215)廃倉庫での来襲-26(嵐の予感)

 致命傷を負ったにも関わらず一瞬で再生したドルジ。そして突如現れたガリアとアルマ……。


 彼女達は破壊され、燃え上がる廃工場群を背に、穏やかに談笑する。



 梨沙は理解出来ない状況に思わず冷静さを失って大声を上げて問うた。

 


 「な、何なのよ! アンタらは!?」


 「……ふむ? このマールドムの女は何だ?」


 「確か……トルアが気に掛けている子だと思うけど……」



 梨沙の問いに、ローブ姿のガリアとアルマは首を傾げながら話し合う。



 「この者達は、マールドムの兵だ。無謀にもお館様を守ろうと……我に向かって来た」


 「お館様と、エニとなったマセス様を守ってる様だし……少なくとも敵じゃ無いでしょう」


 「成程……トルアが片手間がやっているアレか……。奴め、無駄な事を……」



 ドルジの言葉を受け、アルマとガリアは梨沙達……特殊技能分隊がどう言う存在か理解した様だ。



 対して特殊技能分隊の面々はと言うと……梨沙の叫びに触発された様に、前原や沙希、そして伊藤が銃を構えガリア達に向けた。


 小春は玲人を守る様に抱え、志穂は二人を支えた。そんな彼等を見たガリアは梨沙達に向かい声を掛ける。



 「ご苦労だった、マールドムの戦士達……。私はアガルティア国12騎士長が一人、ガリアだ。今宵、漸くお館様の……覚醒の儀を執り行う事が出来た。これは長くからの我等の悲願であり、今回それが叶ったのは実に喜ばしい事だ。故に今日の所は大人しく引き下がろう……」


 「お、大人しく!? 此処をこんなにムチャクチャにして、何を言ってるの!? 周りを見なさいよ! 今もこんなに燃え上がって……!」


 ハーフマスクを被ったまま、淡々と話すガリアに、梨沙は興奮して叫ぶ。



 「ああ、この廃墟の事か? 此処は無人だとアリエッタ達から事前に確認していた筈だが……」


 そう呟いてガリアは右手を手に向け真っ直ぐ上げる。


 「こんな廃墟が燃えるのを気にするとは……まぁ良いだろう……」


 ガリアがそう呟くと同時に上げた右手が眩く輝き出す。


 「……炎よ、静まれ!」


  “カッ!!”


 ガリアの叫びと同時に、右手を中心に強力な光の波が広がる。余りの眩さに特殊技能分隊の面々は腕で目を隠した。


 やがて、強烈な光の波が過ぎ去った後……恐る恐る、梨沙達が目を開けると……。



 闇夜を明るく照らしていた廃工場群の豪炎が全て消え去っていた。


 全ての炎が消え去った事で訪れた暗闇の中……驚きの余り周囲を伺っていた沙希が、直ぐ近くの廃倉庫を見て叫ぶ。


 「こ、これは!? まさか、凍ってるの!?」


 「「「「!?……」」」」



 沙希の言葉を受けて、特殊技能分隊の面々はライトを照らして周囲を見ると……この辺り一帯の廃工場群が、全て凍り付いていた。



 「……炎が気になると言うので、消してやった……。その上で、熱で再燃せんように廃墟全体を凍らせただけだ。……別に驚く様な事ではあるまい」


 驚愕する特殊技能分隊を余所に、ガリアは何でも無い事のように話す。


 「ア、アンタは! アンタ達は……一体、何者なんだ!?」


 「……さっき話したであろう、私はアガルティアが12騎士長の一人だと……」



 廃工場群を纏めて全氷結させたガリア……その力に驚愕した前原が叫ぶ。対してガリアは心底面倒臭そうに答えた。


 「アガルティアと言うのはアーガルム族の国の事よ。色々と混乱させてご免なさいね。でも、全て必要な事なの……ガリア、ドルジ、そろそろ城に戻らないと……」


 そんなガリアの様子を見かねて、ローブ姿のアルマが前原達に向けて答えた。


 声の様子から女性である事は間違いなく、前原に話す言葉もガリアと違い友好的だ。


 「……うむ」


 「ああ、それでは我等は去るが……また会う事になるであろう」

 

 “キュキュン!!”



 アルマの言葉にドルジは頷き、ガリアは今だ状況が理解出来ず戸惑う特殊技能分隊に向け声を掛けた後……ガリア達3人は真白い光に包まれ、一瞬で姿を消した。





 特殊技能分隊の面々は立て続けに起こった、とんでもない事態に混乱していたが、梨沙の指示の元に活動を再開した。


 横倒しになって動けなくなった作戦指揮通信車の中から、使える通信機で安中大佐が居る本部へ連絡し指示を仰ぎながら、今だ目を覚まさない玲人の為に救護班手配の要請を行った。




 そんな中、小春はと言うと……。




 目を覚まさない玲人を抱えながら、彼に呼び掛ける。


 『……玲人君、お願い目を覚まして……』


 玲人は呼吸も安定しており、眠っている様だが……小春は心配で仕方無かった。




 ドルジとの戦いで大怪我を負い一度は倒れた彼を、駆け付けた小春が癒したが……、迫るドルジを止めようと戦った彼女を守る為、玲人は再度立ち上がった。


 怪我の為か意識が無いまま、激しい戦いを繰り広げ、ドルジを圧倒する大技を放った後……糸が切れた人形の様に倒れてしまったのだ。



 その玲人に対し小春が心配し、呼び掛けるのも当然の事だろう。対して玲人は意識は失っているが、呼吸は安定しており眠っている様だ



 呼び掛ける小春の意識奥から、彼女に声を掛ける者が居る。


 “……小春ちゃん、玲君なら問題無いわ……きっと力を使い果たして眠っているだけだから……”


 (早苗さん、何故……そう思うんですか?)


  早苗の答えに納得出来なかった小春は、逆に彼女に問う。


 “それはね……玲君に仕える彼らが……玲君の為にならない事はしない筈よ。だから、玲君は大丈夫だと思うの”


 (……どう言う事ですか? 玲人君は、あのドルジって人に大怪我させられたんですよ。……早苗さんは、あの人達が何をしたいのか知ってるんですか?)


 何かを知っている風に答える早苗に、小春は隠している事を伝える様に迫る。


 “……分ったわ、小春ちゃん……ゴメンね、貴女や仁那ちゃんには、心配掛けたくないから私と修君だけで留めていたけど……伝えられる事は二人に話すわ。でも、玲人君が起きてからね”


 (……はい、お願いします)


 “嵐が来るわよ、小春ちゃん……とても大きな嵐が……”


 早苗は小春に侘びた後、意識奥で呟いた。ドルジとの戦いの様な事がまた続く事を感じているのだろう。


 (大丈夫です、早苗さん……わたし達なら、何が来たって負けません……)


 小春は周囲の凍り付いた廃工場群を見つめながら、自分に言い聞かせる様に早苗に話すのだった。



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