石は小春だな……」



 自分に対峙する小春は寂しそうに笑いながら……彼女を讃える。



 どんな状況になっても……折れず立ち上る姿は、前世のエニや、同化したマセスと全く変わらなかったからだ。



 リジェはいつまでも変わらない小春に、嬉しく思いつつ……彼女と対峙しなくてはいけない、自分の立場を少し憂いだ。




 「……それで? お前らはどうすんだ?」


 そしてリジェは、自分と小春の間に立つ3人の少女……ローラ、キャロ、レーネに問うた。



 問われた彼女達は……。



 「……師匠……すまない……散々世話になっておいて、アレだけど……私は、小春の傍に付きます」


 「私も……同じ気持ちです」


 リジェの問いに……先ずは、彼女の弟子であるキャロが答え、続いてレーネが答える。



 「リジェ様……私達は、このカリュクスの騎士に任命された後……誓いを立てました。……私達3人は、どんな時でも、小春を守ると……だから、私達は小春と共に歩みます」


 そう言い切ったローラ。彼女の言葉に、キャロもレーネも頷き合う。




 特にエニとマセスに縁が深い者達の内より厳選されたローラ、キャロ、レーネの3人は……小春専属の護衛である、カリュクスの騎士に任命されてから……自分達の立ち位置を決めていた。


 例え、その道が……師であるリジェ達と反目する立場となったとしても、ローラ達は小春の傍に居ると決めたのだ。




 そんな彼女達の決意を感じたリジェは……。




 「アハハ! お前達も、予想通りで安心したよ! お前達は、全力で小春を守ると良い……。アタシ等も全力でマニオス様を復活させるから。お前達は、お前達の信じた道を行くがいいさ。精々気張りな!」



 改めて決意表明したローラ達を見て嬉しそうに答えた。



 リジェやガリア達、12騎士長は……マセスと同化したエニである小春を、心身共に守り支える存在として、彼女達を選んだ。


 小春の意志に従い……リジェ達に反目する事は、寧ろ望んでいた事だった。




 「……フフフ……良い感じに盛り上がって来たね! なら! アタシも改めて……宣戦布告するよー!!」



 今の今まで、小春の傍で黙ってフヨフヨと浮かんでいたアリたんが突然……大喜びで声を上げる。


  

 すると……。



 “ヴォン!”



 美術館外で、レリウス対峙するアンちゃんの上空で……ブラウン管テレビを付けた時の様な、低い音と共に何も無い黒い大穴が開いた。



 そして、そこから―― 



 “ドオオン!!”



 何やら巨大な物体が落下し、地響きを響かせる。


 地上に降ってきた、それは……巨大な人型のレリウスだった。

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