214)廃倉庫での来襲-25(終結)

 ドルジと玲人の戦いの最中、廃工場跡に刻まれた恐るべき破壊の痕跡……。


 その惨状は、廃倉庫や廃工場を燃やす炎で暗闇に照らされ映し出される。


 視界を遮っていた廃工場群は玲人が放った黒い球体によって、圧潰され何処までも続く抉られた大地が広がっている。


 そんな惨状を見た、前原達……特殊技能分隊の面々は言葉を失っていたが……。



 “ドサッ”


 小春(体はアンちゃん)を守る様に、背を向けて立っていた玲人が突然崩れ落ちた。



 『玲人君!!』


 小春は倒れた玲人に慌てて駆け寄る。前原達も彼女に続く。


 小春は玲人を抱き抱えるが、玲人は意識を失ったままだ。慌てて伊藤が彼の首元に顔を寄せ呼吸を確認する。



 「……息はしているし、脈も問題無い……これは眠っているのか……?」


 伊藤の言葉に、玲人の周りに居た者達がホッとした時……。




 「……今日の所は、此処までか……、残念だ」


 背後から聞こえたドルジの声に玲人の周りに居た特殊技能分隊の面々は、ギョッとして声がした方を一斉に振り返る。



 そこに立っていたドルジは……誰が見ても有り得ない姿だった。


 体に纏っていた漆黒の鎧は崩れ去り、筋骨隆々とした肉体が現れている。だが……その体には深刻な致命傷を負っていたのだ。


 ドルジの上半身は左胸から左肩に掛けてVの字の大きく裂け、傷口から肋骨や内臓が見えている。


 その傷口から血が滴り落ち、足元を濡らしていた。右腕も肘から先が無くなっており、その断面から赤い血が流れている。



 明らかに即死級の致命傷を負っているドルジを見て、元民間人である志穂が叫ぶ。


 「う、うわあああああ!!」


 志穂の叫びを誰も制する者は居なかった。酷い戦争を経験している指揮官の梨沙でさえドルジの損傷は異常だった。


 それに、こんな致命傷を負った者が平然と立って喋る事等有り得ず……梨沙も言葉を失い、呆然とドルジを見つめていた。


 小春(体はアンちゃん)も恐怖で気を失いそうだったが、膝に抱える玲人の事を考えると絶対に自分も倒れる訳に行かず、必死に自分を保っていた。



 「……お、お前……その状態で……生きて……」


 どう考えても致命傷を負っているドルジが平然と立っている状況に、前原はただ、驚愕しながら呟く様に問う。



 「? 何を驚いているかと思えば……。この程度の傷で、我等アーガルムが死ぬ訳無かろう……」


 前原に問われたドルジは大きな恐れと共に驚愕している特殊技能分隊の面々を見回し、呆れながら呟いた。


 呟いた後、ドルジは自身の体を白く光らせる。すると傷口が泡立ちながら盛り上がり、ビデオの早送りの様に、あっという間に再生された。


 右腕も断面から肉が盛り上がり、見る間に新しく修復される。


 致命傷だった傷が再生されるのに掛かった時間は、ほんの数秒だった。上半身に負ったVの字に裂かれた傷は、その断面だった部位に大きな傷跡が刻まれていた。


 右腕も同じく、肘から先は新しく修復されたが断面部にもグルリと傷痕が見られる。


 ドルジは再生した右腕の調子を確かめる様に、手首を動かしながら……自身の体に刻まれた傷を見て愉快そうに呟く。


 「ククク……この傷は我に取って誉(ほまれ)よ……。これで終わりとは名残惜しいがな」


 致命傷を一瞬で再生したドルジは、全く何のダメージをも感じさせず喜喜として呟く。そして小春(体はアンちゃん)が抱える玲人の方を向き直った。


 「「「「……!?」」」」


 そんなドルジの様子に特殊技能分隊全員が恐怖で泡立ち、絶句した。しかし、そんな中……。



 “ヴオン!”



 特殊技能分隊の面々が緊張する中、低い音が頭上から響き……黒い何かが舞い降りる。


 天から舞い降りたのは……濃い緑色のローブを着こんだ二人の人間? だった。


 その二人組は、ドルジと同じく、紋様が刻まれた金属製の胸当てと、単眼を象った様な不気味な模様が描かれたハーフマスクを纏っている。


 最初に現れたドルジと、この二人組が違うのは……その体の細さだ。筋骨隆々としたドルジと異なり、肩幅も狭く身長も低い。



 極度に緊張した場の中に……突然、現れたローブ姿の二人組に特殊技能分隊の面々は大きく戸惑う。


 そんな彼らを全く意に介せず、現れたローブ姿の二人組は……唐突に小春(体はアンちゃん)の方へ向き直り、丁寧に頭を下げる。


 呆気に取られた小春を余所にローブ姿の一人がドルジに向かって声を掛ける。



 「……随分とお楽しみだったな、ドルジ」


 「ガリアか……御目付ご苦労……。お前の言う通り、随分と燥いでしまった……。“雛”とは言え、御館様のお相手が出来た事は……名誉な事だ。ましてや、この身に傷を賜るなど……生涯忘れぬ」


 ローブ姿の一人の発した声は美しい女性の声だった。


“ガリア”と呼ばれた女性の愉快そうな言葉にドルジは、心底嬉しそうに右手と左胸の傷を見せながら答える。


 「貴方に傷を与える程の“力”にしては……廃墟の被害が少ない様に思うけど?」


 「……それは当然だ、アルマ……。“雛”とは言え御館様の力……ドルジを貫いた後、この程度で収まる筈は無い……。故にアリエッタ達16人が、総員で被害を押さえていたのだ。

この廃墟群も派手に燃えてはいるが……彼女達が最低限に調整している。ドルジも最初から加減していたし、これなら……トルアに文句を言われる筋合いは無いだろう」


 ドルジの傷を見たもう一人が彼に問う。その声も綺麗な女性の声だった。彼女に対しガリアが静かに答える。


 「そう言う事なの……。ドルジも上手く抑えたわね、本当にご苦労様」


 「否、労われる様な事は何もしておらぬ……。それよりも、“次”の儀はそなたらが執り行うのか?」


 アルマと呼ばれた女性がドルジの肩に手を置いて労うが、彼は首を振りながら彼女に問う。


 「……いや、次はリジェが出ると言って聞かな……」


 「な、何なのよ! アンタらは!?」


 ドルジの問いにアルマに代わってガリアが答えている途中の事だった。作戦指揮を取っていた梨沙が立ち上ってガリアやドルジ達に大声で詰め寄るのだった。



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