220)マニオスとの邂逅

 精神世界に居る玲人と修一は、地下より響くマニオスの呼掛けに応じ、ログハウスを出る二人。


 しかしログハウスを出て、直ぐに驚く事になる。変わっているのだ、地形が。


 「こ、これは……地形が変わっている……それにこの光は!?」


 「……そうだね……ログハウスは尖った頂きの様な地形の上に建っていた。もっとも……それは巨大な組んだ指の上に建っていたんだけど……随分狭くなった……ここは変わらないけど……外周部が様変わりした様だ……そしてこの激しい光……真下の方から透過しているのか……?」


 驚く玲人を余所に修一は冷静に状況を分析する。



 元々、この精神世界のログハウスは……マニアスの物であろう、巨大な6本の手を祈りを捧げる様に組んだ指の上に建っていた。


 それが、組まれてる巨大な手は4本となり一番外側から覆う様に組まれた2本の手は忽然と消えていたのだ。



 そして一番玲人を驚かせたのが、地盤となっている組んだ巨大な指が光を放っている。



 しかしその光は指から放たれているのではなく、組まれた指のもっと下の方からの光りを透過している様だった。


 地形、いや巨大な腕の変化に戸惑った玲人達だが意を決して光の根源……組まれた手の平の方に向かう。


 玲人は自身を浮かせて後に続いた。修一は以前の様に、ダクテッドファンを搭載した無人機に乗っている。



 向かいながら、玲人は先日のドルジ戦で、どうしても気になっていた事を改めて修一に問う。



 「さっきは聞きそびれたけど……あの戦いで……俺達が居た、あの白い世界……あれは、何だったんだ?」


 「分らない……。だけど、この暗闇の世界と同じく……彼、つまりマニオスが作った精神世界の一つだと思う」


 問うた玲人に対し、修一は静かに答えた。


 「……マニオス……転生する前の俺か……。なぜ、あの時だけ……白い世界に、俺達は居たんだろうか。それも……動けない状態で……」


 「これは予想だけど……、あの時僕らは現実世界でドルジって人と戦っていた……。そしてドルジは言っていたよね。“全てはお館様の為”とか“お館様の御目覚め”って事を……。あのドルジは……僕達と戦う事で“お館様”……つまりマニオスを目覚めさせようとしたんだろう」


 「そうか……そしてマニオスは目覚め掛けた……。あの白い世界に有った巨大なクリスタル……アレがマニオスか……」


 「そうだろうね……。彼の半覚醒と同時に僕達も、あの空間に拘束された。そう考えるのが無難だろう……。そしてあの空間で聞こえた声……あの声がマニオスだと思う」


 「ああ、何故かは分らないが……確信は持てるよ。あの声が響いた瞬間……俺も、父さんも意識を失った。あの時にマニオスは目が覚めたのだろうか……」


 修一の推察に、玲人も同意しながら呟く。


 「そうかもね……だけど、またログハウスに僕らが居たって事は……マニオスは、まだ完全に目覚めていない。それを確認したいんだ」


 「成程……良く分ったよ」



 そんな事を話していた二人は……組んだ手の真上にあるログハウスから垂直となった手の甲まで降りて来た。組まれた手の甲は巨大で幅は目測で50mはあろう。



 垂直に立ち上がる腕の底が見えず、漆黒の闇だけが広がっている。二人は光輝く手の甲を眺めながらログハウスから凡そ30m位下まで降りてきた。

 

 丁度この位置が光の発生源だった。組まれた手の平から激しく光が漏れている。その様子に修一が話す。


 「……光り輝く巨大な手……不気味だけど幻想的だね……恐らく、この光の中心に彼が居る筈なんだけど……」


 「……彼……マニオス……が此処に……」



  修一の言葉に玲人は思い出す様に呟き、そして光輝く手の甲にそっと手を置く。


 すると……途端に輝く手の甲は直視出来ない程に眩く輝き、周囲の闇を真白く照らした。


 「な、なんだ!? この光は!?」


 「いけない!! 彼に! 取り込まれる!」


 爆発する様に輝く光に玲人と修一は晒されて、そのまま姿を消してしまった……





  ◇   ◇   ◇





 精神世界のログハウスに居た玲人と修一は、突如鳴り響いた地響きに誘われる様に、巨大な手の甲で眠るマニオスの元へ来たが……。


 突然、瞬く様な光に晒された玲人と修一は、そのまま姿を消してしまう。そんな玲人が気が付くと……先程までとは全く違う空間に居た。



 「……ここは?」


 玲人が目覚めた場所は以前強制的に連れて来られた……あの白い世界だ。


 玲人は立ったまま浮かんでいる状態だ。彼のすぐ隣には立ったまま浮かんだ状態で修一が眠っている。


 そして修一と玲人の前には、あの巨大なクリスタルが浮かんでいる。但し今回は、以前と異なりクリスタルの内部を見る事が出来た。


 クリスタルの中には、彫刻の様に逞しい身体つきをした、見目麗しい男が立ったまま眠っていた。その男を見て玲人が呟く。


 「……コイツがマニオス……そうすると……ここは、あの手の中か……」


 玲人は自分達が居る場所が、あの巨大な手の中だと気付いた。玲人は周囲を見回した後に横に居た修一に呼び掛ける。


 「父さん、起きてくれ、父さん」


 「……う、うん……」


 玲人が呼び掛けると修一は、どうやら目が覚めた様だ。


 「!…… 玲人……ここは?」


 「ああ、父さん……詳しくは分らないが……俺達が、今居る場所は……あの手の中だろう……そしてそこに居るのが、マニオスだ……」


 「……そうか……彼が……マニオス……」


 玲人にそう言われた修一は、眠っている美しい男を見つめるのであった。


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