221)呼び掛ける声

 マニオスが作りだした真っ白な精神世界。その中で巨大なクリスタルに入って眠るマニオスに玲人と修一は出会う。


 初めて見るマニオスの姿に修一は静かに呟く。


 「何て言うか……意外だね……」


 「……ああ、人類を憎み……滅ぼすと言う割には、穏やかそうな男だ……」



 クリスタルの中で眠るマニオスは逞しい身体と、その顔も目麗しいが……人類の滅亡をを望むと言う割には、知的で物静かな印象を玲人と修一に抱かせた。


 「実際、そうなんだろう……早苗姉さん経由で聞いた、過去のマニオスは静かな人だったらしい……。しかし、エニって子の死で激高し……人類の殲滅を始めたと言う……」



 玲人の言葉に、修一は悲しそうに答えた。



 「エニ……今の小春だな」


 「うん、そして……小春ちゃんは、いや小春ちゃん達は……マセスって人でも有る。だからこそ、彼女達は“鍵”なんだ」



 呟いた玲人に、修一は今まで集めた情報を元に、小春の立ち位置を明確に示した。



 「そうか……あの時、小春が危機に陥ったから……コイツは、マニオスは目覚めたのか……」


 「……だろうね……。だったら、小春ちゃん達を守らないと……」


 「ああ……!」



 クリスタルの中で眠るマニオスを前にして、玲人と修一は改めて小春を守る決意をする。



 ――そんな時、白い空間に声が響いた。



 “玲人君……早く、目を覚まして……”



 響いてきたのは小春の声だ。その声は酷く心配そうだった。


 「……小春……!」


 「随分と、心配そうな声だ……。僕達がいつまでも眠っている訳に行かないね……。取敢えず、マニオスの事は戻ってから考えるとして……、直ぐにでも、現実世界に戻ろうか……玲人」



 小春の声を聞いて彼女の名を呼んだ玲人に対し、修一は現実世界への帰還を促す。


玲人は修一の言葉に頷き……二人は目を瞑って意志を高め、マニオスが居る精神世界から移動した。


 真白い空間に浮かぶ巨大なクリスタル……。その中で眠るマニオスは微動だにしなかったが……。


 

 “ゴゴゴゴゴ!!”



 突然、マニオスを包む巨大なクリスタルが音を立てて振動し、真白い空間自体も大きく揺れた。


 そして……。


“ミシ、ビシシ!”


 嫌な音が響き巨大なクリスタルに小さなヒビが生じる。



 ドルジと戦った為か……玲人や修一がマニオスの元に訪れた為か……それとも小春の存在を感じた為か……。


その全てかは分らないが、マニオスの覚醒は始まってしまった。



 そして、今現在も進行しているのであった……。





   ◇   ◇   ◇





 「よ、良かった……!! 玲人君!!」


 マニオスが居た精神世界にて玲人は、小春の声を聞き現実世界への帰還を行う。


 そして涙を浮かべ必死な顔をした小春に抱き着かれた所で目を覚ました。


 「……小春……心配を掛けた様だ……」



 玲人は涙目で抱き着く小春の頭をそっと撫でながら申し訳なさそうに呟く。


 「……ううん……いいよ……あああ!? わわわたし、何て事を!?」


 そんな玲人の態度に暫く呆けていた小春だが、玲人に頭を撫でられていると言う、自分の状況を思い出し、慌てながら大急ぎで彼から離れた。



 玲人はそんな小春の様子を微笑ましく思いながら、気になっている事を彼女に問う。


 玲人は小春がアンちゃんで戦ってくれた事は、精神世界で見ていたので知っていたが、ドルジに深手を負ってからの記憶が無かった為、詳しい事情が分らなかった。

 

 「小春……教えてくれ、どうして君はあの場に? そして……事件はどうなった?」


 「う、うん……えーっと、何から話そう……」

 「……いや、この件は私から説明するよ」

 


 玲人に問われた小春が、額に手を当て考えている所に……個室のドアが開き、玲人が所属する特殊技能分隊長である坂井梨沙少尉と、玲人の叔母で医者でも有る薫子が入室してきた。


 「……坂井少尉……それに薫子さんも……」


 「玲人君……坂井さんは毎日、玲人君のお見舞いに来て貰ってるの。坂井さんだけじゃ無い、他の分隊の人達も代わる代わる来てくれた……。安中さんもね。薫子先生は、お医者さんとして玲人君を診て下さったのよ」

 

 呟く玲人に対し、傍に居た小春は入って来た坂井と薫子について話す。


 対して坂井と薫子は笑顔で小春に応え、起きたばかりの玲人に小さく手を振って挨拶した。


 玲人は小春の言葉から自分が予想より長く気を失っていたと理解し、坂井少尉に向け事件の現状を問う。


 「……そうだったのか……。坂井少尉、あれから事件はどうなったんですか?」


 「ああ、玲人……今状況を説明しよう。お前は、余程疲労していたのか……1週間程、眠っていたんだ……」


 そうして坂井は玲人にドルジ襲撃事件に付いて説明した。



 小春がテレビを見て作戦指揮通信車に有ったアンちゃんに憑依して参戦した事……。その小春が重傷だった玲人を癒した事。小春が操るアンちゃんのボディが破壊された時点で、気を失っていた玲人が、漆黒の腕を生み出しドルジを圧倒した事。


 そして……玲人が恐るべき力を発揮してドルジを大地ごと吹き飛ばして勝利した事を説明した。



 「……玲人……お前が生み出した黒い腕で、奴を大地ごと吹き飛ばしたが……。奴は体に大穴が開いた状態で……平気そうにしてたんだ。そしてあっと言う間に体を再生した所で……別な二人組が現れたのさ……」


 「別な、二人組……?」


 説明をする坂井に、玲人は“二人組”について問い返す。


 「ああ……二人共、女だった。声の様子から、まだ年若い感じだな。そいつらもとんでもない力を持っていた。なんせ、燃え上がっていた廃墟の街を一瞬で全氷結させやがったからな」


 「……にわかには、信じられません……」


 「だが、事実だ……。此処に居る私や、小春ちゃんも見たからな。だが、あの戦い自体は……真国同盟が仕業と言う正式発表だ。無論、大ウソだが……政府としては、正体不明の第三者勢力の存在を公式に認める訳に行かないとの見解らしい」


 「…………」


 苦虫を噛み潰した様な顔をしながら、玲人に説明する坂井少尉。彼女としてはドルジ達の存在を隠そうとする政府の発表に、まだ納得していない様だ。


 対して玲人は坂井の説明を聞いたが、複雑な自分の心境を口にする事は出来ず……黙って聞いていた。


 彼の気持ちが分る坂井は、説明を続ける事を憚りながらも……どうしても玲人に伝えるべき事が有り、溜息を付きながら話す。


 「……はぁ……まだ、言わなくてはならん事が有ってな……。玲人、この戦いは終わっちゃいない……」


 「……どう言う事ですか……?」



 「奴らが言っていた……。“また来る”と……」



 玲人の問いに坂井は冷静な声で答えた。その後、横に居た薫子がそれ以上の負担を玲人に掛けてはならないと、注意をされ……話し合いは中止となった。


 薫子と小春は連れ立ってエレベーターホールに坂井を見送りに行き……個室には玲人一人となった。


 一人となった玲人は、誰にも言えなかった事を、そっと口にする。

 

 「……そうか……やはり……奴らの狙いは、マニオスなのか……」


 玲人は呟きながら、この戦いに立ち向かう覚悟を決めたのだった。



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