227)自室にて

 「皆、わたしを助けてくれたんだね! 改めて有難う!!」


 黒田警部補に無理やり署に連れて行かれそうだった小春の元に、ローラ達3人が現れ……黒田を追い返してくれた。


 その事に感謝しまくった小春は、遠慮するローラ達3人を無理やり自室に連れ込んで改めて礼を言った。




 「いや……気にする事では無い……小春を守るは、我々の責務なのだから」


 「そーだよ、それにしてもしつけぇな、あの警察とか言う連中」


 「うん……自衛軍から。アレだけ釘差されているのに……。本気で潰す?」


 感謝する小春に対しローラは熱っぽく答え、キャロが軽妙に同意しながら、何度も小春を追い回す黒田達の事を思い出し呆れる。


 最後にレーネが、可愛らしい顏に似合わず怖い事を言い出した。



 「あ、あの……わたしはもう大丈夫だから……危ない事しなくて良いよ!」


 「……そうか……小春の命令なら仕方ない……。だが、奴らが叉……小春に付き纏うなら、次こそは容赦しない」


 公園で中崎をあっと言う間に無力化した彼女達の実力を知っている小春は、怖い事を言い出したローラ達を制止する。


 対してローラは残念そうに答えるが、小春に害を与える者には容赦しないと言う姿勢は変わらない様だ。


 自分を守ろうとしてくれるローラ達を見て、小春は安心仕切って今日のファミレスでの出来事を、思わず呟く。




 「……あーあ、今度のリジェさんとのデート……ローラ達と一緒に行ければ安心なのになー」


 「リ、リジェ!? それはリジェ様の事か!? 小春とデート? どう言う事だ?」


 何となく呟いた小春の言葉を聞いて、ローラ達は驚きながら逆に問う。



 「あ、ゴメン……。誰にも言わない心算だったんだけど。実は今日ファミレスでおかしな事になってね……」


 小春は思わず漏らした言葉に、ローラが驚愕した事より……彼女達に、本日の顛末を聞かせた。


 「……ていうことがあってさ。その、リジェって人……女の人なんだけど、何か凄いオーラが有ると言うか、力強いと言うか……。そんな強そうな女の人と、玲人君が戦って欲しくないと言うか、何と言うか……。あれ? そう言えばローラ達とファミレスで最初に会ったとき……金髪のシャリアさんも一緒に居た様な……どう言う事?」


 小春はファミレスでの出来事を話す内、ローラ達の不可解な状況に今更気が付いた。


 「え、えーっと……シャリア様とアタシ等……故郷が同じなんだよ!」


 「あー! それじゃ小学校が同じとか、そう言う事? それじゃあのリジェって人は?」


 「リ、リジェ様も同じ様なモンさー! アハハ……」



 問うてきた小春に対し、レーネは適当な事を言って誤魔化した。建前上、レーネ達は自衛軍が派遣した小春の護衛と言う事になっているからだ。


 「……おい、キャロ! そんな設定を勝手に作るな!」「だ、だって仕方ないだろ……」


 そんな場当たり的な誤魔化しを行ったキャロに対し、小声でローラが文句を言うが、キャロは声を潜めて言い返す。




 流石の矛盾に小春が気が付くかとヒヤヒヤしたローラ達。対して、当の小春は……。


 「なるほどねー! 皆、同じ小学校だったんだ-! うん? シャリアさんって自衛軍の仲間とか言ってた様な……。まぁ良いか!」



 元々、ほわほわした性格の小春は、レーネの作った適当な設定をあっさりと信じていた。



 小春の精神世界にあるシェアハウスで、外の様子を見ていた早苗が、小春の残念な状況に、額に手をあて溜息をついていた。


 なお、同じくシェアハウスに居る仁那も、うんうんと頷きレーネ達の話を何の疑いも無く受け入れていた。


 小春組の参謀役を務める早苗は、残念な二人の様子に交渉役は自分がやるしかないと、改めて決意するのであった。




 そんな早苗の心配を余所に、小春は何の疑いも無く信じた様で嬉しそうな顔をしてローラ達を見つめていた。


 対してローラ達は小春に背を向けて小声でコソコソと囁き合う。



 「……小春があっさりと信じてくれたのは良かったが……リジェ様が行なう覚醒の儀に……呼ばれてもいない私達が、参加するのは拙くないか?」


 「いや……拙いでしょう」

  

 「……だよなー。お前達はまだ良いよ、弟子の私は絶対唯で済まん……」



 ローラがヒソヒソと小さな声で、二人に問うと……真面目なレーネが素で答えた。対してリジェの弟子だと言うキャロが恐怖で震えながら呟く。


 12騎士長であるリジェは細かい事は気にしない、竹を割った様な人柄だが……いざ、戦闘となると苛烈を極めるのだ。


 悪気は一切ないが、恐ろしい天災の様なリジェの事は、弟子のキャロだけで無くローラ達も知っていた。


 小春専属の護衛としてアガルティア城から派遣された彼女達だったが、各々が12騎士長達の教えを受けていた。


 ローラは12騎士長の一人ガリアから。レーネは同じく12騎士長のアルマに師事している。そしてキャロはリジェの弟子だった。


 故に彼女達は師であるガリア達の性格や口調が似通っていた。


 キャロの師であるリジェは情に厚いが、破天荒かつ豪快な性格を持ち、尚且つ戦いが大好きで有る事より、弟子のキャロは修行の際に、喜喜として全力で攻撃してくる為……何度も酷い目に遭っていた。


 それ故に、キャロは師匠の怒りが恐ろしかったのだ。




 ちなみに、彼女達は師に長く教えを乞い、騎士として高い実力を有していた。

 

 その中でも小春と同化したエニやマセスに対し強い親愛を持つ者が、小春専属の騎士であるカリュクスの騎士として選ばれたのだ。


 そんな彼女達3人が話している所へ、小春は後ろから声を掛ける。


 「皆がリジェって人と知り合いなら、心配いらないね! あー良かったぁ、大人の人だしちょっと緊張してたんだ!」


 「……これは腹を括るしかないな……」


 「ですね……」


 「覚悟を決めるわ」


 嬉しそうな小春の声に、ローラ達は意を決して頷き合うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る