247)フィルとの戦い⑤

 「玲人君!!」

 「小春!」



 美術館内部に居た小春は、フィルと戦い合っていた玲人を見て叫び、玲人もその名を呼ぶ。


 互いの姿を見て叫び合った瞬間……美術館の窓ガラスは又も、見えなくなった。



 「……ご安心頂けたでしょうか? 小春の傍には、12騎士長が一人リジェ様が控えております。ですので、何もご心配頂く必要は有りません……。玲人様には続き、フィルとの覚醒の儀を続けて頂きます」



 小春が美術館内部に居て、驚く玲人の背後にアルジェが声を掛ける。



 「……今すぐ小春を解放しろ……今すぐにだ!」



 そう叫んで、玲人は全身から黒いモヤを放ち……巨大な2本の腕を創り出した。



 「此れは……! フィル、本腰を構えなさい!」


 「はい、アルジェ姉様!」



 玲人が生み出した腕を見てアルジェは発破を掛けた。



 「……玲人様の強い気持ちは伝わりました……。巨像の力を出された以上……フィル一人では厳しいでしょう……。僭越ながら私もお手伝いさせて頂きます。

 小春様の元へ向いたいのであれば……私共姉弟を退けて頂く必要がございますわ」


 「言われるまでも無い……」



 アルジェは玲人にそう伝えると、彼も本気で応える様に話す。


 

 こうして……玲人対フィルとアルジェとの戦いが始まった。



 フィルは禍々しい鎧に白い光を纏わせ臨戦態勢だ。アルジェは彼の少し後ろに立つ。



 彼女は直接、玲人と戦う気は無い様だ。対する玲人はドルジ戦の時に初めて現れた漆黒の腕を背後に浮かして静かに構える。



 玲人と向き合うフィルとアルジェ……。最初に動いたのはフィルのの方だった。



 彼はまた、体を4体に分けて4方向から玲人に迫る。玲人は一歩も動かず、背後の腕のみが動きフィルの迎撃する。


 玲人の2本の腕は前と左右から迫るフィルを挟み撃ちする様に薙いで攻撃すると、3体のフィルは残像だった様にカスミの様に搔き消えた。



 上空から迫るフィルを漆黒の腕で突くと、コレも幻だった様に考えてしまう。



 本当のフィルは真上から迫り、頭上から蹴りを入れたが、玲人は動かず腕が瞬時に頭上に移動してコレを防いだ。



 「……失礼しますわ!」


 ”キュド!!”


 そんなアルジェの事と共に玲人の真正面より、極太の光線が迫った。これはアルジェが放った攻撃だ。



 玲人は此れも動けず直撃した。しかし……アルジェが放った光線は彼を境に弾かれ、左右に分離するして、背後の林を貫き焼き尽くす。



 アルジェの野太い光線を弾いた玲人の眼前には……漆黒の腕が彼を守る様に障壁を展開していた。     


 玲人が生み出した腕が障壁でアルジェの光線を防いだ様だ。



 「フィル! もう一度 二人で行きますわよ!」


 「はい!」



 玲人の腕で、自分達の連携攻撃を全て防がれたアルジェ達は、声を掛けあい再度、玲人達に攻撃を仕掛けるのだった。




  ◇   ◇   ◇ 




 「あっちゃー! マニオス様を怒らせちまったか! アルジェが助太刀したとしても……ちょっと拙いかなー?」



 玲人が漆黒の腕を生み出してフィルとアルジェと戦う所を見て……美術館内に居るリジェは額に手を当て呟く。


 「…………」


 対して小春は、そんなリジェに答えず……黙って玲人とフィル達の戦いを見つめる。




 小春は戦う玲人の無事を祈りながら……この瞬間も、彼を助ける作戦を進行中だった。




 (……早苗さん、仁那……どうですか、アンちゃんは?)



 意識奥に設けられたシェアハウスに居る、早苗と仁那に小春は呼び掛ける。



 ”ええ、小春ちゃん……今、仁那ちゃんが意識を飛ばして、アンちゃんに呼び掛けているわ……少し時間は掛かるけど……もうそろそろだと思うの……”



 二人は作戦指揮通信車内に配置されている戦闘用アンドロイド、通称アンちゃんを呼び起こそうとしていたのだ。



 小春達の中で、最もアンちゃんの操縦に長けている仁那は……シェアハウスの中で祈る様に目を瞑り、手を組んで静かに祈る様に座っている。


 小春が肉体の主導権を持つ状態での、アンちゃんの呼び出しは、相当に集中力を必要とする様だ。




 暫く祈る様に精神を集中していた仁那だったが……目をカッと開き叫ぶ。



 ”……よし! 繋がった! ……今から、呼ぶよっ!!” 




  ◇   ◇   ◇




 シェアハウスで仁那が叫んだ頃……。


 作戦指揮通信車の内壁に設置されていた白い躯体の女性型戦闘用アンドロイド”アンちゃん”が……突然ガタガタと震えだす。



 「!? な、なな何!? 今度は!? これ以上勘弁してよ!」



 突然動き出したアンちゃんを見て、傍に居た志穂が腰を抜かさんばかりに驚いて声を上げる。



 この美術館での作戦で全く予期しなかったフィル達やレリウスの襲撃を受け、宅配トラックに偽装された作戦指揮通信車の中は大混乱の最中だった。



 そんなイレギュラー続きの中……今度は作戦指揮通信車の中で起こった異常に、志穂の精神は掻き乱されたと言う訳だ。



 対して、この車内に詰めていたもう一人の梨沙はと言うと……。



 「こ、これは! もしかして小春ちゃんが……!?」



 激しく振動するアンちゃんを見て、特殊技能分隊の部隊長である梨沙は、以前のドルジでも見られた状況を思い起こし叫ぶ。



 そう、此処にいない筈の小春が、アンちゃんを起動しようとしている事を察したのだ。



 そんな梨沙と志穂が激しく振動するアンちゃんを見つめる中……。



 ”バギン!”


 

 突然、アンちゃんの拘束具が独りでに外れた。そして自由となったアンちゃんはゆっくりと立ち上ったかと思うと……。


 

 ”ドン!!”



 風の様に素早く動き……作戦指揮通信車のハッチを蹴破って、外へ飛び出すのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る