219)互いの信じる道②

 マニオスを復活させようとする12騎士長筆頭のウォルスと、マセスに仕える騎士ディナである薫子との協議の結果をアリエッタは安中に伝える。


 「はい、御察しの通り……ウォルス卿とディナ卿の話し合いの結果……この私は、マセス様つまり小春を専属にサポートする事となりました。今まで……12騎士長へのサポートは私が引き受けておりましたが……私と同じく中央制御装置に接続された16人の子供達の中から、ヘレナやルチアナ達が引き継ぐ事となりました。ウォルス卿としてもアガルティア国の復興が進んだ事も有り、ディナ卿の要請を受けた形です」


 「そうか……君は特にエニ……いや、今は小春か。彼女との縁が深かったからな。そう言う意味ではディナが君を指名するのは致し方ない。君のサポートを受けれんのは残念ではあるが……」


 アリエッタの説明を聞いた後、安中は残念そうに呟いた。


 「……有難う御座います。ですが、サポートするお相手は異なったとしても……私自身の本体は中央制御装置に接続されています。何処かに離れる訳では有りませんので、呼んで頂ければ現れます。そう言う意味では御安心下さい」


 「まぁ、確かにな……。所で、ディナとしては君を引き込む事により、マセス様側の陣営を増やしつつアガルティアの機能の一部を使役する心算なのだろう。彼女はマセス様の意に従い……マニオス様と立ち向かう心算だな。13000年前と同じ様に……」


 「……はい、ディナ卿のマセス様に対する忠義の心は篤く……決して折れる事は無いでしょう」


 「それは此方も同じ……我々も折れる訳にいかん。そう言う意味では……13000年前と同様、今回も荒れそうだな」


 「私はそうは思いません……。今回は此方に小春が居ます。そう、もはやマセス様と一つになった小春が……。エニでも有りマセス様でもある彼女が居れば、無敵のマニオス様にも負けません」


 呟く安中の声に、アリエッタは迷いなく答えた。


 「そうか……アリエッタ、君自身も小春殿の傍に居る事を望んでいるのだな……。ならば、何も言うまい。君自身が信じる道を歩むと良い。私もそうする心算だ」


 「……はい、トルア卿。私達はお仕えする主は違いますが、私と貴方様と憎しみ戦い合う訳では有りません。マセス様と一体になった小春に仕える事は、マニオス様の意に沿う事でも有ります。そんな訳で私としては貴方様は今まで通り、円滑な関係を望みます。立場は変わりましたが、お互いの信じる道を迷いなく進んで参りましょう」


 “ヒュン”


 「アリエッタめ、随分と嬉しそうな顔をしていたな……私がやるべき事は変わらんが……明るい道を歩まんとする君が、少しだけ羨ましく思うぞ……」


 声を掛けた安中に、アリエッタは美しい笑顔を見せて話した後……その姿を消した。安中は今度こそ一人になったオフィスで呟くのであった。




  ◇◇◇




 一方、ドルジと戦った後……倒れた玲人は、あれから目を覚まさず大御門総合病院の個室で眠っていた。


 個室で眠る彼の横には小春が付き添っている。小春は暇が有れば、こうじて眠ったままの彼の元に寄り添っていた。


 彼女は数日にわたる、玲人の看病の為か、椅子に座ったままうたた寝していた。個室には二人以外誰も居ない。



 何処までも静かな時間が流れていた。



 ……そんな中、眠る玲人に呼び掛ける者が居る――


 「……いと……玲人……目を覚まして」


 玲人は誰かに呼ばれる声で目を覚ます。そこは意識内でカナメと落ち合うログハウスだった。


 「ここは……父さんの……ログハウスか……何故……ここに……?」


 「目が覚めた? どうやら僕達は、彼との戦いで長い間意識を失ってたみたいだ……。僕もついさっき目が覚めてね。外の様子だけど……どうやら、戦いは終わった様だ」


 「……それで父さん、戦いはどうなった?」


 玲人の問いに修一は静かに答える。対して玲人は気になっていた事を尋ねた。


 「さっき言った通り、僕も目が覚めたばかりでさ……。詳しい事はわからないけど……。現実世界では僕達は大御門総合病院で眠っている様だ。そして……すぐ傍には小春ちゃんがうたた寝してるよ」


 「そう、か……小春が無事で良かった……」


 「襲って来た彼……確か、ドルジって名乗っていたね。彼の目的はあくまで僕達だろう。自分でもそう言ってたしね……。だから、それ以外の事は余り積極的には戦おうとはしていなかった。止む無し相手している、と言った感じだったし。多分、あの場に居た人達は大丈夫だろう」


 呟く玲人に対し、修一は状況を整理して推測する。


 「ああ、俺もそう思う。あのドルジと言う男……全然本気を出していなかった。奴があの場に居た皆を殺そうと思えば、簡単に出来た筈。あくまで目的は俺に有った様だ」

 

 「……そうだね……。まぁ、戦いは終わったんだ。……とにかく、これを飲んで落ち着こう?」


 状況を理解した玲人に対し、修一はコーヒーを勧め、自分はココアを入れた。



 二人の間に穏やかな時間が流れる中、玲人は戦いの最中……発生した不思議な現象を思い出し、修一に話し掛ける。



 「……そう言えば、ドルジとの戦いの時……、俺達は真白い空間にて拘束されていたな。そして俺達の眼前に浮かんでいた巨大なクリスタル。アレは……」



 “ゴゴゴゴゴゴ!!”



 玲人が修一に問い掛けようとした際、突然大きく揺れるログハウス。揺れが収まった後、玲人と修一は顔を見合わせて呟き合う。


 「……揺れは収まったか……でもこの感じは……」


 「ああ、玲人…僕も同じ事を考えていた……どうやら、下から誰かが呼んでいる様だ……」


 「確かに……そんな感じがする……。まぁ、この世界に居るのは俺達以外では彼しか居ないが……。とにかく会いに行こうか、父さん?」


 「……ああ、そうしよう」


 こうして精神世界に居る玲人と修一は、ログハウスの遥か下より呼び掛けるマニオスの元へ向かうのであった。


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