224)危険なデート

 「あ、あの……! 貴女達は……だ、誰ですか!? この前、来たドルジって人を知ってますか!?」



 ファミレスに突如現れたリジェとシャリアに、抱き着かれ……頭をワシャワシャされた小春は、漸く解放して貰った後に……出来るだけ、強気で目の前に座る彼女達を問い詰めた。



 しかし……。



 「……あー……癒されるな、シャリア……。本当、転生して本当に良かったって、しみじみ思うよ……」


 「わ、私も……! 冷凍睡眠から起こして貰って……こんな奇跡を目にするとは……! あああ、本当に感無量です!」


 小春が赤い顏をしながら、頑張って目の前の二人に問うが……。



 彼女達には生まれたての子猫がじゃれ付いているかの様に見えており、小春の事を暖かくホッコリした眼差しで見て来る。


 なお、シャリアに憧れるアルバイト店員の友美は……気になって仕方が無い様でカウンター付近から此方を何度もチラ見していた。



 「……ちょっと、聞いてます……?」


 「う、うわ! おおお怒ったぞ、しかも、この怒り方……! まんま、エニだ……!」


 「あああ、天よ……! この私に……この様な幸福をお与え頂き、感謝します!」


 「…………」


 はしゃぐ二人にちょっと苛ついた小春は詰問すると、彼女達は何かツボにハマった様で一層喜ばせる事態となった。



 そんな彼女達に小春はジト目で睨むと……。



 「……あ。コレやべぇ奴だ。エニは切れると後が怖いんだったな……」


 「あー……そうでしたね……。リジェ様、此処は12騎士長として、落ち着いた対応を……」


 「お、おう……」

 

 如何にも機嫌が悪そうな小春を見て、リジェとシャリアはヒソヒソと話し合った。



 「……コホン! あー急に騒いじまって、すまねぇ……。小春は覚えて無いだろうが……、大昔、あたしと……此処に居るシャリアは……お前と仲が良かったのさ。

 それで懐かしくなって……思わずな。……所で聞きたい事って……あたしらの事だな?」


 「は、はい! 貴女達について教えて下さい! この前来たドルジって人は仲間なんですか? そうだとしたら玲人君に酷い事をしないで!」



 落ち着いたリジェに対し、小春は精一杯の勇気を持って問うた。



 「……話せる事にゃ、限界があるが……。まず、名前からだな。あたしはリジェで……、こっちの奴はシャリアだ」


 「シャリアです、以後お見知りおきを……小春様」


 「……はい、わたしは石川小春です」


 名乗りを挙げたリジェとシャリアに対し、小春も自分の名を告げた。リジェは話を続ける。



 「……小春の問いだが……あのドルジは確かにあたし等の仲間さ……。そして、あたしらは小春……お前の本当の味方だ……。小春に危険が迫った時、あたし等全員でお前を助けに行く!」


 「小春様……私も同じ意見です」


 「それなら……! どうしてドルジって人は玲人君に、あんな怪我を負わせたんですか!?」



 小春の問いにリジェとシャリアは、自分達が味方と話すが……、小春は納得出来ず詰問した。



 「それは……他でもねぇ、彼の為さ。ああやってガチで戦えば……元の彼に早く戻れんだよ」


 「あんな危ない事しなくたって……! 何より、玲人君は昔の記憶なんて取り戻したいなんて考えてません! わたし達だって同じです!」



 リジェの言葉に、小春は強く反論する。大人しい小春にしては滅多に見られる姿ではないが、玲人の為……黙ってなど居られなかった。



 そんな小春にリジェは……。



 「……やっぱりエニ……いや、小春は変わらんな……。だけど小春……彼は戦う事を望んでいる……。誰よりもな。その点については小春と彼の考えは違うんじゃないか?」


 「そ、そんな事……無い筈です!」


 「まぁ……行き成り会ったばかりのあたしに言われても……信じらんないだろうさ。そこでな……今度、あたしと遊びに行こうぜ!!」


 「えぇ!?」



 反発する小春に対し、リジェは明るく彼女を誘う。突拍子の無いリジェの言葉に小春は驚きの声を上げた。 



 「……おい、シャリア……どこだっけ、次の作戦地」


 「はい、駅前の国立美術館ですね」


 リジェは小声でシャリアに問うた後……小春を誘った。


 「おお、そこだ! 小春、駅前の国立美術館ってトコに……今度行くんだけど……そこに二人で行こう! えぇと、そう言うの……確かデートって奴だな、うん!」


 「えええ……でも……その……」



 唐突にデートに誘って来たリジェに対し、小春は戸惑い返事に窮す。



 年頃の少女である小春が、同性とは言え……出会ったばかりの人物の誘いに慎重になるのは当然の事だ。


 返事に困っている小春を見て、リジェはニヤリと笑って有る事を提案する。



 「……そうだなー、小春があたしとのデートに付き合ってくれるなら……あたし自身は彼と直接戦わない。……言っとくけど、あたしはドルジに負けねェ位強い。どうだ、悪くない話だろ?」


 「ええ!? リジェ様! アジトでの打ち合わせと話が違うのでは!?」


 リジェの突然の提案に、横に居いたシャリアが驚いて制止する。


 「……良いんだよ……、あんな街中でド派手にやれねぇし……、ディナの奴も面倒臭いし……。そんなんだったら小春とデートしてる方が良いぜ! まぁ、覚醒の儀はちゃんとするから心配すんな!」


 「し、しかし……!」


 「……本当ですか、その言葉……。わたしがリジェさんと国立美術館と居れば……貴女は玲人君と戦わないんですね。それなら……わたしは、そうします」



 リジェの提案に対し、小春は迷う事無く乗った。


 リジェやシャリアが言う様に……小春は彼女達の事を知っている気がした。だからこそ……リジェの言葉に嘘は無いと確信できた。


 その為……小春は目の前のリジェが、とんでもない力を秘めている事を感じていた。


 リジェがドルジと同じ様に、玲人と戦えば……今度こそ彼が死んでしまうかも知れない……。そんな不安を感じた為、小春はリジェの提案に乗ったのだ。



 “小春ちゃん、無茶よ! 彼女の提案は、きっと罠だわ!”


 (大丈夫です、早苗さん……、わたしは……彼女達の事を良く知っている……気がします。だからこそ……分るんです。……彼女達の言葉に嘘や悪意が無い事に)


 小春の意識奥から、危機を感じ取った早苗が強く制止したが、小春は確信を持って答えた。



 「小春が私に付き合ってくれんなら……“あたしは”戦わないよ。どうだい?」


 「……ええ、分りました。リジェさんと国立美術館……ご一緒します」


 再度誘ったリジェに対し、小春は迷いなく答えた。



 こうして……小春は危険な国立美術館での危険なデートに向かう事になったのだった。


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