230)アリたん乱入

 薫子がリジェに同行者として呼び出したのは、フヨフヨと浮かぶ妖精の様な少女だった。


 彼女は全長10㎝程で2頭身の可愛らしい姿であり、正しくゲームの中のアバターが現実世界に浮いている様だ。


 現実離れした可愛らしい彼女は、ミカンをくりぬいて頭に被っている


 そのフヨフヨと浮かぶ少女の格好は、オレンジ色のショートボブカットで、ミカンの被り物にはミカンのヘタと葉っぱがアクセントで付いている。


 全体的にオレンジ色で構成されたメイド服を着ておりミカンを擬人化した様な妖精の様な少女だ。


 ミカンをくりぬいて頭に被った……10㎝程度の可愛らしい少女が遠慮なく叫ぶ。



 「改めまして、小春! アタシの名前は”アリたん“! 小春の生涯に渡る下僕だよ!」


 アリたんと名乗ったのは、ミカンをくりぬいて頭に被った非常に可愛らしい身長10CM程度の2頭身少女だ。


 「……あーえー……えーっと、貴女は何ですか?」


 「アタシは”アリたん“! この姿は和歌山地方で有名な地域産ミカンからイメージして擬人化したの! 別にアタシは和歌山県の廻し者じゃ無いよ! 名前が被ったから偶々なの! アタシは小春専属の下僕でお犬様だから、此れから24時間365日年中無休で小春のサポートするよ!」


 唐突に小春に向け、下僕宣言したアリたんに……小春は大いに戸惑いながら、彼女の正体について尋ねた。


 目の前に浮かぶ身長10cmの少女は、コミックとかで良く目にする二頭身キャラだ。


 どういう理屈かは分らないが、誰かが作った映像だと無理やり納得した小春は彼女の素性を問うたが……アリたんの答えは一方通行で意味が分からない。



 「あ、あの、アリたんさんは……」


 「ブブー! ”アリたんさん“じゃなくて “アリたん”て呼んでー!」


 「……じゃあ、ア、アリたんは……一体、何処の誰さんですか?」


 「アリたんはアリたんだよ! 小春の下僕だぜー!」


 「そ、その下僕とか……どういう事ですか?」


 「下僕は下僕だよー! 小春専用お犬様って事だよー!」


 「い、いや、意味が分んないよ……それに、そう言う事じゃ無くて……そ、そもそも……アリたんさんは何処の誰で……」


 「はい、ブブー! ”アリたんさん“じゃなくて“アリたん”だってばー!」


 「だ、だから、そうじゃ無くて……」



 戸惑う小春に対し、ミカンを擬人化した美少女姿のアリたんはガンガン喋ってくる。



 そんな二人の様子を高級リムジンの後部座席に座っていたリジェが、横に居るローラ達に話し掛ける。


 「……なぁ、アレってどう考えても……アイツだろうな……?」


 「ええ、映像から響く口調は、完全に別人ですけど……あの映像投影技術は、マールドムのモノでは無く、我々の技術です。……何よりディナ様が連れて来るくらいですから……間違いないでしょう。あの御方です」


 「なら、何であんな格好してんだ?」


 「……うーん、何でだろうね? 聞いてみようか? あのーアリエッ……」


 コソコソと話し合うリジェ達だったが、レーネがアリたんを名乗る少女に本名を尋ねようとすると……。


 「ぶぶー! 小春の前で本名言うの禁止ー!!」



 そのアリたんが瞬間移動してレーネの口を塞いで叫ぶ。


 「一体、何やってんだよアリエッタ?」


 「しー! だから、今はアリたんだって! 小春の前ではその設定で行くの!」


 「……まぁ、お前の事はウォレスやトルア達から聞いてるよ。ディナがお前を連れ出したってな。小春の為になるんなら、好きにやんなよ!」


 「ありがとー、リジェっち! 一応派閥が違うけど、アタシ達仲良くやろー!」



 白いリムジンの車内でリジェとアリたんは嬉しそうに何やら話している。そんな状況に付いて行けず、小春は意識奥に居る早苗に問い掛ける。


 (……早苗さん……今、アリたんって不思議な子が現れたんですけど……)


 “ええ、ずっと見てるから知ってるわよ。まぁ、薫子姉様が紹介した位だから大丈夫でしょう。正体はあの子でしょうし……”


 (早苗さんは、あの子の事を知ってるんですか?)



 意識奥に設けられたシェアハウスに居る早苗の返事に小春は問い返す。



 “少しね……。この子は薫子姉様が言う通り、私達にとって力強い味方になると思うの。だから、小春ちゃん。今、気にするのはアリたんって子じゃ無いわ。……この車の中に居る人達は……私達の敵じゃ無い。目の前のリジェって人もね。だけど……玲君にはそうじゃ無い、私達の目的は玲君を危険から守る事……。その為に小春ちゃん、貴女はリジェって人の誘いに乗ったのでしょう?”


 (……はい、そうでした……。リジェさんはわたしに、玲人君と戦わないって約束してくれたけど……)


 意識奥で早苗と話していた小春はリジェとの約束を思い出す。彼女は小春と一緒に国立美術館に行く事で玲人と戦わないと約束したのだ。


 「……あのーリジェさん……本当に、玲人君と戦わないんですよね?」


 「うん? ああ、約束ちゃんと覚えてるぞー。小春がアタシとデートしてくれたから……アタシは戦ったりしない! だから、そんな怖い顏すんな! ほら、オレンジジュース飲め」



 真剣な顔で問う小春に対し、リジェは明るく答え……車内備え付けのクラブラウンジからオレンジジュースを出して小春に勧めた。


 チビチビと飲む小春をニコニコしながら見るリジェに対し、キャロが心配そうに小声で尋ねる。



 「……師匠、本当のトコ……どうなんですか? 小春の気持ち、踏みにじったらダメですよ」


 「バカ、そんな事するか! アタシは約束通り戦わねェよ!」


 「……ホントかなぁ?」


 リジェの言葉に、弟子のキャロは訝しむ。師匠であるリジェはバトルジャンキーで強い相手と戦うのが何より楽しみな性格だ。


 最強の存在であるマニオスの覚醒の儀において……戦闘狂のリジェが戦わない、と言う選択は師匠を良く知るキャロとしては信じられ無かったのだ。


 「何だよ、信頼ねぇな! アタシは戦わないよ。“アタシ自身”はね……」


 「え? それはどう言う……」


 「あー! もう着いちまったぞ! 小春、さぁ行こう。特別な部屋を貸し切ってんだ! 皆も行くぞ」


 意味深なリジェの言葉にキャロは驚いて問い返そうとしたが……。どうやら目的の国立美術館に到着した様で、リジェが小春を連れ出して車外へ出た。


  キャロも慌てて師匠の後を追った為、結局リジェへの問いは飲み込んだままだった。


 しかし、弟子のキャロは知る由も無かった。戦闘狂のリジェが小春とのデートの最中……予想外の方法で玲人との戦いに挑む事に……。



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