241)フィルとの戦い①

 長田達真国同盟のテロリストが一掃され、もはや戦いは終わりと思われた中……。



 フィルが鎧を纏った姿を見て、玲人やカメラを通じて現場を見ている梨沙少尉達に緊張が走った。


 フィルの鎧は、意図したモノか……顔を覆う兜は無かった。しかし、その幼い容姿に反して身に纏っている鎧は凶悪だった。


 甲虫の様な鋭利な棘が全身に生え、両手甲には角の様な剣が生えている。




 彼の鎧を見て、先に戦ったドルジを思い起こした玲人は……アルジェ達に問うた。



 「……やはり……君達もドルジとか言う奴と……同じ仲間なのか?」


 「はい、玲人様……。ドルジ様はアガルティアが12騎士長の御一人です。遥かな過去……私と義弟のフィルは、玲人様の前世で有られるマニオス様によって……戦地で死に掛けていた所を救われ……アガルティア国に連れて来て頂きました。

 そして私達はドルジ様と同じ12騎士長であるアルマ様とリジェ様に弟子入りしております。私はアルマ様の元で……フィルはリジェ様の元で、それぞれ師事を受けている次第です」



 玲人に問われたアルジェは、丁寧な言葉使いで返答する。



 「……アルマにリジェ……それと、アガルティアの国……」


 「はい、アガルティアの城では……玲人様とマセス様と同化した小春様の御帰りを3万の民達がお待ちしていますわ」


 「……3万、だと……?」



 アルジェが答えた情報に、玲人は驚愕する。ドルジが現れてから、自分と同じ存在であるアーガルム族が他にも居る事を知った。


 それは理解したが、アルジェの情報で国まで作り……尚且つ3万もの民が生き残っている事に驚いたのだ。



 「ええ、貴方様とマセス様が救った民達です。……長話が過ぎました……。貴方様が早く民達の元へ戻れるために、今より覚醒の儀を始めさせて頂きますね? 私は見届け役として支援させて頂きます。フィル、貴方も頑張るのですよ!」


 「はい、それでは……参ります!」



 アルジェが話した後、フィルは大きな声で答え……玲人の元へ駆け出した。


 対して玲人は受けの構えを取った。


 まだ、幼さの残る彼に対し、玲人は本気で攻撃など出来なかったのだ。



 しかし、そんな玲人の考えを余所にフィルは右手甲から生えた剣で斬り掛かった。



 「クッ!」


 

 玲人は咄嗟に生み出した黒針でフィルの剣を受け止める。



 “キイン!”


 

 その幼い姿とは反しフィルの剣は、重く玲人は押し負けそうだった。


 だが、フィルは止らない。



 「……続けて、行きます」



 そう呟いた後、フィルは……もう片方の剣で斬り掛かった。続けざまの連撃に怯んだ玲人へ、彼は蹴りを喰らわせる。



 “ドガァ!” “ズサァ!”



 強力な蹴りを喰らった玲人は後ずさりした。しかし、フィルの連撃は止らない。



 彼は間髪入れずに、駆け出し……華麗な前方宙返りの後、凶悪な踵落しを玲人に見舞う。


 何とか両手でガードした玲人だったが、着地したフィルは彼の間合いに入り、両手で掌底を放った。


 玲人はガードが間に合わず、マトモに喰らって背後の木に激突した。



 “バキバキバキ!”



 玲人が激突した木は、余程の衝撃だったのか音を立てて根元から折れてしまった。


 フィルの連続攻撃は恐ろしい速度で繰り出され、しかも隙が無い。流石の玲人も防いでいる間に続いての攻撃を受けてしまった。



 『玲人君!!』



 玲人が吹き飛び、木が折れた様子を見た前原が叫ぶ。


 彼は、突然現れた小さな少年が先日のドルジと同程度の脅威を持つ敵だと、漸く理解する。



 前原は玲人の救出に向かおうと偽装トラックのバンカーから進み出た。彼に合わせ沙希もエクソスケルトンで後続する。




 そんな二人のエクソスケルトンの前にアルジェが立ち塞がる。




 「……お待ちください」


 『そこを退いて頂きたい』



 エクソスケルトンの前に立ち塞がったアルジェに対し、前原は圧を込めて強く迫った。



 「いいえ、覚醒の儀は始まってしまいました。恐れ入りますが、御二人には……座してお待ち下さいませ」


 『……それは出来ない相談よ』

 


 前原の言葉に、アルジェは真摯な態度で侘びて頭を下げて願ったが……後続の沙希が毅然と言い返す。



 「……貴女様達が、戦士としての矜持を御持ちで有る事は……ドルジ様よりお聞きしております。一人戦う玲人様を前に、座して待てと言われても、それは出来ぬ相談でしょう。……ですから……」



 沙希の言葉を聞いたアルジェは深く頷きながら淡々と答えた後……右手を高く上げた。



 すると……。



 “ブオン!”



 彼女の前方の空に大穴が開いた。そして――。



 “ドオオン!!”



 その大穴から黒い大きな何かが落ちて、大きな激突音が鳴り響く。



 「……ですから、この様な趣向でお持て成しさせて頂きます」



 そう言ったアルジェの前に……落ちて来た巨大な何か……。それは直径3m程の真黒い球体だ。



 球体の中心に50㎝程の丸い光が、目の様に輝いている。球体の表面には筋状の光が幾つも忙しそうに走っていた。



 『な、何だ!? コイツは!?』


 「……これはレリウス……。貴方達の言葉で言えば……ロボットと言われるモノです。貴方達が駆る……その無骨なロボットとか言う機体……私共の国では搭乗型のレリウスと言われる代物に該当します。……その機体を駆る貴方達に合わせた次第です」


 『コイツが、ロボット? この丸いが?』


 「ええ、このレリウスは大量生産型の汎用品……。もっとも搭乗型のレリウスでは無く汎用品であるこのレリウスを呼び出したのは、単純に戦力差を考えての事……。大量生産品とは言え……貴方達と我々の技術レベルでは数千年以上の差が有りますので……緊張感を持って対処下さいね」



 驚く前原に対し、アルジェはニコニコしながら説明する。そんな彼女を余所に落ちて来た黒い球体のレリスは活動を始めるのであった。



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