248)フィルとの戦い⑥

「……来た……!」



 玲人とフィル達の戦いを静かに見守っていた小春が唐突に呟く。



 そんな小春に傍に居たリジェが声を掛けようとした時……。




 ”ドオオオン!!”




 美術館の外で大音響が響く。



 何事かとリジェやシャリア達が外を見ると……巨大なレリウスが地に倒れており、白い女性型戦闘用アンドロイドである”アンちゃん”がレリウスを踏み付けていた。



 どうやらアンちゃんがレリウスを蹴倒した様だ。




 「……これは……」


 「フフフ……アハハ……小春はお転婆だな! ジッとしていられず、乱入かい?」



 外の状況を見てシャリアが驚く中……リジェは可笑しそうに問う。



 「……そんな所です。玲人君が……二人相手に戦うなら……わたし、いえ……わたし達も黙っていられません」


 「こ、小春……」



 リジェ相手に静かに言い放つ小春を見て、背後に居たキャロが彼女の強い意志を感じて、驚きながら呟く。



 「……いいね! さすが、それでこそエニ……いや、小春だ! ……だけど、今のマニオス様相手に、小春まで加われば、フィルとアルジェには荷が重すぎる……。だからさ、ヘレナ……あのレリウスでお相手しな」


 「分りました……」



 小春の言葉を聞いてリジェは嬉しそうに叫んだ後……透明な少女ヘレナを呼び出し、指示を与えた。



 呼ばれたヘレナは一瞬でリジェの横に姿を現し、静かに応える。



 すると……。 



 アンちゃんに蹴倒されたレリウスが何事も無かったかの様に、ゆっくりと起き上がった。



 そして起き上がったレリウスは、胴となっている球体に忙しく光りを走らせる。


 どうやら、目の前のアンちゃんを敵と認証した様だ。  



 「仁那! お願い!」



 此処で小春は、意識奥のシェアハウスで控える仁那に向けて叫ぶ。



 ”まーかーせーてー!!”



 仁那は嬉しそうに大声で叫びながら小春と意識を交替した。



 次の瞬間、仁那(体は小春)はしゃがんだかと思うと……一瞬で後方に宙返りしてリジェから距離を取る。   



 「「小春!?」」


 「小春ちゃん!」



 予想外の動きを見せた仁那に対し、意識が切り替わった事に気付かなかった護衛のローラ達が驚いて叫ぶ。



 「……ローラちゃん達……今の小春は、小春であって……小春じゃないよー。この感じは仁那ちゃんだね……。前世のお淑やかさは、何処かに置いて来ちゃったのか……元気いっぱいの野生格闘少女だよー」



 驚いたローラ達に対し、ミカンを模したアバターであるアリたんが、間延びした声で答える。



 アリたんの正体は、アガルティア城の中央制御装置と肉体を接続し、城の管理を司る16人の少年少女達の一人である、アリエッタだ。



 そのアリたんの言葉を聞いたリジェは……。



 「全くだな! マセス様の小さい時も、多分こうだったんじゃないか? まぁアタシに取っちゃ、元気な方が何倍も嬉しいけどな!」



 飛んで距離を取った仁那に向けて、リジェは嬉しそうに話した。



 「ケーキ有難う! でも……今は、玲人を助けなきゃ!」


 「えーっと……マセス様、いや……今は、仁那ちゃんだったな……。仁那ちゃんよ、信じちゃ貰えないかも、だけど……アタシらはマニオス様の為に、こんな事やってんだ。だから……一緒にケーキ食って、終わるの待ってようぜ」



 叫んだ仁那に対し、リジェは優しく声を掛ける。



 「うん、何となくだけど……それは良く伝わるんだ……。でも、この戦いは……玲人や私達が望んでる事じゃ無い……。だから、ゴメン……!」


 「そっか……じゃ、せめて一緒に人形遊びだな! ヘレナ……小春達が怪我しねぇ様に、この場を全力で守りつつ……レリウスで適当に相手してやってくれ」


 「はい、お任せを」



 構えながら決意した仁那(体は小春)に向け、リジェは嬉しそうに答えながら、傍らのヘレナに指示を出した。



 ヘレナが応じたと同時に、美術館外のレリウスがアンちゃんに向かい攻撃を仕掛けた。



 レリウスは両手を振り回しアンちゃんを襲う。しかし仁那はアンちゃんを飛び上がらせ、上空で回し蹴りを決める。



 ”ガギイン!”



 仁那の能力で強化された蹴りは、一瞬巨大なレリウスをよろめかせたが、直ぐに姿勢を正してアンちゃんに向け突進する。



 巨体でアンちゃんを押し潰す心算らしい。しかし、ここで仁那は叫んだ。



 「小春!」 ”うん、分った!”



 仁那の叫びに、意識奥で小春が答える。すると……。



 ”ガクン!!”



 突然、レリウスの動きが静止して動かなくなった。どうやら小春が能力を発動して、レリウスを静止させている様だ。



 ”ううう!”


 「小春、そのまま止めといて!」



 仁那は意識奥から頑張る小春に声を掛け、動かくなったレリウスにアンちゃんの拳をぶつける。



 戦闘用アンドロイドに、仁那の能力で強化された、その一撃は……コンクリートすら簡単に粉砕する破壊力だが……。



 ”バイン!”



 レリウスが展開する障壁に、アンちゃんの打撃は防がれてしまう。



 そこへエクソスケルトンを駆る前原と沙希が現れ……スピーカー越しで声を上げる。



『小春ちゃんか!?』


 『助太刀するわ!』



 そして前原達はエクソスケルトンに装備された重機関銃で背後からレリウスに向け発砲した。



 ”ダダダダダ!!”



 彼等のエクソスケルトンはレリウスに吹き飛ばされた為か満足に動けない様だが銃による攻撃は問題無い様だ。



 しかしエクソスケルトンの銃撃も、レリウスの障壁に阻まれる。



 ”私に任せて”



 意識奥から仁那に早苗が声を掛ける。その声と共にレリウスの周りに黒い鎖が現れ……巨体に巻き付く。



 ”小春ちゃんはそのまま、抑えてて。仁那ちゃんは私の合図と共に、思い切りぶん殴って”



 ”分りました、早苗さん”「うん、分ったよ」



 早苗の声に小春と仁那が其々応える。


 それと同時に、レリウスに巻かれた鎖は、白く光りを放ちながら振動し始める。その振動により、レリウスの障壁にひびが入り出した。



 ”今よ!”


 「うおおお!」



 早苗が意識奥から合図すると、仁那は叫びながらアンちゃんでレリウスに飛び蹴りを加える。



 すると……。



 パリン! と言うガラスの割れる様な音と共に障壁が砕け散ったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る