233)始まり

 一方、玲人のバックアップする伊藤は伊藤は国立美術館裏側が見下ろせる高台に居た。彼は対物ライフルのスコープを覗く。


 スコープにはテロリスト達が乗って来たワンボックス車が見えていた。

 


 ワンボックス車が止まっているのは国立美術館裏の遊歩道に乗り上げており、避難指示により周囲に誰も居ない。車は遊歩道沿いに離れてもう3台駐車していた。


 その3台の内、1台に玲人が急襲し、ワンボックス車の乗っていたテロリスト達をあっと言う間に無力化する。


 玲人が放つ黒針により手足を撃ち抜かれたテロリスト達は地面に転がり、痛みでもがき苦しんでいた。



 玲人の急襲を知った別なワンボックス車の2台に乗るテロリスト達は、慌てて車両から飛び出し美術館に向かう。此処からが伊藤の仕事だ。



 “ターン!” “ターン!”


 「ウギャア!!」「ギャア!」


 車両から飛び出したテロリスト達を伊藤は正確に狙撃する。伊藤は彼等の胴を狙い、撃ち抜かれた者は地に倒れ痛みで動かなくなった。


 伊藤の狙撃は正確だったが、次弾装填の為に一度に全員は狙撃できない。半数以上は国立美術館に辿り着いてしまった。



 彼等を殲滅する為、玲人は国立美術館へ向かう。


 『伊藤さん、残りは俺がやります』 


 「分った、俺は車両を破壊して移動手段を潰そう」

 


 玲人の通信を受けた伊藤は撃ち漏らしたテロリストの処理を玲人に任せて、ワンボックス車の破壊を行う事を伝えた。


 伊藤は3台の車の側面が見える高台にポイントを構えている。対物ライフルで車輪をぶち抜く心算だった。


 ちなみに燃料タンクを狙えば炎上させられるが二次被害を考慮して敢えて避けた。


 伊藤は状況を再確認した後、志穂に通信で連絡を取る。



 「おい、メガネ……伊藤だ……徹甲榴弾を使う。破壊する車両の周囲に問題が無いか上空から調べてくれ」


 『メガネ言うな、ダルマ! 所でお前、随分物騒な弾使うな……』


 『……燃え上がった方が私的には面白いけどな……分ったぞ、周囲は延焼するモノは無し、一般人も居ないね』


 「……分った。それでは狙撃を開始する」


 伊藤はそう言って志穂との通信を切り、スコープを覗き発砲した。


 “ダーン!!”


 伊藤がスコープを見ずに放った弾丸は、伊藤の狙いと寸分狂わずにワンボックスカーの前輪ホイールを貫き、榴弾の効果で炸裂して前半分が吹き飛んだ。


 “バガガン!!”


 伊藤はスコープで狙ったワンボックスカーの右全面が破壊された事を確認する。


 「車両の破壊を確認……続けて他の2台も破壊する」

 『りょーかい!』

 

 伊藤は冷静に作戦指揮通信車の志穂に伝えた後、対物ライフルを構えて続けて発砲した。


 “ダーン!! ダーン!! ダーン!!”


 大口径の対物ライフルから放たれた凶悪な弾丸はワンボックス車の前輪ホイールに正確に突き刺さり、弾丸に内蔵された爆薬が炸裂、ワンボックス車を確実に破壊する。


 “バガン!! ゴガン!! ガガン!!”


 伊藤は全ての車両破壊を終えた段階で、本部に連絡した。


 「……こちら伊藤……全ての車両は破壊した。次の指示を連絡されたし」





  ◇   ◇   ◇





 玲人と伊藤の襲撃により半数以上の仲間が倒された真国同盟のテロリスト達……。



 何とか逃れる事が出来た者達は予定通りテロを実行しようと行動していた。美術館の玄関から内部に侵入しようと銃を構えて来たのはB班の残党だ。


 リーダーの長田が決めた3班の内、B班は正面玄関のリムジンを抑えて内部に侵入する計画だった。



 「……大分、やられたな」

 「ああ……だが、何とか3人は確保できた。予定通り行けるだろう」


 正面玄関の前でテロリスト達は話す。



 元の計画では6人が集う筈だったが、半分は玲人達に倒されてしまった。


 残ったB班の3人は散り散りに逃げながら、玲人達から逃れ何とか正面玄関まで辿り着いた。


 長田が適正と不測の事態を予測して、3台のワンボックス車毎に3班に分けていた事が、功を成したようだ。



 多くの欠員が出たが当初の計画は実行出来そうな事に安堵しながら、彼らは正面玄関に停車中の白いリムジンに近付く。



 リムジンに乗車する人間を人質として確保する為だ。



 銃を構えて近付く3人の前に……白いリムジンの運転席からを短いブロンドヘアの美しいの白人女性であるシエナが降りてきた。



 「……済まないが、此処は通れない。出直して頂こう」



 シエナはメガネに手を添えながら真国同盟の3人に対し毅然と答える。


 「外国人か……流ちょうな言葉使いからすれば、俺の言う事が分るな? この状況……他国の生まれとは言え、分らない訳が無いだろう? 車から離れて跪け」


 「確かに生まれも育ちも、そして種族すらも違うが……お前達に従う道理はない。下等で下劣なマールドムに告ぐ。お前達こそ跪くが良い」



 テロリストの一人が銃を向け跪く様に促すが、シエナは声を低くして冷たく言い放つ。



 「ま、まーるどむ? コイツ何言ってるんだ?」


 「……やはり他国の女ゆえに、状況を理解出来てない様だ……。仕方無いが、体で理解して貰おう」


 シエナの言葉が理解出来なかったテロリスト達は、発砲して大人しくさせようと彼女に銃を向けるが……。



 “ボギン!”



  銃を向けるテロリストの一人から突然、嫌な音が鳴り響く。残った二人が思わず音の方を見ると、その仲間の首が背中の方に折れ曲がっていた。


 首が折れ曲がったテロリストは当然絶命し、そのまま崩れ落ちる。



 「な、何が……一体……ひぎぅ!」 


 “ドザン!”


 突然、仲間の一人が絶命した事に狼狽していたテロリストだったが、彼も悲鳴を上げて倒れる。


 残ったテロリストが、今倒れた仲間を見ると……その仲間も、首がおかしな方向に曲がって絶命していた。



 「うわああ!」


 突然仲間が二人も死んだことに恐怖した最後のテロリストが、シエナに背を向けて逃げ出す。



 だが……。



 “ゴギン!”


 「ぎゃう!」


 必死に逃げ出したテロリストだったが、彼もまた鈍い音を響かせて首を折られ……絶命し倒れ込むのだった。


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