234)後任透明少女

 正面玄関で白いリムジンの乗っていたシエナの前に現れた3人のテロリスト達……。


 彼等は、銃でシエナを恫喝するも、謎の攻撃を受けて3人共が首をへし折られて絶命した。



 そんな彼らを虫けらを見る様に、見下して眺めていたシエナの横で……真白い光が輝いき、その中から少女が現れる。



 彼女は黒を基調にした洗練されたドレスを纏っており、自然にカールされた美しいブリネットの長い髪を無造作に伸ばしていた美しい少女だ。


 突如現れた美しいブリネットの少女は、あのアリエッタと同様に透けていた。その少女を見てシエナが静かに話し掛ける。



 「これはヘレナ様、お役目御苦労様です」



 シエナにヘレナと呼ばれた透明な少女は苦笑しながら答えた。



 「……シエナ様、随分と派手に立ち回られましたね?」


 「ああ、御見苦しい所を……。下劣なマールドム共が、勢い付くのが気分を害しまして……ですがマールドム如きに……指一本動かしておりません。ただ、死ねと願っただけです」



 透明な少女ヘレナに問われたシエナは、首を折られて絶命したテロリスト達をうっとうしそうに見て吐き捨てる。



 「……お気持ちは分りますが、もう少し抑えて頂くと助かります……。彼らが死ぬと後処理が面倒なので……今、この場を除き見しているマールドム達への偽映像も同時で対処せねばなりませんし」


 「前任のアリエッタ様が良く言われていたお言葉でしたね。休戦中とはいえ敵である奴らに苛ついてしまいました……申し訳ありません」



 苦笑しながら話した透明な少女ヘレナに、テロリストを殺したシエナは素直に頭を下げ謝罪した。


 シエナの中では、テロリスト達を殺した事に罪悪感は全く無く……ヘレナに面倒を掛ける事に申し訳なく思っている様だ。



 シエナの謝罪を聞いたヘレナは、苦笑しながら……透明なその手を差し出した。


 すると……首を折られて絶命したテロリスト達は黒い闇に包まれ、そのまま消えてしまう。



 「……処分完了しました。後は……処分したマールドム達の存在を辻褄が合う様に情報操作致しますね」


 「……お手を取らせてしまいました、以後気を付けます」


  

 テロリスト達の遺体を消し去ったヘレナは……淡々と状況をヘレナに説明する。




 新たに現れた透明な少女ヘレナは、小春の前世であるエニの犠牲によって命を救われた16人の少年少女の一人だ。


 元々16人の少年少女達は、13000年前に起こっていた人類とアーガルム族の戦争中……エニに惹かれて、彼女と共に戦災孤児達を救おうと活動していた。


 そして、戦地でマールドム侵略軍が襲ってきたあの時、エニは16人の少年少女達を守ろうと、自分が真っ先に犠牲になって抗がった。


 その結果16人の少年少女達は大怪我はしたものの、一命を取り留める。



 16人の少年少女達は、そんなエニの遺志を継ぎアガルティア国の平和を守る為、中央制御装置と自分達の肉体を繋ぎ、自分達の能力をアガルティア全体に付加して国全体を守っていた、と言う訳だった。


 また、16人の少年少女達自身が中央制御装置のオペレータ兼コンソールとして機能している。


 少年少女達の肉体は異次元に浮かぶアガルティア城の奥深くで、中央制御装置の傍に存在している。その為、彼等達は自らの意識を映像として投影し、活動していたのだ。



 16人の少年少女達はアガルティア国の防衛や維持管理を分担して行っていた。その中でアリエッタは早くに覚醒した12騎士長に仕えていた。


 しかし、先日……アリエッタが薫子に引き抜かれる形で小春専属のオペレータに“転属”した為、その後任としてヘレナが選ばれた。


 

 そのヘレナが、優しく微笑んでシエナに進言する。



 「シエナ様は目覚めててから日が浅いです。非道な手段を使ったマールドムに嫌悪感を感じるのも仕方が無いでしょう。ですが今は主であるマニオス様の覚醒前……。主の御意志を伺わずにマールドムを狩るのは避けるべきかと……」


 「ご忠告感謝します、ヘレナ様」


 「いいえ、現場の皆さまにはご負担をお掛けします。……所で、もう間も無く此処に……雛である玲人様がお見えになります。先程処理した男達を追われている模様ですね」


 「……なるほど、それは御出迎えせねば」


 「それが良いかと……。なお、この施設の裏側にも男の仲間が集結しています。その旨玲人様にお伝え下さい。彼等を玲人様が始末する事で、覚醒の儀も次の段階へ移りましょう……。それでは失礼致します……」


 そう言ってヘレナは、シエナの前から姿を消し去った……。




  ◇   ◇   ◇




 「あれ!? 何か映像が途切れちゃったぞ!?」


 作戦指揮通信車のモニターを見ていた垣内志保隊員が叫ぶ。


 彼女は特殊技能分隊で情報処理を担当しており、この作戦では上空に飛ばしたドローンの映像から、各隊員に情報を伝達していた。


 彼女が操作するドローンはつい先程まで、どれも何の問題も無く映像を送ってきていたが、その内の一台が突然動作不良を起こしたのだ。



 「どうかしたのか、志穂?」


 「いや、姉御……。玲人君の攻撃を受けて、別なワンボックスから逃げた連中を追ってたドローンの映像が死んじゃったのよ!」



 大声を聞いた分隊隊長の坂井梨沙少尉の問いに、志穂は状況を説明する。



 「……映像が途切れたのは、美術館の正面玄関上を飛んでた奴か……。確か、逃げた連中を追って玲人が向かっていたな。志穂、、状況を説明してやれ」


 「はいはーい! ……もしもし、玲ちゃん? 聞こえますか、どーぞ」


 梨沙の指示を受けた志穂は、現場に居る玲人に状況を連絡するのであった。



 

  ◇   ◇   ◇




 『……てな訳で、ドローンの一台が故障しちゃったんだ。予備の奴、飛ばすまで映像を送れないけど大丈夫かな?』


 「状況は分りました、俺の方は問題ありません。もう間も無く正面玄関に到着しますので、一旦通信を切ります」


 志穂の連絡を受けていた玲人は、蜘蛛の子を散らす様に逃げたテロリストを追って美術館の正面玄関の到着した。


 そこには作戦開始前にドローンの映像で映し出された白い高級リムジンが停車している。



 その脇にはメガネを掛けた短いブロンドの美女が、玲人を見て恭しく頭を下げたのだった。


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