229)デート? の条件

 真国同盟が国立美術館に大規模テロを計画する最中……、小春の元にリジェから連絡が入った。


 内容は以前ファミレスで約束したリジェとのデートの件だ。次の日曜日に駅前に来て欲しい、との事だった。


 小春がその事をローラ達に伝えると、何故かデートの当日、薫子が駅まで送ってくれると突然言い出した。彼女が言うのは何でも用事が在るついでとの事だった。



 そして迎えた約束の日……薫子のお洒落だが小さい車に、小春とローラ達3人が乗り込んで駅前に向かった。



 駅前に着いた小春達は、指定された駅前のロータリーでリジェの到着を待っていると……。



 一台の真白い高級リムジンが、滑る様に静かに小春達の前で停車した。



 高級リムジンから降りたリジェは、待っていた一同を見てがっくりとうな垂れながら呟く。




 「……何で、お前がそこに居るんだよ……!」


 「元気そうね、リジェ」



 うな垂れたリジェに明るく声を掛けたのは薫子だ。


 ローラ達はバツが悪そうに明後日の方向を見てリジェから視線をずらし、状況が良く分っていない小春は戸惑いながら頭を下げた。



 「お前、ディ……」


 「リジェ、今の私は薫子よ」



 ディナと言い掛けたリジェに薫子は間髪入れず指摘する。



 「……な、何しに来たんだよ! え、えっと……か、か、薫子?」


 「決まってるわ、釘を刺しに来たのよ。小春ちゃんを巻き込ませない為にね」


 「それは要らねェ心配だぜ! アタシは小春の敵になる奴は皆殺しにする! だから安心しな。それに……大体、分ってんだろ? アタシ達の目的を……。お前はそれを邪魔したい訳じゃ無い筈だ」


 「……まぁ、あの御方には恩しか無いしね。それに、お互いの主が寝ぼけ眼の現状じゃ互いにやり合うのは愚策でしょう。……でも、この前の廃工場の件はとても容認できないわ」



 リジェと薫子は互いに笑みを浮かべながら互いを牽制し合う。


 1万と3000年前は互いの主の信念の元、刃を交えた二人だ。現在は停戦中とはいえ、久方振りに会えば自然と緊迫した空気となる。




 事情が良く分って無い小春は二人の不敵な様子にキョトンと首を傾げていたが、事情を知っているローラ達は青い顏をして押し黙っていた。


 そんな中、真白い高級リムジンの運転席から、ブロンドヘアを短く刈った長身の白人女性が降りてきた。



 彼女は美しく整った顔に知的そうなメガネを掛けており、車から降りてくると直ぐに小春と薫子に頭を下げ丁寧に挨拶した。



 「……小春様、お会い出来て光栄です。お会い出来るこの日を待ち望んでおりました。そして薫子さま、お久しぶりですわ。相変わらずお元気そうで何よりです」


 「あ……えっと……その、初めまして」

 「貴女も久しぶりね、シエナ」



 シエナと呼ばれた長身のメガネ美女に、跪かれそうな勢いで挨拶された小春は、大いに恐縮しながらドモリながら返す。


 対して薫子は柔らかい態度で、シエナの肩に手を置きながら応えた。薫子は、彼女の事を良く知っている様だ。


 薫子の幅広過ぎる人脈が、今頃になって不安に思った小春は、小さな声で彼女に尋ねる。



 「……ちょっと、薫子さん……どうして、皆さんの事知ってるんですか、顔弘すぎません? ローラ達の事も知ってたみたいだし……」


 「えー、えっと……、学校の先生で、お医者さんだからよー。海外にも良く行ってたし。彼女達は外国で昔、付き合いが有ったの」


 「あ、そう言う事ですか……なるほど……納得しました!」



 適当な薫子の説明に、あっさり納得してしまった小春。


 小春の意識奥に有るシェアハウスから外の様子を見ている仁那も、ほうほうと何度も頷いて納得していた。


 そんな仁那と表の小春の残念な様子に早苗は、既視感を憶えながら額に手を当て深い溜息を付くのであった。



 「……薫子さま、色々心配なのは分りますが……小春様の件はどうか、リジェ様にお任せ下さい」


 「覚醒の儀を行うのがシエナだったら何のお懸念も無いのだけれど……、相手はこの脳筋リジェでしょ? まぁ、貴女に免じて信じてあげるわ。そんな訳で、リジェ。貴女が小春ちゃんを連れ回すのを認めましょう。……但し、条件が有ります」


