242)フィルとの戦い②
前原達のエクソスケルトンの前に落ちて来た真黒い球体型のレリス。そのレリウスが突然浮き上がり、その巨体に白い光が激しく走り抜ける。
そして一際輝いたかと思うと……レリウスの真上の空中に大穴が開き、白い光が穴から降り注ぎ……光の柱となってレリウスを包んだ。
光の柱は一瞬で消えたが……その後に現れたのは、先程の丸い球体だけのレリウスとは全く違うモノが立っていた。
それは丸い3mの球体を中心に、金属板が連なって出来た手足を生やした巨人だ。
球体部が胴体に当たり、六角形の金属板が浮いた状態で連なりスプリングの様な形態で両手足を構成していた。
両手足の先には鋭利な3本爪が生えている。その爪は、水銀の様な流動性のある金属で作られており、自在に動かす事が出来て指の様な役割を果たしていた。
胴体となった3mの黒い球体の頭上には、3つの別な球体が浮かんでいる。各々には丸い目の様な光が輝いており、頭上をクルクルと監視する様に忙しく回っている。
丸い球体を核にして立ち上った巨人は、歪だったが全高は6m程もある。
突如にして現れた異様な巨人に……その場に居た特殊技能分隊の面々は戦慄するのであった。
◇ ◇ ◇
「……な、何なんだ……アレは……!?」
「見た限り…ロボット? みたいだけど……エクソスケルトンとは全然違うね……。手とか足とか、浮いちゃってるし……」
作戦指揮通信車に居る梨沙少尉と志穂隊員は、突然現れた巨人を見て、驚き呟く。
「そ、そうだ……玲君は?」
「……ああ、あの子達と戦っている……」
そう話した梨沙と志穂の2人が作戦指揮通信車のモニターを見ると……モニターの画像には玲人とフィルと呼ばれた少年が戦い合っている。
フィルは素早い連打を玲人に浴びせるが、彼は丁寧に捌いている。
攻撃が通じていないにも拘らず、フィルはとても嬉しそうに見える。玲人と戦い合える事自体が楽しくて仕方が無い様だ。
対して玲人は捌く動作も乱れず、冷静に対処していた。
二人の動きに余裕があり、どちらも本気を出し合っていない様だ。
「……一体、何者なんだ……あの子達は……」
「この前の……ドルジって奴の仲間みたいだけど……まさか、あんなのを呼び出すなんて……。とにかく、今は対処が必要だ。志穂は無人機を増やして監視体制を強化して。あたしは本部に応援を要請す……」
『ま、待て!』
梨沙が話し終える前に、スピーカー越しで玲人の声が響く。どうやら現場で動きが有った様だ。
梨沙と志穂がモニターを見つめると……そこには巨人が木々を薙ぎ倒しながら美術館裏より移動している状況が映し出されたのだった。
◇ ◇ ◇
突然動き出した巨人……。6mの巨体は身を翻し、木々を押し倒しながら美術館裏より移動を始めた。
玲人と戦っていたフィルも、彼に一礼すると巨人の後を追う。巨人を呼び出したアルジェは、胴体を構成する球体の上に立っていた。
どうやら、彼女が巨人に指図している様だ。
「待て!」
巨人と共に動き出したフィルに向かい、玲人は叫び……彼の後を追った。
『……俺達も追うぞ!』『ええ!』
エクソスケルトンに乗る、前原と沙希も巨人の後を追う。あの巨人を放置すればどんな被害が出るか分らないからだ。
◇ ◇ ◇
「漸く、止まったか……」
突如、動き出した巨人とフィル。アルジェは巨人の胴体に当たる球体の上に立っていた。
玲人と前原達エクソスケルトン組は、それらを追って来たが……巨人とフィルは有る場所でピタリと立ち止まり、玲人達を待ち構える様に立っていた。
巨人とフィルが止っていた場所は……国立美術館の裏庭だ。
そこは整えられた庭園と芝生がひかれて、背後には木立が広がっていた。
中庭に隣接している国立美術館は全面ガラス張りだったが……美術館の屋内は見通す事が出来ない。
恐らく美術館内部からは見えるのだろうが、玲人達が居る外側からは見えない仕様になっている様だった。
玲人達が到着した事を見計らって、球体の上に立っていたアルジェが軽々と地上に降り立ち、彼らに話し掛ける。
「……此処まで、御足労頂き有難う御座います。恐れながら皆様方には、この場所で戦って頂きます。そこの美術館には大切なお客様が、皆様の戦いをご覧になります。
こちら側からは美術館の内部は見えない仕様になっておりますので、周囲の目を気にせず、存分に戦ってくださいね」
アルジェは毒の無い笑顔で丁寧に話すのだった。
◇ ◇ ◇
「あ、あれは! 玲人君!?」
国立美術館の大広間から中庭の様子を見ていた小春が叫ぶ。
ついさっきまでシャリアが出して来たケーキを頬張っていた仁那だったが、散々食べて満足した所で小春と意識を替わった。
その小春は、何処かから戻ってきたリジェと並んでお茶を楽しんでいた時に……。
突如、地響きと共に現れた歪な巨人と……それを追って来た黒いスーツ姿の玲人を見て、小春は思わず立ち上がって叫んだのだった。
玲人がヘルメット越しで見つめる視線の先には、厳つい鎧を着てはいるが……幼い顏の小学生位の少年が立っていた。
そして前原達が操るエクソスケルトンの前には、歪な形状の巨人が立つ。その間には可愛らしい少女が笑みを浮かべて立っていた。
「……一体、何が、始まるの……?」
突然現れた玲人達と謎の巨人と少年……。只事では無い状況に小春が呆然と呟くと、彼女の前に座っていたリジェが待ちくたびれた様子で話す。
「おー、やっと来たかー。アイツ、ノンビリ屋だから心配したぜ」
リジェはティーカップを口にしながら、玲人に向かい合うフィルを見て答えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます