249)フィルとの戦い⑦

 アンちゃんを操る仁那と意識奥から小春と早苗による連携攻撃で、レリウスに展開されていた障壁は砕け散った。



 それを見た仁那はアンちゃんを操作し、勢いを付けて強力な飛び蹴りを加える。



 ”ガゴオン!”



 アンちゃんの飛び蹴りで、大きな打撃音と共にレリウスはその球体の胴部に大きな凹みが生じた。



 ”ビュ……ビュビビ……”



 おかしな音を立ててレリウスはよろめく。どうやら大きなダメージを受けたらしく、両足を構成する金属板が分離しそうだ。



 『しめた、チャンス!』『有難う、小春ちゃん!』



 障壁を破壊されたレリウスを見て、前原達は叫び銃撃を開始する。



 ”ダダダダダダダ!”



 アンちゃんの攻撃で障壁を展開できず、エクソスケルトンからの銃撃を受けたレリウスは、手足の金属板もボロボロと破壊され、更にふら付く。そこへ……。



 ”バカアアン!!”



 大きな爆発音と共に、突如レリウスは爆炎に包まれた。



 『な、何!?』


 『……落ち着け……俺だ。お前達の攻撃は見ていた。このポイントからお前達を支援する』



 突然の爆発に驚いた沙希だったが、すぐに伊藤が通信で名乗りを上げた。



 どうやらこの爆発は伊藤が狙撃銃で、レリウスに向け焼夷榴弾を放ったのだろう。


 伊藤の狙撃は止む事無く続き……。



 ”バアアアン!”



 遂にレリウスは、その球体ボディより火を噴きゆっくりと倒れる。



 ”ドオオン!”



 轟音を立てて後ろ向きに倒れたレリウスは、そのまま動かなくなったのだった。




 ◇   ◇   ◇




 「……流石は小春様……レリウスの結界を砕いて、突破口を作られましたか……」



 レリウスが倒れたのを見て、アルジェが笑みを浮かべ呟く。



 「余裕だな……君達には悪いが、俺も後に続こう……」



 レリウスとアンちゃん達の戦いを背景に、玲人はフィルの剣を受けながらアルジェに向け呟く。



 「……最強の存在である貴方様に、挑もうなど……無理も承知です。ですが……貴方様に私達の成長を知って頂きたいと思います。フィル、行きますよ!」


 「はい!」



 アルジェの叫びにフィルは元気よく答えた。そして……彼はその体を更に白く光らせると……8人に分身した。



 「倍か! やるな!」



 8人に分身したフィルは一斉に玲人に迫るが、玲人は嬉しそうに叫んだ後……巨像の腕を構えさす。



 転移を繰り返して8方向の時間差攻撃を仕掛けたフィルだったが、振り回された巨像の腕がカウンターとなり、分身が解ける。



 転移による分身が解け一人となったフィルが吹き飛ばされた。



 フィルに向かい追撃しようとした玲人だったが……。


 

 ”ズリュ!”



 玲人の足元が突如、液状化してぬかるみ……粘性のある泥の様になって足に絡み付く。



 一瞬、気を取られた玲人だったが……。



 ”頭上だ!!”



 意識奥から叫ぶ修一の声で、巨像の腕で頭上をガードする。



 ”ガガガン!!”



 巨像の腕が防いだのは大きな岩だ。全く唐突に玲人の頭上から1m近い大岩が幾つも降り注いだのだ。



 大岩の落下を巨像の腕で防いでいる玲人だったが、足元の液状化はどんどんと進行し、彼の体は沈み始める。


 しかも頭上から降る大岩は、休む事無く降り注ぎ……玲人は落ちて来た岩で埋もれそうだった。



 玲人は足元を取られ、頭上の大岩を何とか防ぐ中、アルジェを見ると……彼女は右手を前に向け、能力を発動していた。



 この特異な攻撃は全て、アルジェの仕業の様だ。その彼女が目をカッと開き叫ぶ。



 「掌握!!」



 彼女の叫びと同時に、落下してきた全ての大岩が一斉に玲人を押し潰す。



 次いでアルジェが右手をグッと握り締めると……。



 ”ガキュッ!!”



 玲人を押し潰す大岩は、有り得ない圧力を受けた為か……甲高い音を立て細かく砕けて大きな球体となる。



 しかも、更に強力な圧力を受けているのか、更に体積を減少させ、玲人を圧潰していく。



 「フィル! 今よ!」


 「はい、姉様!」



 玲人を容赦なく圧潰させているアルジェは、フィルに追撃を指示する。



 フィルは又も、瞬間的に転移を繰り返し、又も8人に分身した。


 そして……玲人を押し潰す石の球体に目掛け、8方向からの同時攻撃を行う。



 ”ガイイン!!”



 瞬転移を繰り返しながらの同時攻撃は極めて強力で、地響きと共に衝撃波が発生し……周りの木々を大きく揺らす。



 「仕上げです!! フィル、離れて!!」



 フィルの同時攻撃の後、アルジェは両手を天に向けて大きな声で叫ぶ。



 彼女の声を受けて、フィルは後方に飛び去った。彼が下がると同時に……天より巨大な金属製の円柱が現れる。



 ”ズズズ……”



 現れた金属柱は、完全に姿を現すと……突如、恐ろしいスピードで落下し、玲人が圧潰されている石の球に激突する。



 ”ゴガガアア!!”



 激突した金属柱は、炎の様な揺らめきを見せていた。その金属柱は直径4m、高さ10m程の巨大さだ。



 「……う、うぐ! ……オ、オウリハルク製の金属柱です……。し、城の備蓄庫より……て、転移させました……! この大質量……! 幾ら、貴方様でも……!」



 アルジェは空から落下させた巨大な金属柱に、能力を付加させて更に落下エネルギーを増大させて、玲人を押し潰す。



 このオウリハルクと言う金属は、アガルティア城で素材として扱う金属の中で、最も高い強度と、大質量を持つ。


 流石のアルジェも、この金属を転移させ、操るのに精神を擦り減らしている様だ。



 しかし……。


 ”ビキイイ!!”



 甲高い音と共が響いたかと思うと、玲人が閉じ込められている石球に亀裂が走る。



 「!?」



 アルジェは亀裂を見て驚愕し、絶句するのだった……。


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