 「……何だよ、随分上から目線だな! 何様だよ!」



 運転手をしていたシエナと言う女性に説得された薫子は仕方が無いとばかりに小春の同行に条件をリジェに提示したが、対するリジェは反発する。



 「仁那ちゃんと同化した小春ちゃんは、私の姪に当たります。貴女に意見出来る十分な理由でしょう? ……あまり貴女がガタガタ言うなら、私が一緒に付き添いましょうか?」


 「分ったよ! 何だ、その条件って!?」


 「……最初から素直に聞いて置けば良いのです。いいですか、私の条件と言うのは……」




  ◇   ◇   ◇




 「……クソ! あの性悪女め! 面倒臭い事言いやがる!」


 白い高級リムジンの後部座席に乗り込んだリジェは、先程別れた薫子に悪態を付く。


 同じくリムジンのL型シートに座る小春と……その横にローラ達3人が居心地悪そうに座っている。


 護衛としてのローラ達同伴は薫子の指示した条件の一つだ。



 元はリジェを良く知らない小春が不安がってローラ達3人の同行を願ったが……その意を組んだ薫子が“護衛として付けなさい!”とリジェに迫り無理やり同伴させた、と言う訳だった。


 師匠が悪態を付くのを聞いて、弟子であるキャロが恐れながら話し掛ける。



 「す、すいません……師匠……混ざっちまって……」

 「「……すいません」」


 「キャロちゃん達は悪くないよ! わたしが友達と一緒の方が安心すると思ってたから……、わたしが悪いんです」



 キャロが師匠であるリジェに謝ると、続いてローラとレーネも続く。明らか機嫌が悪いリジェに対し過剰なほど恐縮するキャロ達を見て、小春はリジェに謝った。



 「いやいや……小春やお前達は何も悪くねーよ。どうせ、護衛役のお前達は小春が何処に居ても、陰ながら付いてくるだろうし……。お前達は良いんだよ、お前達は……」



 小春やキャロ達に謝られたリジェは手をヒラヒラさせて縮こまっている小春やキャロ達を慰める。


 竹を割った様な性格のリジェはお祭り騒ぎが好きで、小春とのデート? にキャロ達が同行する事は寧ろ賛成だった。



 「……お前達は良いんだが、問題はアイツが同行させた……ソコのフヨフヨしたふざけた奴だ」


 「「「「…………」」」」



 リジェは額に手をやり、もう一人の同行者を見てゲンナリしながら呟く。その不可解な同行者がリジェを盛大に悩ませているのだった。



 “問題のもう一人の同行者”……それは薫子が別れ際に魔法の様に呼び出して、薫子はリジェに同行を条件として求めたのだった。



 その“もう一人”は一人と言う単位が正しいかどうか分らない存在だった。小春とローラ達は、高級リムジン内でリジェの言う“フワフワした奴”の存在を見て押し黙る。


 薫子が同行者に選んだ彼女? は、あまりに現実離れした存在で、小春達はどうコメントして良いか分らず、現実逃避して取り合えず接触を控えた。



 そのフヨフヨした不可解な同行者が明るくリジェに声を掛ける。



 「なーんだよ、リジェッち! テンション低いぞ! 折角のデートタイムが勿体ないぜ!」



 そう叫んだのは、フヨフヨと浮かぶ全体的にオレンジ色で構成されたメイド服を着ておりミカンを擬人化した様な妖精の様な少女だった……。


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