238)イレギュラー

 リジェが館内のテロリストを惨殺した頃……玲人は逃亡した連中を追って国立美術館の裏側までやって来た。



 そこには真国同盟が待ち構えていた。彼らは銃を構えて国立美術館を構成するコンクリートの柱の周りに集まっている。



 玲人は彼等が美術館内部への侵入を試みず、柱の周りに集まっている事に違和感を感じ作戦指揮通信車の坂井梨沙少尉に連絡を取る。



 「……坂井少尉、こちら大御門です、逃げた連中を追って来ましたが……一ヵ所に留まり妙な感じです。指示をお願いします」


 『……了解、玲人。ドローンからの映像を見る限り、真国同盟の奴らは、概ねがそこに集まって居る様ね。状況より何か仕掛けている可能性が高い。そちら側にエクソスケルトン組の偽装トラックを向かわせるわ』


 「美術館内部に連中が侵入している可能性は?」


 『可能性はゼロじゃ無い。しかし、そこに居る奴らが爆発物等を仕掛けているとしたら……事態はもっと悪化する筈よ。本部に指示を受け、追って指示するのでその場に待機して欲しい。伊藤は念の為そちら側で待機してて』


 「了解」『了解』


 坂井の指示を受けた玲人と伊藤は短く返答する。



 玲人はスーツのステルス迷彩機能を起動して木陰に隠れ待機する。こうすれば向こうに居る真国同盟の連中からは玲人の姿を把握出来無い筈だ。





 そうして梨沙少尉からの指示を待っていた玲人だったが……想定外の状況を目の当たりにし驚愕する。


 (あ、あれは!? 馬鹿な、何故こんな所に!)



 玲人が驚いた理由は……今まさに真国同盟のテロリストが屯するこの場に……白いシャツ、白いズボンを来た少年が現れたのだ。



 彼が驚くのも無理はない。テロリストが侵入した、この国立美術館周辺は規制されて第三者の侵入は有る筈が無かったからだ。



 現れた少年はショートレイヤーカットされた金髪の青い目を持つ外国人で、白い肌に真白い服装と……シンプルだが、凡そこの場には浮いた存在だった。



 彼は一見美少女に見える可愛らしい顔だちで、背も低く年齢は恐らく10~12歳と言った所だ。


 玲人が少年と認識したのは髪型と服装からだ。彼が髪を伸ばしスカートを履いていたら間違いなく少女と認識していただろう。



 歳の頃は近くとも、玲人は背が高く鍛えている為に肩幅もある為、一目で男と認識されるだろうが……現れた小柄で美しい少年は中性的な存在だった。

 


 現れた少年を見るや否や……その場に居た真国同盟の連中は、すぐさま彼を取囲む。



 「……こちら、玲人……イレギュラー発生です。幼い少年がこの場に突然現れました」


 『ああ、此方でも確認した。奴らが取り囲んでいる状況もね。ドローンの映像を見る限りでは付近には居なかった筈だけど……。可能性としては貸切客の一人と考えられるわ。いずれにしても状況はさらに緊迫した。玲人……ステルス迷彩機能を有効にしたまま、少年の奪取を試みて。間もなく、其方に前原達の偽装トラックが到着するから』


 「……了解、何とかやってみます」



 梨沙少尉の指示を受け、玲人は短く答えた後……行動を開始する。



 現れた白い服装の少年に対し真国同盟のテロリスト達は彼を取囲み、銃を突き付けて恫喝する。



 「……小僧、何処から来た? とにかく、手を上げ跪け」


 

 テロリストの一人から脅された少年は、言葉が分らないのか……不思議そうな顔をして男が持つ銃にそっと手を伸ばそうとする。



 「ちぃ! コイツ、外国人だからか言葉が通じねェぜ!」


 「恐らく観光客の子供だろう。構わない、銃で小突いて跪かせろ」



 面倒臭そうに話し合うテロリスト達だったが、その内の一人が銃床で少年を殴りつけようとした。



 その時……。



 “キュキュン!!”



 風切音と共に黒い何かが飛来し……少年を取囲んでいたテロリスト達に突き刺さる。



 「ウギャア!!」

 「ギャアア!」



 テロリスト達に突き刺さったのは黒針だ。彼らの手足に10㎝程の黒針が刺さり……穿かれた連中は痛みで地に転がり呻いている。



 助けられた少年はキョトンとしながら、這い蹲るテロリスト達を眺めていた。



 「……大丈夫か?」



 取囲んでいたテロリスト達を倒した後、玲人はスーツのステルス迷彩機能をOFFにしてモノアイの隻眼ヘルメットを被ったまま、少年に声を掛ける。



 すると少年は、不気味な漆黒の隻眼スーツに恐怖する事も無く……心から嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、何か言おうと口を開いが……。



 「両手を挙げろ!」「良くもやりやがって!!」



 少年が何か言おうとした所で、美術館の柱の周りに居た別なテロリストの叫び声が響く。



 此処はまだ安全では無い。真国同盟の残党は、玲人に向け狙いを定めながら発砲しようと銃を向けている。


 「……分った……降伏する……」


 “このままでは少年が被弾する!”と危険視した玲人は、言われた通り両手を挙げて降伏の姿勢を見せた。



 そして両手を挙げた所で、続けざまに彼は叫ぶ。それと同時に右手をグッと握りしめた。



 「潰れろ!!」


 “メキャ!” “バキィ!” 



 すると国立美術館の柱の周りに居た別なテロリストの銃が音と共に一斉に拉(ひしゃ)げた。破砕音の後、一斉に叫ぶテロリスト達。



 「な、なんだ!? い、いきなり銃が!?」

 「こ、こっちもだ!! 一体何が!?」



 動揺する彼等を玲人は見逃さなかった。彼は間髪入れず黒針を生み出し……連中の手足に向け放った。



 「ヒギャア!」「アギィ!」


 玲人が放った黒針は寸分の狂いも無く、狙った通りテロリスト達の手足を貫いた。貫かれた連中は、先に倒れた者達と同様、地に転がり悶絶している。

 


 玲人の傍に居る少年は、その青い目をキラキラさせながら玲人を憧憬の眼差しで見ていた。



 そんな少年に苦笑しながら……この場に居た真国同盟のテロリストは殲滅した筈と、玲人が思った時だった。



 「……やれやれ……こんな結果になるとは……上手くいかないモンだな……」



 そんな呟きと共に、柱の背後から出てくる者が居た。それは……このテロ行為を計画したリーダーの長田だった。


 彼は歩きながら着ていた黒い上着を脱いで見せた。




 柱の背後から出てきた長田を見て、玲人が黒針を生み出し攻撃しようとしたが……。



 「……おっと、止めといた方が良いぞ。上着を脱いでやったんだ……。俺の体に巻いて有る物が良く見えるだろう?」



 そう言ってテロリストのリーダーである長田は自らの体に巻き付けてある塊を差し示す。




 そこには大量の爆弾が巻きつかれていた。



 「……わざわざ何で顔を見せたと思う? せめてお前らに一糸報いる為さ……教えてやる! 俺の体に付いている爆弾は、美術館外壁に設置した爆弾と連動している。俺のこの手に持つ起爆装置を押せば俺諸共、美術館はドカンだ! お前らも知っているだろう、美術館の中には貸切客が居る事を! さぁどうする? そいつら共々美術館を爆破されたく無ければ俺の要求を聞けぇ!!」



 起爆装置を手にした長田は声を大にして叫ぶのだった。

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