236)嫁姑戦争再発

 仁那がケーキを食べる姿を、何処までも優しい瞳で見つめてくれるリジェとシャリア達。



 そんな彼女達の様子を意識奥のシェアハウスから見ていた小春は何故だが急に泣けてきた。




 「……何だろう……あの人達を見ていたら……良く分んないけど、何でか泣けて来ちゃって……」


 「家族、だからでしょう……本当のね……。小春ちゃん、貴女が羨ましいわ。今も、そして遠い過去でも……貴女を大切に想ってくれる人が居るから……」



 肩を震わして泣く小春に、早苗がそっと肩を抱き優しく話す。普段は悪ふざけばかりして小春を困らせる彼女だが……こういう時は何処までも優しかった。そして何故だが少し寂しそうだった。



 エニとして生きた時代も含め、常に愛され光の中を歩んできた小春とは違い……、生前の早苗は人の悪意が生み出すどす黒い闇の中を修一と共に歩んできた為だろう。



 何だか他人事の様に寂しい笑顔で囁いた早苗に対し、小春は口を尖らせて反論する。早苗にどうしても言っておく事が有ったからだ。



 「早苗さん……ぐすっ、有難う御座います……。でも、早苗さんだって無関係じゃ無いんですよ? 早苗さんと仁那と……このわたしは同じ存在なんですから」


 「……ええ、そうだったわ……有難う小春ちゃん、何だか気を遣わせたわね」



 シェアハウスで早苗と小春が珍しく優しい雰囲気で話し合っていたが……。




 「でも、玲君は簡単に小春ちゃんには渡しませんから」


 「はぁ? な、何でそんな話になるんですか!?」



 穏やかだった空気を行き成り早苗がぶち壊し、小春にケンカを売って来た。攻撃された小春も負けじと言い返す。



 「……小春ちゃんが、虎視眈々と私の玲君を狙っているのが、最近気になるの……。この場ではっきりさせますが……玲君は私と仁那ちゃんの家族ですので! 他人でお子様な小春ちゃんはお呼びじゃないのよ」


 「さ、さっきも言ったでしょ! わたしと早苗さん達は同じ存在で、体は一つなんだから、早苗さんがわたしの事他人って言うなら、早苗さんも同じ事です! だから、わたしと玲君はとっくに家族同士なんですよ!」



 ガチバトルとなった早苗と小春は一歩も引かず言い合うが、此処で早苗はニヤリと笑ってさらに挑発する。



 「……いざとなれば、小春ちゃんだけをこのシェアハウスに閉じ込めてコンクリートで固めましょう……そうすれば肉体は私と仁那ちゃんが乗っ取れるわ……」


 シェアハウスでそう言った早苗の背中にはコンクリートミキサーが生み出され、ガオンガオンとコンクリートを勢いよく混ぜている。



 「だったら、わたしはぶち壊して見せますよ……」

 

 早苗のコンクリートミキサーによる恫喝に、小春は負けじと削岩機を背後に生み出した。



 二人が居るシェアハウスは小春の意識奥に設けられた精神世界の中に存在し、この場では二人はイメージしたモノを簡単に具現化出来るのだ。


 「……ククク……手強くなったわね、小春ちゃん……」

 「……フフフ……お蔭様で、早苗さん……」

 「ククク……試してみる?」

 「フフフ……望む所です」



 早苗と小春は互いが生み出したコンクリートミキサーと削岩機で牽制しながら、不敵に笑い合う。


 今此処に、未来? の姑と嫁のしょうもない戦いが始まろうとしていた……。




  ◇   ◇   ◇




 「コンクリートに埋もれなさい、小娘!!」

 「無駄な足掻きですよ、早苗さん!!」



 最初の穏やかな雰囲気はどこへやら……早苗と小春はシェアハウスを飛び出し、闘技場を具現化して戦っていた。


 早苗はコンクリートミキサーからコンクリートをヘビの様に操って小春を狙い、対する小春は削岩機を浮かせて迎え撃つ。



 本当にどうでも良い戦いだったが、玲人の事となれば二人は引っ込みが付かなくなり、冗談の心算が本気でやり合う事となってしまったのだ。



 もしこの場にお子様で戦い好きな仁那が居れば、更に収拾が付かない修羅場になっていただろう。



 ちなみに仁那がリジェと美術館でケーキを食べている現実世界と……シェアハウスが有る、この精神世界では時間の流れが違う為、現実世界では一分も経過していない。




 「……はぁはぁ……やるわね、小春ちゃん……」

 「……ぜいぜい……当然です……」



 ガッツリと不毛な戦いを行った二人は、疲れ切って肩で息をしながら互いを牽制し合う。



 「……まさか、もう息切れですか、早苗さん……。お歳には勝てませんね」

 「言ってくれるわ……乳臭い小娘が……。当然、まだ戦える……。うん?」


 挑発する小春に対し、早苗は青筋を立てながら反論するが……何かに気付き動きを止める。


 「おやぁ? やっぱり降参ですか?」

 「違うわ! どうも“外”の世界で動きが有ったみたいね……」

 「え? 何か有ったんですか?」

 「……分らない……でも、遊んでる場合じゃ無さそうよ」


 早苗の一言で、小春は真剣な表情に戻り……二人は戦いを止めて外の世界の様子を並んで見るのであった。




  ◇   ◇   ◇





 美術館の大広間にて楽しくお茶会を開いていたリジェと仁那(体は小春)だったが、突然リジェがテーブルセットより立ち上がった。


 「……どうしましたか、リジェ様?」

 「んー、ちょっと気分転換にぶらついて来るわー。……シャリア此処を頼むぜ」


 立ち上ったリジェを見て、控えていたシャリアが彼女に問うと、リジェはシャリアに目配せして答える。



 シャリアもリジェと同様に何かの存在に気が付いた。



 「成程……分りました、お任せ下さい」


 リジェの態度で、彼女の意図が分ったシャリアは納得して返事した。


 「おう、お前らも頼むぜ」

 「は、はい」



 リジェはシャリアやローラ達にこの場を頼んだ後、ケーキを貪り食べる仁那を頭を撫でてから大広間を出た。



 「ムぐ……、あの人どっか行ったの?」


 「……虫退治だと思うよー? 此処に4匹位、大きいのが近づいてるからねー。ヘレナも後処理大変だ! 先代のアタシが言うのもアレだけどー」


 仁那(体は小春)はケーキを食べながら、ふよふよと浮かぶアリたんに問うと……彼女は満面の笑みで楽しそうに答える。


 その言葉の意味する所はぞっとする内容だったが、無邪気な仁那には理解出来なかった……。


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