212)廃倉庫での来襲-23(覚醒)

 ドルジと戦い大怪我を負った玲人は、そのまま意識を失い……気が付いた時は真白い精神世界に居た。



 そこで修一と共に玲人は透明なクリスタルで拘束されて動けない状況の中……前方に現れたスクリーンで小春とドルジが対峙する現実世界の様子を見せられていた。



 「こ、小春……! どうして此処に!?」


 「……恐らくテレビか何かで……この戦いの事を知って、駆け付けたんだろう。そして君を見つけ……彼と対峙している」


 前方に映し出された映像を見て叫ぶ玲人に、修一は答える。


 「馬鹿な!? 危険すぎる!」


 「落ち着いて、玲人。小春ちゃんの肉体は、現場から100キロ近く離れた場所に有る。だから、小春ちゃんは意識だけを飛ばしてアンドロイドに憑依させている筈だ。だから、彼女達に危険は無いよ」


 「しかし、だからと言って!!」



 修一は冷静に諭すが、焦る玲人は納得しない。そんな時……。



 “……エニ……マセス……彼女達の……波動を感じる……!”



 拘束されている二人の眼前に浮かぶ巨大なクリスタルから大きな声が聞こえた。


 そして彼らが居る白い空間自体が大きく揺れ始め……巨大なクリスタルから目も開けられない程の眩い光が発せられ、玲人達を飲み込んだ。




  ◇   ◇   ◇




 『コメダマちゃん! あの人を閉じ込めて!!』


 そう叫んだ小春は錫杖を頭上に掲げる。錫杖の輝きは周囲一面を照らす程の輝きを放った。


 そして非常に眩い輝きを放つ錫杖から光が前方に放射、何かを形作り出した。



 放射された光が形を成したのは、大量の目玉だ。



 生み出された大量の目玉は刹那に地面に潜り込むと……ドルジの周りの地面を隆起させ、半球の大きな土のドームを形成され、中に居たドルジを完全に閉じ込めた。

  


 “ズズン!!”



 小春が生み出した大量の目玉は、地盤と同化して生き物の様に操りドームを作りだしたと言う訳だ。


 ドルジを閉じ込めた土のドームは、小春が生み出した”コメダマちゃん”によるものだ。


 “コメダマちゃん”は小春の意志により、色々な物体に憑依し、その形を変える事が出来た。


 模擬戦の最終盤で玲人を閉じ込めた、小春の大技だ。



 ドームを作りだした後、小春(体はアンちゃん)は地中に居る目玉を操作し、アンちゃんの真下に土を隆起させて……切断された下半身を形作る。


 土と石で出来た下半身だったが、小春が目玉を通じて操る為に不自然な動きは見られない。



 ”これで暫くは時間を稼げる”と思った小春(体はアンちゃん)だったが……。



 “ガゴオオン!!”


 突如大音響が鳴り響き……ドルジを閉じ込めていた土のドームは一瞬で破壊された。


 ドームが破壊された事に小春は驚き慌てた。だが、すぐに次の手を打とうと構えた時……気が付いた。



 ドルジの姿が何処にも居ない事に。



 ハッと周りを見渡した時……突如、電光の様に現れたドルジが凶悪な斧を小春(体はアンちゃん)に向け振り降ろそうとする所だった。



 絶体絶命、そう理解した小春は思わず無意識に……彼の名を叫ぶ。


 『れ、玲人君!!』



 叫ぶ小春に構わずドルジは斧を振り降ろした。


 “ブオン!!”


 玲人の名を叫んだ小春(体はアンちゃん)は、頭部を守ろうと両手で覆う。



 アンちゃんの頭部に憑依させているニョロメちゃんが破壊されれば、小春はアンちゃんとの接続を失い戦線離脱してしまう。


 何とかそれを守ろうとガードした小春だったが……ドルジの斬撃はいつまで経っても振り降ろされない。



 恐る恐る、頭部を守っていた両手を開いて……ドルジの斧を見ると――。



 凶悪な斧は小春(体はアンちゃん)に振り降ろされる寸前で静止していた。



 ドルジが止めた訳では無い。斧を止めたのは……空中で浮かぶ真黒い腕だった。


 正確には肘から先の右手上腕部が空中に浮かび、右手甲でドルジを斧を受け止めていた。


 浮かぶ右手上腕は、真黒い石状の材質で出来ており、西洋甲冑のガントレットの様な形状をしていた。



 小春(体はアンちゃん)は自分を守った黒い右手を見て、思わず後ろを振り返ると……。



 横転した作戦指揮通信車の前で玲人が右手を差し出し、立っている。


 そんな彼の背後にはもう一本……黒い左腕が浮かんでいた。



 『玲人君!!』


 「…………」


 小春は立ち上った玲人を見て喜び、大きな声で叫ぶが……彼は虚ろな表情なままで、小春の声に応えない。


 如何やら玲人は意識が無い様だ。対して自分の攻撃を防がれたドルジは……浮かぶ黒い腕を見て歓喜の声を上げる。

 

 「おお……! この腕は正しく巨像の……! つ、遂にお館様が御目覚めに!」


 「…………」


 歓喜極まるドルジを余所に玲人は答えず、その顔には何の表情も現さず立っていたが……突如姿が消え去った。


 “キュン!”


 小春(体はアンちゃん)の後方に幽鬼の様に立っていた玲人は、瞬間移動してドルジに迫り彼を蹴り飛ばす。


 “ガイン!!”


 意志力により強化された玲人の蹴りで後方に飛ばされるドルジ。


 すぐさま受け身を取ろうと地に足を付けた時、上空から黒い左腕が拳となって突然現れドルジを襲う。


 「うぬ!?」


 ドルジは、予測を超えた追撃に驚きながらも上空からの玲人の黒い左拳を大斧で防ぐ。


 しかし……玲人が呼び出した黒い右腕が、ドルジの脇腹を穿つ。


 「ぐぅ!」


 ドルジは堪らず体を前屈みにして苦悶の声を漏らす。しかし玲人の追撃は止らない。


 前屈みとなったドルジの顏を目掛け、黒い左拳が思い切り打ち上げる


 “ガン!!”


 強力なアッパーを喰らったドルジは体を起こすが、間髪入れず玲人の黒い右腕が彼のボディに突き刺さる。


 黒い右腕による追撃を受けたドルジは後方に飛ばされる。又も吹き飛ばされたドルジの後方に玲人の黒い左腕が瞬間転移し、背後から追撃した。


 玲人が生み出した黒い腕の動きはまるで稲妻が走るが如く、ドルジに対し連撃を与える。


 瞬間転移を繰り返しドルジの前方、後方、側面とあらゆる方向から攻撃する。


 “ガガガガガガン!!”


 瞬間転移で多方面から同時に行う攻撃は、まるで百人の腕がたった一人を殴りつけ、嬲り殺しをしているような様だった……。



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