213)廃倉庫での来襲-24(破壊)

 玲人が生み出した無機質なガントレットの様な黒い両腕による連撃を受けるドルジ。この黒い腕は、瞬間転移を繰り返し間断なく彼を襲う。


 「ちぃ!」 


 ドルジは毒づいて、自身も瞬間移動してその場から転移した。


 “キュン!”


 ドルジは50m近く離れた別の場所に転移したが、玲人の黒い腕はドルジに影の様に付き纏い同時に転移して来た。


 ドルジは続けて転移を繰り返したが、黒い腕もまるでドルジと繋がっているかの様に全く同じ場所に転移して来る。


 結局、最初の場所近くに瞬間転移したドルジ。転移を終えたと同時に始まる黒い腕による彼への連撃。


 余りに早過ぎる連撃にドルジは成す術も無く、防戦一方だった。その様子を小春や前原達は呆然と眺めるのだった。



 そんな中、玲人は無表情で彼の近くに棒立ちしていたが、ツイと右手を挙げた。



 すると……彼の背後で長さ10m程の超巨大な真黒い針、いや杭が生み出される。

 

 “ズズズズ……”


 玲人が生み出した黒針で過去最大の大きさだ。彼は一言も漏らさず、無表情の様子から今だ意識が無い様だ。


 全く感情を示さない玲人は巨大な電柱の様な杭をドルジに向け投付ける。


 “ドヒュン!” 


 投げ付けられた巨大な杭を危険視したドルジは大斧によって、二本の腕を弾き飛ばした。


 “ガギイン!”


 そして巨大な斧を盾代わりとしてドルジを突き刺そうとした杭を防いだが、弾き飛ばされた二本の黒い腕は、方向を変えてドルジを襲う。


 二本の黒い腕は手刀の形をとって、それぞれがドルジの体に突き刺さった。


 「ぐぬう!」


 巨大な斧で杭を防いでいたドルジは、手刀が突き刺さった事で斧を持つ力を弱めてしまう。


 すると杭は斧を弾き飛ばし、姿勢を崩した彼の体に突き刺さる。


 “ガズン!!”


 杭はそのまま、ドルジの体に貫通し……アスファルトにも刺さった。丁度、彼を縫い留めるような形だ。


 ドルジの体は黒い腕と杭が突き刺さり、大量の血を流し、アスファルトには血だまりが出来ている。


 「ハハハハハ!! してやられました! ですが、破壊の権化たる、あの御姿には至りませぬ!」


 もはや致命傷の筈だが、ドルジは興奮した様子で高笑いする。そして傷ついた体を白く光らせ衝撃波を起こした。


 “バギイイン!”


 甲高い音と共にドルジの体に突き刺さっていた杭と黒い両腕が霧散した。そして彼の体に刻まれた致命傷は、巻き戻されるように復元された。


 「完全なお目覚めに至るまで! このドルジお相手仕る(つかまつる)! おおおおお!!」


 ドルジは雄たけびを上げると……彼の体に黒いモヤが纏わりつく。モヤは瞬く間に形を成し、やがてそれは禍々しい形の真っ黒い鎧に姿を変えた。


 顔の面あて形状は顔の形に合わして形成され目に当たる部分が炎の様に絶えず形を変える真白い光の単眼紋様だった。


 黒いモヤが形作ったその鎧は、黒曜石状の鋭角な甲虫の様であった。その両腕には、巨大な刃だけの斧が装備されていた。



 「御館様の覚醒の儀において……恥ずべき戦いは見せられぬ!」


 漆黒の禍々しい鎧を纏ったドルジは、玲人に向かい突進し、斧と一体化した右手を振り下ろした。


 振り降ろした余波で、直接触れていないアスファルトが砕け散る。


 “ゴヒュン!”


 玲人は瞬間移動してこれを躱し、ドルジから離れて小春(体はアンちゃん)の前に背を向けて立つ。


 突如現れた玲人に小春は驚いて声を掛けるが……。


 『れ、玲人君……大丈夫!?』 

 「…………」


 小春の呼びかけに対し、玲人は返事をする事は無かった。どうやら今だ意識を失っている様だ。


 「玲人君!」

 「玲人、返事をしてくれ!」


 小春だけでは無く、横転した作戦指揮通信車の周りに居た前原や梨沙達も、玲人に向け大声で呼び掛けるが……意識の無い彼は何も答えない。


 しかし、玲人は意識を失いながらも、小春を守る事は忘れていない様で、彼女を庇うそぶりを見せて、ドルジに向かい立つ。


 『……玲人君……』

 「…………」


 意識が無いにも関わらず、自分の事を守ろうとする玲人を案じ、小春は小さく呟くが彼は答えず……唯、ドルジを無言で見つめる。


 そんな玲人にドルジは斧と一体になった腕を前に跳躍して攻撃を仕掛けた。


 “ドン!”


 黒い鎧を纏ったドルジの動きは、まるで飢えた猛獣の様に獰猛で、恐ろしく早い。瞬く間に迫らんとするドルジに、玲人は――。


 スッと右手を前に出す。するとドルジの周りに黒いモヤが、一瞬の内に彼を包む。


 そして……。


 “ガキキキ!”


 乾いた音が響いた後、黒いモヤは大きな左腕へと形を変える。


 先程、ドルジが霧散させた両腕に比べると、その大きさは2mを超え太さも木の幹の様に太い。


 黒い巨大な腕はドルジの全身を握り締める様に、掴んで拘束した。


 「う、動けん……うおおおお!」


 巨大な左手は、巨漢の男、ドルジをがっしりと掴んでいる。彼が雄叫びを上げ衝撃波を起こして破壊しようと体を白く光らせた。


 すると、ビシビシと左手にヒビが入ったが……左手には不可解な力が作用する為か、発生した光を吸収しヒビは一瞬で再生された。


 そして左腕は太く頑強な形状へと成長し、さらに強固にドルジを締め上げる。


 そんなドルジを余所に玲人は、己が右手を上にあげる。


 すると、彼の背後に黒いモヤが集まり……又も巨大な何かを形成する。



 生み出されたのは右腕だ。度重なるドルジとの戦いで周囲の廃工場は炎上し、凶悪な右腕を明るく照らす。

 

 空中に浮かんだソレの大きさはドルジを拘束する左腕と同じ位で、手の平を開いて彼の方に向けていた。


 途端に、開いた右手の平の上に、黒いモヤが集束し真黒い球が生成される。


 “キイイイン!!”


 玲人は無表情で言葉を発さず、拘束されているドルジに向け上げていた右手を振り降ろすと、彼の背後に浮かんだ巨大な右腕も、倣って同じ動きで真黒い球をドルジに向け放った。


 “キュン!!”


 放たれた真黒い球は音よりも早く飛び――ドルジを貫いて軸線上の廃工場や倉庫を纏めて破壊する。


 “ガガガアアアァン!!!”


 周囲に大轟音が鳴り響き、立っていられない程の地揺れが発生した。


 玲人が放った真黒い球は、軸線上に存在したあらゆる建造物を纏めて圧潰し、大地を半円球に抉り……破壊の痕跡を延々と刻み付けたのだった。


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