231)三者三様
「あれ?……誰もいない様ですけど……?」
国立美術館に到着した小春は観客が誰もいない事に驚き呟く。にも拘らず正門は開いており小春を乗せて来た高級リムジンは、難なく美術館の玄関まで入って来れた。
玄関で高級リムジンから降りて疑問を口にした小春に対し、リジェは“何て事無い”と言った感じで答えた。
「ああ、今日は貸切なんだー。うるさいのは落ち着かないしね」
「えぇ!? 美術館の貸切なんて出来るんですか!?」
「細かい事は気にすんなー、皆、とにかく中に入るぞー。そんじゃシエナ、後は頼むわ。」
「それでは、此処でお待ちしています」
驚愕して問う小春にリジェは気だるそうに答えながら、さっさと美術館の中に入って行く。
対して小春を乗せて来た高級リムジンの運転手をしていたシエナは丁寧に頭を下げて答えた。
「あ! ま、待って下さい! 行こう、皆!」
小春はそんなやり取りを見ていたが、意を決してリジェを追い、ローラ達も小春に付き従った。フワフワと浮かぶアリたんもニコニコしながら彼女達を追うのであった。
◇ ◇ ◇
「どう言う事だ? 観客が誰も居ないぞ!? これでは人質が取れねェ!」
丁度小春達が国立美術館に入った頃……、美術館外周の木立付近に停車した古いワンボックス車内で、男が苛つきながら叫ぶ。
「……どうやら撹乱情報が功を成さなかった様だな……。残念な状況だが、見ろ。どうやら貸切客が居た様だ」
奇しくも小春と同じ様な事を言った男に対し、メガネを掛けた優男の長田が美術館玄関に止まった白い高級リムジンを見て呟く。
「あんな車で乗り付けて国立美術館を貸切る位だ……社会的影響力のある金持ちで有る事は間違いない。それにリムジンから降りたのは女一人に子供ばかりだ……。人質としては手頃で価値が有る。人手不足の俺達にとっては、逆に幸運だったさ」
「……なるほど……流石は長田さんだ……」
長田の言葉を受け、苛ついていた男は納得し落ち着きを取り戻した。彼らは真国同盟のテロリスト達だ。
国立美術館へのテロ行為を計画し、リーダーの長田を中心に3台のワンボックスに分乗しこの場に集っていた。
長田は携帯端末を取り出し集まっている仲間達に指示を出す。
「皆、此処は手筈通り行くぞ。A班は裏口より館内に侵入し人質を確保し、B班は正面玄関のリムジンを抑えて侵入しろ。貸切とは言え館内に職員が居る筈だ。奴らを無力化し一ヵ所に集めろ。反攻する様なら容赦するな。俺達C班は柱に仕掛けた爆薬の護衛だ。内部を完全に制圧できたら俺も館内に入る! さぁ行くぞ!」
「「「「応!!」」」」
長田の号令と共に、ワンボックスに乗っていた男達は一斉に動き出した。
◇ ◇ ◇
一方、国立美術館の高台に一台のウイングトラックが停車している。
この高台からは国立美術館が見下ろせる場所だった。
運送会社のロゴマークが描かれたこのトラックは一見すると、連絡か休憩の為にこの場に停車している様に見受けられるが……。
このウイングトラックは巧妙に偽装された自衛軍に所属する特殊技能分隊の作戦指揮通信車であった。
偽装されたウイングトラックの積荷スペースには沢山の通信機器が並び、その前には二人の女性が座っている。
二人の女性は、特殊技能分隊を指揮する坂井梨沙少尉と、情報収集を担当する垣内志保隊員だ。
自衛軍は、前回の作戦で入手した情報より真国同盟が映画館、競馬場、そして国立美術館の3か所の施設の内、いずれかにテロ行為を行うと考えていた。
そこで部隊を分散させて各々の施設の警護を行っていたが……坂井梨沙少尉が率いる特殊技能分隊はテロが予想された3か所の内、国立美術館を警護していたのだ。
国立美術館の見下ろす高台に停車する作戦指揮通信車以外に、国立美術館駐車場には別なトラックが駐車している。
このトラックも偽装されていたが、積荷スペースには前原と沙希達のエクソスケルトンが隠されていた。
玲人もこのトラックに乗り込んでおり作戦開始時には前原達と共に出動する段取りだった。
ちなみにスナイパーである伊藤は、彼等とは離れて狙撃ポイントに配置している。
作戦指揮通信車車内に居る、坂井梨沙少尉がモニターの映像を見て呟く。どうやら上空に飛ばしている無人機からの映像の様だ。
「……あの古いワンボックス……どう見ても連中の様だ……。どうも私達の部隊が当たりを引いた様ね。出来過ぎなのが気になるけど……」
坂井梨沙少尉の言葉を受け、もう一人の女性である垣内志保隊員が答える。
「そうだねー、姉御。点在して停車している3台のワンボックス……。無人機の映像からはむさ苦しい男達がギュウギュウ詰めで乗ってるのが見えるよ。それと……連中、隠す気が無いのか……見せびらかしたいのか分んないけど……普通に窓からお決まりの自動小銃チラ見させてるよ。疑う余地無しだね」
「……そうか、所で……玄関に停車しているリムジンから降りた連中……彼等も奴らの仲間か?」
志穂の答えに、梨沙少尉は頷きながら気になった事を尋ねる。休館要請した筈の国立美術館に訪れた者達の事だ。
「うーん、そっちは違うと思うよ? 全員女の子だったし……。背が低かったから子供みたいだ。それに……」
「それに、何だ? どうかしたの?」
「見間違いかも分らないけど……あの中の一人が……何か知ってる子に似てた様な……違う様な……」
「……気になるな、一応撮影した画像解析を進めてくれ。それと……リムジンの連中が民間人ならば……非常に拙い状況だ」
志穂の報告を受けた梨沙は、緊迫した状況に歯噛みしながら呟く。
「あ! 姉御! あいつ等動き出したよ!」
「ちぃ! 出遅れたか! 志穂、皆に指示をだす、現場に繋いでくれ!」
ワンボックスに居た真国同盟の連中が一斉に動き出したのを見て、叫んだ志穂に対し梨沙は現場に控えている玲人達に制圧指示を出すのであった。
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