20章 穿の騎士

222)災厄との出会い

 ドルジとの戦いから10日程が過ぎ、漸く落ち着きを取り戻したある日の午後……石川小春は親友の松江晴菜と共に以前来た駅前のファミレスに来ていた。


 彼女達の目的は夏休みの宿題を終わらせる為だ。


 もっとも小春は大体終わらせていたが、晴菜の方はそうでも無く……晴菜は小春の宿題を見せて貰っている状況だった。




 「……イヤー、助かったよ……! やっぱり持つべき者は友達だね!」


 「全く、晴菜ちゃんは都合良いんだから……」


 溜まりに溜まった宿題問題が解決した事で、心底安堵した晴菜は手足を伸ばしながら明るく話す。


 対して小春は調子のいい晴菜の言葉に呆れながらジト目で呟く。



 「まぁ、そう言うなよー小春ー、今日なんか奢るからさ!」


 「……なら許す……! 所で、カナメ君に見せて貰えば良かったんじゃ無い? 折角の口実だったのに……」


 “奢る”と言うキーワードで怠惰な晴菜を許した小春は、気になっていた事を彼女に問う。



 「ちょ、ちょっと小春……! 急に何言い出すんだよ! カカッカ、カナメの奴も忙しいだろうし……その……」


 「……ほう? わたしは暇だと?」


 「い、いや……、そう言う訳じゃ……。あーもう! 分るでしょ! こ、小春だって大御門君に宿題見せてって言えるか!?」


 「!? そ、そそそそりゃー……言えないな……」



  晴菜に突込みを入れた小春だったが、逆に問われて大いに戸惑う。



 「だろー!? このヘタレ野郎!」


 「晴菜ちゃんもでしょ! そんな暴言を吐くなら……宿題返しなさい!」


 「ひ、卑怯だ! 横暴だ!」



 小春と晴菜は、周囲の目を忘れ、大声で互いを罵り合っていると……。



 小春達が座るテーブルに笑顔を浮かべた女性店員が音も無く近づいて、静かに声を掛ける。



 「……お客様、大変恐れ入りますが……声のトーンを少しだけ落して頂けます様、お願いします……」


 「あーっと、気を付けまーす!」


 「どうも、すいません……! ……あ……」



 声を掛けて来た女性店員に、晴菜と小春はすぐさま謝った。次いで小春は女性店員の顔を見た時、彼女に見覚えが有った。


 以前メイと盛り上がっている時にも、小春とメイを嗜めた女性店員だった。


 小春は先日に続いて、今日も騒がしくして同じ女性店員に注意された事に恐縮し、小さな声で謝った。



 「……いつも……ご、ご免なさい……」


 「いえいえいえ……! 分って頂ければ問題ありません!」



 素直に謝った小春に対し女性店員は過剰なほど、大袈裟なリアクションを返して来た。



 その様子に小春の横に居た晴菜は首を傾げる。一方の小春は……先日も、この女性店員が色々とおかしな挙動を見せた事を思い出していた。


 小春が目の前に立つ女性店員(柴田友美)の事を忘れずに、覚えていたのは彼女に叱られた為では無かった。

 

 あの時、色々有って早苗に体を貸した小春は、更に大騒ぎを起こしてしまい、2度もこの女性店員(柴田友美)に怒られると言う失態を犯した。


 更に、後から店に入って来たローブ姿のローラ達3人により、ありふれた筈のファミレスは混乱に陥った。


 そして……奇抜な格好をしたローラ達もそうだが、彼女達を迎えに来た割烹着姿のブロンド美少女シャリアが、小春の前に跪いた事により混乱に拍車を掛けた。


 シャリアとローラ達が去った後……小春とメイがそそくさと帰ろうとした際、この女性店員(柴田友美)が小春の手を取って……何故か大喜びされた、と言う謎エピソードがあった。


 もっとも、小春は知らなかったが、この女性店員の柴田友美は自分が通う女子高の先輩であるシャリアに強く憧れていた。


 その為、そのシャリアと縁が有りそうな小春に対し、女性店員の柴田友美は歓喜して接したと言う訳だった。



 そんな事情を知らない小春に対し、女性店員の柴田友美は興奮を抑えきれず問う。


 「と、所で……シャリア様は、お元気にされていますか!?」


 ファミレスのモラルを無視して、公私混同で小春を問い詰める柴田友美(女性店員)に対し……小春は困りながら答える。


 「えぇと……その……きっと……多分……」


 「そうですか! また、機会が有れば宜しくお伝えください! 後輩の柴田友美が学校でお会い出来るのを楽しみにしていると。……それではごゆっくり!」



 小春は誰だかよく分らないシャリアの事を問われて、返事に窮し曖昧に答える。対して女性店員の柴田友美は満面の笑み浮かべながら、カウンターの方へ戻って行った。



 女性店員が去った後、晴菜は怪訝な顔を浮かべ小春に尋ねる。



 「……シャリア? 小春ーお前に海外の知り合いが居たのか?」


 「うーん……、わたしはその人の事知らないんだけど……向こうがわたしの事を知ってて……行き成り、跪かれた……」


 「はぁ? 何じゃそりゃ?」


 「わたしだって聞きたいよ……! ……あぁ、そう言えば……」



 素っ頓狂な声を出して呆れながら問うた晴菜に対し、事情が掴めていない小春は軽く逆ギレしながら……有る事を思いだす。



 「……どうかしたの? 何か、思い出した?」


 「う、うん……。この前、家に来た人……。あの、スイカ持った人も……変わった名前だったな……。結局あの人、凄く怖い人だったけど……」



 小春が、早苗の問いに……思い出しながら答えている時だった。



 「キャアアア!! シャリア先輩ィ!!」



 唐突に女性の甲高い大絶叫がファミレス内に響く。驚いた小春達が声をする方を見ると……。



 ファミレスに入って来た二人組の女性の内……割烹着を来た長髪のブロンドヘアーを持った美少女に、先程小春に注意した女性店員の柴田友美が抱き着きながらキャーキャー叫んでいた。


 なお、壊れた友美が発した大絶叫は、先日に引き続き二回目の事だった。



 女性店員の柴田友美に抱き着かれた割烹着姿のブロンド美少女……シャリアは苦笑を浮かべていたが……シャリアの背後に居た、もう一人の女性が呆れながら呟く。


 「……随分と騒がしいな……。そのマールドムの女……お前の連れか?」



 そう呟いた女性は……目つきはきついが、黒髪のかき上げられたミディアムヘアを持った大変美しい女―-リジェだった。



 「……申し訳ありません、リジェ様……。マールドムの学び舎では……どう言う訳か懐かれてしまいまして……」


 「まぁ、別に良いけどよ」


 シャリアは、リジェに軽く頭を下げて侘びた後……そっと抱き着いた友美を放しながら声を掛けた。


 「……この方を……あそこに居られる小春様の元にお連れせねばならん。済まないが、案内を頼めるだろうか……」


 「は、はい! 今すぐ……!」


 シャリアに頼まれた友美は、喜喜としてリジェ達を小春の元へ案内する。


 こうして小春は……ドルジに続く新たな災厄(リジェ)と出会うのであった。



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