246)フィルとの戦い④

 予測不能なフィルの同時攻撃を受け、玲人は何とか倒れず姿勢を保ちながらも、内心は混乱していた。



 (い、いったい……どう言う事だ!? 彼は一人の筈……!)



“落ち着いて玲人……アレは転移攻撃だ……しかも、高度なフェイント組み込んだ技だよ。僕が見分けるから、玲人は合してくれ”



 (了解だ)



 戸惑う玲人に対し、心の中から修一が冷静に声を掛ける。二人がやり取りする間をフィルは待つ訳も無く……正面から突きに来た。



 “これは残像によるフェイクだ! 本命は左下からの切り上げ!”


 (ああ!)



 玲人は修一の指示を信じて、正面のフィルを無視した。左下からの気配に集中すると白い光を纏ったフィルが突如現れ、手甲と一体化した剣で斬り上げてきた。


 玲人は修一からの指示のお蔭で、突如現れたフィルの斬撃に黒針で受け対処する。



 “次! 背後からの斬撃が来る!”



 修一の感知に玲人は振り返りもせず、黒針を片手で背に回しフィルの斬撃を防いだ。


 正面に迫ったフィルの姿は搔き消え、今度は同時に左右から薙ぎに来た。



 “左はフェイント、右に対応!” 


 (ああ!)



 玲人は修一の指示通りにフィルの攻撃に対応する。攻撃を全て受け止められたフィルは後ろに下がって呟く。



 「……流石です……僕の攻撃は分りにくいって言われるのに……でも、まだ行けます……!」



 そう話したフィルは4体に分かれて同時攻撃を仕掛けた。彼は左右と正面そして上空からの4方向から突進してくる。



 フィルは何のモーションを見せず、一瞬で攻撃体制の状態で玲人の間合いに飛び込んで来た。



 “全部フェイント! 本命は遠方からの砲撃だ! 結界を展開して!”


 (了解!)



 修一の指示を受けた玲人は、結界を展開する。修一の読み通り、4人のフィルは同時に消え……眼前に光球が迫り玲人に直撃した。



 “バガアン!”



 光球は爆発して炎が玲人を包む。爆発の衝撃波により周囲の木々は折れ……遊歩道は破壊された。


 しかし玲人は結界を展開をしており、炎の中から無事な姿を見せる。



 「……今のも防がれるとか……やっぱり、凄いよ……。でも、まだ頑張れる」



 そう言ってフィルは再度4人に分かれて玲人に攻撃を仕掛ける。



 「またフェイントか!」


 “いや、違う! 転移を瞬間的に繰り返している! 全員本物、4方向からの同時攻撃だ!” 


 「ちぃ!」



 修一から4方向同時に来ると知らされた玲人は舌打ちする。


 フィルは左右と前方……そして背後から迫り、同時に斬り掛かってきた。



 瞬間的に転移を繰り返している為か、同じ人間が4人向かって来る様にしか見えない。


 前後左右から斬り掛かられた玲人は上空に逃げるしか無く、ジャンプして回避しようとした。




 しかし……飛び上がった上空ではフィルが既に攻撃体勢で構えていた。




 玲人が上空に逃げる事を読んでいた様だ。


 流石の玲人も、フィルの先読みされた攻撃は躱せず、マトモに強力な蹴りを受けてしまう。



 “ガギイン!!”



 玲人は上空で蹴られ、遠方に飛ばされたが……フィルの攻撃は止らない。



 フィルは宙に浮かびながら、地上の大きな木を能力を使って引き抜いて浮き上がれさせた。


 そして引き抜いた木を、巨大な矢の様に玲人に向け放った。



 落下中の玲人は、回避する事も叶わず……放たれた巨木に激突し、そのまま木と共に美術館の方へ飛ばされたのだった。



 “ドオオオン!!”



 レリスが立つ美術館裏庭に、玲人は投げられた巨木と共に大音響を立てて、地上に激突した。



 その衝撃は凄まじく……裏庭の地面はひび割れ、大きな石が飛び散った。


 巨木と玲人の激突で土石が飛び散り……大きな石が美術館の方に飛んで行ったが……。



 “バチチィ!!”



 飛び散った石は、美術館のガラス窓に触れる前に……見えない壁に弾かれ砕け散った。


 よく見れば、透明な膜の様な壁が美術館を覆っている。



 「……やれやれ……元気過ぎると言うのも、困ったモノです……」



 そう言って美術館の前に、透明な少女ヘレナが現れた。ヘレナを見たアルジェが丁寧に礼を言う。



 「ヘレナ様……愚弟のフォロー、有難う御座います」


 「いいえ、大丈夫ですアルジェ……。死体処理に比べ大した手間では有りません。此処で小春を守りますので……どうぞ、安心して戦って下さい」




 「……い、今……小春と言ったか……!?」



 アルジェに答えたヘレナの言葉に玲人が驚き大声を出す。



 玲人はフィルの攻撃を受けて地面に大木と共に叩きつけられたが……咄嗟に障壁を展開してどうにか無事だった。



 しかし、衝撃は凄まじく何とか起き上がった訳だったが……その時に聞いたヘレナ達の会話を聞いて、黙ってられ無かったと言う訳だ。



 静かな怒りを湛える玲人に対し、ヘレナは深々と頭を下げて答える。



 「……初めまして、玲人様……ご質問の通り……小春なら、その窓向こうで玲人様の戦いを見ておられます。ですが……この私が全身全霊でお守りしますので、何の心配も要りません」



 「……その姿……映像か何かだろう……。君が何者か知らないが……今すぐ、小春を返して貰おう……」


 「ご心配は分りますが……私にとっても小春は何より大切な親友です。ですから、ご覧下さい」



 フィルとの戦いの最中……ヘレナに迫る玲人だったが、彼女は笑顔で答え……透けて見える右手を、背後の美術館を示す。



 すると……。見えなかった筈の窓ガラスが透けて、内部が見えた。



 「玲人君!!」



 そこには玲人を一心に見つめながら立ち上って叫ぶ小春の姿が在った……。



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