237)蹂躙

 国立美術館の展示フロワの中……銃を持った男達が進む。裏口から侵入した真国同盟のテロリスト達だ。



 彼等は玲人達の襲撃から逃れた残党で、国立美術館内部に居る筈の貸切客(リジェ達)を確保する予定だった。




 「……此処には人が居ないな……。職員も避難して居る様だ。仕方が無い、奥のフロワに向かうぞ」


 「正面玄関から侵入した筈の連中とも連絡が付かない……。やはり取り押さえられたか……」



 フロワを移動しながらテロリスト達は、無人の館内を見て囁き合う。



 彼らは長田が指示したA班で7名程の班員で作戦を決行する心算だったが……突然の襲撃で4名で行動する羽目になった。


 


 どう考えても旗色の悪いテロ作戦に不安と苛立ちを感じている様だ。一人が我慢出来ないとばかりに叫ぶ。




 「クソッ! この作戦は失敗だったんだ!」


 「喚いても仕方あるまい。まだ、此方には仕掛けたC4が有る。必ず作戦は成功するだろうさ」


 「そうさ……美術館の中には貸切客が居る筈だ。そいつらを人質にすれば、状況は好転する」



 4人のテロリスト達が話している所……ハスキーな女の声が響く。



 「……誰を人質にする心算だ? 下等種族共」



 彼等の前に現れたのは、黒髪のかき上げられたミディアムヘアとキツイ目つきの美女……リジェだった。



 突然現れたリジェを前にして、テロリストの男達はライフルを構え……男の一人が大声で恫喝する。



 「馬鹿な女だ、自分から掴まりに来るとは!」


 「小春にこんな奴ら合わせる訳に行かねえし、覚醒の儀にも邪魔だからなー」



 ライフルを突き付けられてもリジェは全く構わず、そっぽを向いて面倒臭そうに呟く。



 「……こいつ……! 仕方ない、足を撃って黙らせる」



 リジェの態度に苛ついた男が、発砲しようと狙いを定めたが……。



 “ヒュン!”


 

  突如、霞の様に姿を消したリジェは、発砲しようとした男の真横に廻り込み片手でライフルを掴んだ。



 「うお!? ど、どこから湧いた!?」



 銃を掴まれた男が驚きながら、彼女の手を振りほどそうとするが、リジェの細く綺麗な手は万力の様に強固にライフルを握り、全く動かない。



 そして次の瞬間――。



 “メキャ!!”



 リジェは片手で鋼鉄のライフルを握りつぶした。それを見の当りにした男は驚愕して目を大きく見開いたが、声を上げる前にリジェは男を蹴り付ける。



 “ビシャア!!”



 コンクリートすら粉砕するリジェの蹴りは、男を吹き飛ばす所か……真っ二つに分散し、周囲に血肉と臓物をばら撒いた。



 男を惨殺したリジェは薄く笑いながら、拉げたライフルとそれにしがみ付く男の半身を壁に放り投げる。



 “ドガア!”



 軽く放り投げた筈なのに、上半身だけとなった男は盛大な激突音を立て、壁の赤い染みとなった。



 「な、なぁ!? う、ううわあああ!!」



 一瞬の間に殺された仲間を見て、テロリストの一人が恐怖で混乱の極みに陥りながら、リジェに向けライフルを発砲する。



 “ダダダダダダダ!!”



 ライフルから火柱が上がり、放たれた弾丸はリジェが立つ場所を蜂の巣にした。丁度彼女の背後には美しい絵画が飾られていたが銃弾で無残に散り散りになった。



 対するリジェはと言うと……無数の銃弾を浴びせられたにも関わらず、平然とした顔で立っている。



 彼女の足元には命中したであろう銃弾が潰れた状態で転がっていた。


 よく見れば彼女の体には白い光が纏わり付いている。恐らくこの光が盾となり銃弾を防いだのであろう。



 「……どうってねぇオモチャだが……この服破れたら嫌だしなー結構気に入ってるし」



 リジェは弾丸を防いだ事など、当然の口ぶりで呟き……自分の体を見回している。お気に入りだと言う服が破れていないか確認しているのだろう。



 以前、廃墟となった都心でドルジと“遊び”と称する大立ち回りを行った時……リジェは廃ビル群を消滅させる程の攻撃をその身に受けたが、彼女自身何のダメージも受けていなかった。


 そんなリジェに取ってライフルの銃弾如き、何の痛痒も与えないであろう。



 「お、おおお、お前は! 一体、何なんだ!?」



 銃弾を難なく防いだリジェを見て、発砲したテロリストは驚愕した叫び声を上げたが……リジェは答える事も無く、一瞬で間合いを詰めて、彼の顔を掴んだ。



 “ガッ!”



 そしてそのまま、その男を壁に叩きつける。



 “グシャン!!”



 リジェに発砲してきたテロリストは、彼女に頭を壁に叩きつけられ……脳漿と血を撒き散らして絶命した。


 リジェの攻撃は止らず、続け様の仲間の死に呆けたままの別なテロリストの顔面に、絶命した男のライフルを掴んで放り投げる。



 “バキャ!!”



 嫌な音と共にライフルを投げられた男は、顔面へもろに銃が突き刺さり、呆気なく死亡する。



 瞬く間に3人の仲間を惨殺された状況に、最後に残ったテロリストは、恐怖で無き笑いながらライフルを向けるが……ガタガタと震える為、引き金が引く事が出来なかった。



 その様子を見たリジェは呆れながら呟く。



 「……何だよ、もう戦意消失かぁ? 13000年前のマールドム共の方が、よっぽど根性あったぜ……。まぁ、ヘタレようが何だろうが……小春の敵は殺すけどな」



 そう呟いてリジェは、最後に残ったテロリストに向かい歩を進めるのだった。



 


  ◇   ◇   ◇





 「……あー、弱っちい連中だったなー」



 血塗れとなったフロワの一室で、リジェは心底つまらなそうに愚痴る。



 リジェに襲い掛かってきた4人のテロリスト達は、壁や床に赤い染みとなるか、バラバラの肉片となって無残過ぎる死に様を晒していた。




 リジェの後ろには透明な少女、ヘレナが額に手をやり疲れた顔で呟く。



 「何で、アリエッタから引き継いだ直後に……死体処理ばかりさせられるのかしら……」


 「ワリィ、ワリィ……雑魚過ぎて手ぇ抜くの面倒だったんだよ! そんな事より、あいつ等、準備させといてくれー」



 アリエッタから業務を引き継いだ透明な少女ヘレナに、リジェは片手を上げて軽く謝罪しながら指示を出す。



 「……さて、マールドムの残兵は……マニオス様の前菜になって貰って……そろそろメインディッシュを提供するかねー」


 リジェは後処理を始めたヘレンを眺めながら……悪戯っぽく笑うのだった。



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