232)作戦開始

 誰も居ない国立美術館の館内を進む小春達。先を進むリジェに小春達は付いて行く格好だ。



 「……こっちだ、小春ー」




 館内には素晴らしい絵画や、斬新な彫刻品など目を引く展示品が沢山展示されているにも関わらず、リジェは見向きもしないでズンズンと進んでいく。



 「……美術館に来たら、絵とかゆっくり見ると思ってたよ」


 「アハハ……リジェ様は元より食べる事と戦う事がお好きな人ですから……」



 小春は展示品にチラチラ目をやりながら呟くと、近くに居たレーネが返答する。


 そんなやり取りの中、明るい広間に一行は到着した。そこは小さな体育館ほどの広さを持つ部屋で、壁の一面が全て大きな窓になっていた。


 窓の反対側は巨大な美しい絵画が壁一面に描かれており、その大きさと精緻さに見る者を圧倒する。


 窓の外には国立美術館が誇る中庭とその奥には木立が広がっていた。広間は通り抜けながら中庭と壁の絵画が見る事が出来る様に設計されている様だ。


 この広間では観客達は立ち止まる事無く、窓の外の風景と壁の絵画の両方に目を奪われながら先に進むのだろう。




 にも拘らず……広間の中心に不可思議なモノが堂々と配置されていた。それは……豪華なダイニングテーブルセットだ。



 まるで王侯貴族が東屋で午後のお茶を楽しむ時に座する様な、立派過ぎる円形のテーブルセットが広間のど真ん中に配置されている。


 しかもテーブルセットの脇にはメイドまで用意されていた。そのメイドの顔に小春は見覚えが有った。

 


 ファミレスで“騒動の元”と共に現れるシャリアだ。彼女は長く美しいブロンドヘアーをまとめ、いつもの割烹着では無く黒と白を基調にしたメイド服を着ている。



 シャリアは小春と見ると、スカートを摘まんで丁寧に頭を下げる。そんな彼女のメイド姿は美しく、大変似合っていた。




 「……おー着いたぞ、小春ー座ってくれー」


 リジェは、豪華なテーブルセットに座ると、小春にもそうする様に促した。


 「え? でも……他の皆は……?」



 テーブルセットの椅子は初めから二つしかない。小春と共に来たローラ達は座る事が出来ないので小春が気にしてリジェに尋ねた。



 「良いんだよ、コイツ等の事は。この場に大切な客として来て貰ったのは……小春、お前だけだ。何より立場がってモンが違うのさ、気にすんな」


 「……小春、私達はお前の護衛なんだ。リジェ様の言う通り、どうか気にしないでくれ」


 「ローラちゃん……」


 「まぁ、そう言うこった。それよりもう直ぐ始まる筈だ……茶でも飲みながら待つ事にしようぜ」



 友となったローラ達を気にする小春に、リジェは茶を勧める。リジェの言葉を受けてすかさずシャリアが茶器を並べた。


 ローラ達、護衛の三人は小春の背後に立ち、アリたんはフワフワと浮かんで小春に寄り添う。


 茶器を差し出してくれたシャリアに小春は戸惑いながら礼を言った。



 「……ありがとう御座います……シャ、シャリアさん。……えっと……それで……何が始まるんですか、リジェさん?」


 「祭り……祭りが始まるのさ」


 「……祭り? こ、此処でですか?」



 リジェの予想外な言葉に、小春は戸惑い尋ねる。



 「ああ……不出来なチビ弟子と、寝ぼけ眼の王子様との……お祭りがな!」


 尋ねた小春に対し、リジェは楽しそうに答える。対して小春は彼女の言葉の意味が分からず首を傾げるのだった。





   ◇   ◇   ◇





 一方、特殊技能分隊に所属する玲人達は、駐車中の偽装トラックの中で、真国同盟の動向を監視していた。


 偽装トラック内に設置されたモニターの映像は、作戦指揮通信車の垣内が操る無人機からの送られている。


 その映像には、複数のワンボックスカーが映し出されており、社内の男達が銃器を準備している様子が見られた。



 「……騒がしくなって来たな……そろそろ動くか」



 監視を続けていたワンボックスカー車内の映像を、見ながら玲人が呟くと……タイミングよく作戦指揮通信車から通信が入った。



 『こちら、坂井だ。お前達、映像を見ていると思うが……連中が動き出した。もう少し慎重に動くかと思っていたが、奴ら待ち切れ無かった様だ。今すぐ制圧作戦に入る。先攻は玲人。奴らを急襲して無力化しろ。伊藤はそのバックアップだ。前原と泉のエクソスケルトン組は現状待機、いつでも動ける様に準備しておけ』

 

 「了解」


 『『『了解』』』



 坂井梨沙少尉の指示を受けた玲人は、偽装トラックを飛び出した。真国同盟の連中を強襲し、テロ行為を始める前に無力化させる考えだった。


 彼は能力を発揮し、人外の速度で移動しワンボックスに向かう。玲人が出たと同時に、打トラックは移動を始める。


 制圧作戦が始まった今、もはや偽装する必要も無くなった。いつでもエクソスケルトンを出せる様にトラックは国立美術館の真横に停車させる為だ。


 玲人は恐るべき速さで、一台のワンボックスカーに辿り着き、中から銃器を構えて出てきたテロリスト達に肉薄する。


 玲人はいつもの真黒いボディスーツに隻眼のヘルメットを装着している。初めて見る者からすれば恐怖しか感じない姿だ。



 「!? な、何だ、こいつ!?」「構わん、撃ち殺せ!」


  突然現れた漆黒隻眼の異様に真国同盟のテロリスト達は動揺し、すぐさま銃を構えた。


 対して玲人は瞬時に黒針を生成し、テロリスト達に放った。


 放たれた黒針は玲人がテロリスト達の両手足の関節を正確無比に貫いた。



 「イギャアア!!」「ギャアア!」



 関節を貫かれたテロリスト達は痛みに悶え苦しみ大声で叫んで、地面に転がる。玲人が相対したテロリスト達はあっと言う間に殲滅されたのだった。



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