223)次なる来訪者
「さぁ、じゃんじゃん頼んでくれ!!」
「うん! ありがとう!!」
突然現れた、黒髪の美女リジェにメニューを見せられた仁那(体は小春)は、元気よく答え……リジェの勧める通り遠慮なく大量の注文をする。
ファミレスで親友の晴菜に、夏休みの宿題を見せていた小春。そんな彼女達の前に現れたのは割烹着姿のブロンド美少女シャリアと、黒髪の美女リジェだ。
小春の知り合い……と言う二人組に、晴菜は遠慮して帰って行った。
緊張する小春に、リジェは優しく声を掛け“好きなモノを食べな!”とメニューを見せながら勧めた所……。
小春と同化した仁那が“替わって!!”と騒ぎだし……止む無く小春は、それに従ったと言う訳だった。
「……うまいか……?」
「ガツガツ……んぐ……おいしい!」
「そうか、そうか!」
仁那(体は小春)は遠慮なく注文した品を貪り食う姿を……リジェやシャリアは微笑を湛えて幸せそうに見つめている。
傍から見れば仲の良い三人姉妹の様に映り、初めて会った関係とはとても思えないだろう。
そんな中、精神世界のシェアハウスで外の様子を見ている小春は、この不思議な状況が心配となり、夢中で食べている仁那に注意を促す。
“ちょっと仁那! 相手の人達とは初めて会ったんだから、もうちょっと遠慮とか、した方が良いよ!”
(…………)
“仁那! 仁那ってば! あーダメだ……食べる事必死で、わたしの声聞こえて無いよ”
精神世界から、食事を貪る仁那に向けて叫ぶ小春だったが、全く答えない仁那に呆れながら呟く。
そんな小春に同じくシェアハウスに居る早苗が冷静に答える。
“……小春ちゃん、構わないから、そっとしておきましょう”
“だけど……早苗さん、目の前の二人って……。わたし、あのドルジって人と関係が有るように思うんです……”
精神世界で静かに話す早苗に、小春は言いようも無い不安を口にする。
――ドルジ――高級スイカを手に突然、小春の自宅現れた彼は……とんでもない力を秘めた存在だった。
テロ掃討作戦に参加していた玲人の前に現れ……現場だった廃工場群を破壊し、玲人に重傷を負わせた。
小春は、そんな恐るべきドルジと……微笑みながら仁那が食べる様子を見つめている女性達が、重なって仕方なかった。
特に……黒髪で目つきのキツイ美しい女性……彼女が只者で無い事を感じ取ったのだ。
不安を口にした小春に対し、早苗は意外な答えを返す。
“……十中八九、そうでしょうね。彼女達は、あの男の仲間でしょう”
“え!? だったら……!?”
“いいえ、何も心配いらないわ……。彼女達は、私達に何の危害も加えない……。私はともかく……小春ちゃんや仁那ちゃんには絶対に。寧ろ、同一化して一人となった私達に危険が及べば、全力で守るでしょう。だけど……それ以外は別ね。彼らの目的、少し話したでしょう?”
“……ええ……確か、玲人君の中に居る……マニオスって人を起こす為だと……”
早苗の言葉に、小春は戸惑い気味で答える。
先日のドルジ襲撃の後……。早苗は、小春と仁那の二人に真実の一部を明かした。
現存するアガルティア城の事や、安中や薫子の正体は伏せ……玲人の中に眠るマニオスを起こそうとするアーガルム族達が居ると伝えた。
また……彼等が小春達にとっては崇め立てる対象であり味方ではあるが、マニオスを覚醒させる為には手段を選ばない存在であるとも話した。
本当は、まだ子供である小春と仁那そして玲人には最後まで真実を隠しておきたかったが……、この前のドルジ襲撃で、それも難しくなった。
仕方無く、早苗と修一は薫子と相談して最低限の事を小春達に伝えた次第だ。
“……そんな訳で目の前の彼女達は……私達にとって危険じゃないわ。寧ろ、どちらかと言えば”アイドル“みたいな存在かもね”
“だけど……玲人君に取ってはそうじゃ無い……って事ですよね……”
“まぁ……彼女達は玲君を傷付けたいんじゃ無い……。逆に玲君の為にやってる心算なんでしょう……”
ある程度の事情を話している早苗は、小春を安心させる為に話したが、玲人を想う彼女としては、納得しない。
この問題を何とか大人達(早苗と修一と薫子)で片付けようとしている早苗は、曖昧な答えを返したが……。
“……早苗さん……わたし、ちょっと彼女達に話してみます……”
“やっぱり、そうなるわね……。はぁ、分った。仁那ちゃんも十分食べたでしょうし……小春ちゃんと替わって貰いましょうか……”
直接リジェ達に話すと言う小春は、玲人に危険が及ぶ事に納得できない様だ。
普段穏やかだが、決意と覚悟を持っている小春を理解している早苗は……溜息を付いて仁那と小春を交代させるのだった。
◇ ◇ ◇
「……幼くなったマセス様に替わって……今度はエニか……!? 今、私は凄く嬉しいぞ!!」
仁那から替わった小春を見て、目の前のリジェは歓喜しながら行き成り、抱き着き叫ぶ。
ファミレス内で響く大声で客の何人かは、リジェの方を見て振り返るが彼女は一向に気にしない。
小春は全く外見が変わっていないのに仁那と自分の意識が入れ替わった事に気が付いたリジェに驚きながらも、抱き着かれた事で戸惑い顔を赤くしながら……何とか切り出す。
「え、えと……その、今のわたしはエニじゃ無くて……、こ、小春です。あ、貴女は……ど、どちら様ですか……?」
「おおぅ? そうか、今は小春って名だったな! ゴメンゴメン! いやー姿は全く違っても、魂の色っつうか、雰囲気とか全くおんなじだから……舞い上がっちまったぜ! それにしても、今のお前もスゲェ可愛いなー!!」
「……激しく同意します……!」
抱き着かれて困り顔の小春を余所に、リジェは彼女の頭をガシガシと撫で、横に居るシャリアも満面の笑みで頷くのであった。
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