225)ブリーフィング

 小春がファミレスでリジェと出会った頃……玲人は駐屯地で、次の作戦について説明を受けていた。


 「……あの街で……テロ行為ですか?」

 

 「ああ、それも大規模な奴らしい」



 驚き問うた玲人に対し、坂井梨沙少尉は悔しそうに答える。



 此処は駐屯地に有る作戦会議室だ。玲人達、特殊技能分隊はこの部屋に集まり、次の作戦に対するブリーフィングを行っていた。


 梨沙に依れば、先日の廃工場でのテロ殲滅戦の際……連行したテロリスト達から得られた証言を解析した結果だと言う。


 得られた証言からすると……、小春や玲人が住まうこの街で近々……次のテロ行為が計画されている事が分ったと言う訳だ。



 しかし、連行したテロリスト達は、真国同盟の中でも下部構成員であり、次の作戦に関して具体的な情報は持っていなかった。


 従って入手した証言より、次の襲撃箇所が行なわれる地域は判明したが、具体的な施設までは分らない状況だった。


 恐らく真国同盟の幹部達は、連行したテロリスト達からの情報漏えいを懸念し、敢えて断片的な情報しか伝えていなかったと考えられた。




 「……得られた情報より、予想される襲撃箇所はこの3か所よ。その内……私達、特殊技能分隊は、この施設の警護にあたる事になったわ」


 「国立、美術館ですか……」



 梨沙が地図上で指し示した場所を見て、ブリーフィングに参加していた泉沙希上等兵が呟く。


 「……そう、その他の襲撃予想地域は……競馬場に映画館。いずれも沢山の人間が集まる施設をターゲットにしていると予想されるわ。その施設には別の部隊が警護に回る。奴ら、真国同盟がどんなテロを仕掛けてくるかは、まだ分らないけど……恐らくは銃火器を使ったテロ行為と考えている」


 「……予想される施設の対応はどうなっているのですか?」



 沙希に答えた梨沙に対し、前原浩太兵長が気になった事を問う。


 「襲撃は予想であり確定では無いけど……一応、各施設の休業要請を検討している所よ。だけど……情報が確定するまでは通常通りの営業を続けさせるみたいね」


 「? どう言う事でしょうか?」


 今一つ梨沙の答えが納得できなかった伊藤が聞き返す。


 「標的となっている各施設を今から休業させた結果、真国同盟の連中が狙う施設を変更する事も十分考えられる。予想した施設と異なる場所でテロ行為が行われた場合、事前の対処が無駄になって後手に回り……却って被害が抑えられないと上層部は考えているわ。だから上層部としては、情報を分析して明確になったタイミングで要請を出す心算よ。だけど……予想外の事態も起こり得ると考えるべきね。だからこそ、襲撃は未然に防がなければならない」


 「……少尉……このテロに乗じて、“奴ら”が攻めて来る事は考えられませんか?」



 説明を終えた梨沙に、最大の懸念をぶつける。


 「十二分に考えられるわ。市街地にあれ程の戦闘力を持った存在が戦闘を行うとなれば……後に残るのは、数万の死傷者、瓦礫となった家や街……大災害の爪痕だ。何としても防がなくては……! 玲人……奴らの狙いは何故かお前の様だ。奴らと接敵した場合、お前は極力派手な戦闘を抑え、民間人の安全を最優先して欲しい」


 「……了解しました……」




 玲人の複雑そうな返答に対し、梨沙も内心同意していた。上官である彼女自身も、今回の作戦には納得していない点が多い。


 この作戦指示は安中大佐からだったが……予想される襲撃箇所の根拠も曖昧だった。


 “連行したテロリスト達からの証言”と伝えられたが、情報入手のタイミングとテロ実行時期が狙い澄ました様に重なり不自然だった。


 10日前に連行したテロリスト達からの証言なら、もっと早くにある程度の方向性が見えて来る筈だが、軍上層部から示されたのは……何とも曖昧な場所と、差し迫ったテロ実行時期だった。


 これでは民間人の安全対策も十二分に取れない。


 不明確な情報提示が頭に来た梨沙は、流石に安中大佐に問い詰めたが、返って来た答えは“解析に時間が掛かった、申し訳ない”と言う言葉だった。



 梨沙達、特殊技能分隊の担当地域である国立美術館も、彼女からすれば割り当てに不満が有った。


 広大な自然公園の中に建造された国立美術館をたった5人の特殊技能分隊だけで担当する……。


本来なら他の部隊と共同で警戒任務にあたるべきだろう。


 しかし、特殊技能分隊の持つ高い戦闘能力と汎用性から、上層部から何の問題も無いとの太鼓判を押されて言わば済し崩しに決定されてしまった。



 確かにエクソスケルトン2機と、圧倒的な戦闘力を持つ玲人が居る、この部隊なら……どんなテロ組織にも対応は出来るだろう。


 そう言う意味では上層部の指示も妥当と言えるが……梨沙は、前回の廃工場での作戦で、出会ったドルジとの戦いにより慎重にならざるを得なかった。




 (……ダメだな……あの怪物との戦闘で大敗した事より、ナーバスになっている……。こんな気持ちでは隊員にも伝わるわ……)


 不安要素が多いこの作戦で、慎重になっていた梨沙は、気持ちを切り替え……特殊技能分隊全員に号令を出す。


 「……皆、先の戦いでは大変だった……。未知の能力を持つ敵との戦いで……我々は大きな痛手を被った。確かに現れた敵は強大だが……我々は負けてはいない。あの強大な敵に引かず組み付いて、最後には退かせた。今度の作戦も、我々ならやり遂げるだろう。各位、細心の注意を払って任務に望んでくれ。説明は以上だ」

 

 「「「「了解しました」」」」


 坂井梨沙少尉の言葉を受け、特殊技能分隊の面々は力強く答えるのだった。

 



 ◇  ◇  ◇




 「……あー、何かおかしな約束しちゃったな……」



 リジェ達と居たファミレスを出た後、自宅へ戻る途中だった小春は……今日の出来事を思い出して一人呟く。


 “だから、罠かも知れないって言ったじゃ無い!”


 小春の呟きを聞いた早苗が意識の奥から文句を言う。早苗はリジェが出した提案を制止したのだ。


 (……早苗さん……勝手な事してご免なさい……)


 “お母さん、小春を叱らないで! 小春は玲人の事を考えて決めたんだよ!”


 怒った早苗に対し、小春は脳内で謝り……そんな彼女を仁那が庇った。


 “……まぁ、過ぎた事は仕方ないわ……。小春ちゃんが向こう見ずなのは今に始まった事じゃ無いしね。私達3人、いやマセスも居れば4人か……。4人居れば成る様に成るでしょ……!”


 (早苗さん、仁那も……どうも有難う……でも、あの人……何でか分らないけど信じられそうなんだよね……)


 許してくれた早苗と、庇ってくれた仁那に対し、小春は礼を言う。


 “うーん……そう言えば、私も……あの二人、知ってる気がする。だから……嘘は付いて無いと思うよ……”


 “そうか……小春ちゃんと、仁那ちゃんには前世の記憶が有るからね……。だから、彼女達の事も分るのかも……!? 二人共……誰かに付けられているわ!?”



 早苗が二人の話を聞いて、興味深く考えている時だった。急に何かに気が付いて警告を発するのであった。



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