211)廃倉庫での来襲-22(小春組VSドルジ⑤)

 ドルジは小春達が操るアンちゃんを両断した後、悠然と玲人に迫る。


 ドルジによって体を袈裟切りされた玲人は、駆け付けた小春によって傷を治して貰ったが、依然意識を取り戻していない状況だ。


 玲人の周りでは前原達、特殊技能分隊が銃を構えて彼を護衛していた。

 


 「来やがったぞ、あの野郎!!」


 「ああ……と言う事は小春君も……」


 「小春ちゃんならきっと大丈夫! 体はお家に有るだろうし……、それより玲人君よ!」


 「細かい事は後だ、先ずはアイツを何とか足止めする! 最悪玲人を連れて戦線を離脱するぞ! 前原、伊藤、沙希は銃でアイツを牽制! 志穂は後方支援! 私は指揮を取りながら本部に応援を要請する!」


 「「「「了解!」」」」




 「……無駄だと言うのに、全く懲りん連中だな……。トルアの奴も、余計な事を」

 

 「無駄だと言うなら、お前が諦めてくれれば良い……」


 ドルジは、自分の前に立った前原達を見て辟易と言った感じで呟く。それを聞いた伊藤が皮肉を言った。


 

 「殺さず、相手をするのも……中々骨が折れるのだぞ……!」

 

“ガゴン!”


 そう大声を上げたドルジは、凶悪な斧を振り上げ地面に突き立てた。



 すると、斧が当たった場所を中心に地盤が拉げ……大きな地揺れが発生する。


 “ドドドドン!!”


 「うわぁ!」

 

 「きゃあああ!」


 ドルジが発生させた大きな地揺れにより、廃工場や廃倉庫は一部崩れ落ちた。


 地面のアスファルトもドルジの斧を中心に蜘蛛の巣状に、大きくひび割れ……前原や沙希達は衝撃で吹き飛ばされ地面に這い蹲っている。


 しかも作戦指揮通信車は今の衝撃で横倒れし、もはや撤退は不可能だ。


 意識の無い玲人は車に寄り掛かっていたが、この地揺れの所為でうつ伏せになって倒れている。


 立っている者は、もはや誰も居ない。もうドルジを止める者は居なくなった。


 「ち、ちくしょう……動けねぇ……」「うぐぅ……」


 「漸く大人しくなったか……」



 動けなくなった前原達を余所にドルジは意識の無いままの玲人の元へ歩き出す。



 もはや絶体絶命と思われたが……。



 『ま、待って下さい! 今度はわたしが相手です!』


 そんな声と共に……空中から白い何かがドルジを飛越し、倒れている玲人の前に制止する。


 

 それは上半身だけとなったアンちゃんだ。



 「……その感じ……小春殿に戻った様だな……人形の体も半壊、もはや戦う事等出来ませぬ。どうか下がられよ」


 『……心配御無用です……! 戦わなくたって、貴方を止めて見せます!』


 ドルジの静かな声に、小春(体はアンちゃん)が叫ぶ。彼女の手には自らの武器である錫杖が握られていた。


 「おおお……! ユニである小春殿が……! マセス様の錫杖を武器とするとは……! 誠に、御二人は一つになられたのだな! 一刻も早くマニオス様に、この御姿を御見せしなくては……!」


 『…………』


 ドルジは錫杖を持った小春を見て感極まり涙を流して叫ぶ。対して小春は何も答えなかった。


 彼の言葉に一々応える余裕が無かったのだ。

 

 張りつめた気持ちの中、小春は手にした錫杖を眩く光らせドルジと対峙する。




  ◇   ◇   ◇




 小春とドルジが対峙している状況の中…玲人は目を覚ました。



  ――目を覚ました彼が周囲を見渡すと、其処は……。



 世界全体が真白い空間で、建造物も何も無く、ただ、白く輝く床が延々と何処までも広がっている……そんな所に居た。


 ただ、動けない玲人の眼前には……巨大なクリスタルが浮かんでいる。クリスタルは光を放っているが、中には黒く細長い何かが見えた。



 「こ、此処は……?」



 さっきまで玲人は廃工場跡でドルジと戦っていた筈……。何故こんな所に居るのか意味が分からない。


 目が覚めた玲人は、直ぐに自分の状況に違和感を覚えた。自分が動けない事に気が付いたのだ。


 自分をよく見れば透明なクリスタルによって半身を覆われ、全く動く事が出来なかった。


 「な、何だ……?」


 「目が覚めた?」


 見知らぬ世界に連れて来られ、拘束され動けない状況に玲人が困惑していると、横から声が聞こえた。



 修一だ。彼も同じ様に透明なクリスタルで拘束されていた。



 「僕もついさっきまで意識が無かったみたいで……目が覚めたら、こうなっていた……」

 

 「此処は何だと思う、父さん」


 「同じ存在である筈の僕と……君がこうして話せるって事は、この場所は現実の世界では無く……僕達の精神世界だと思う。あのログハウスみたいなね」


 「精神……世界……。そうなら、一刻もこんな所から出ないと……!」


 「ああ、僕も分ってるんだけど……いつもと違って“戻れ”ないんだ」



 精神世界では時間の進みが違うと分っていても、現実の世界ではドルジが迫っている。


 一秒でもノンビリしていられない玲人は焦るが、修一は此処から出られない事を説明する。

 

 普段なら精神世界にあるログハウスに居ても、意識すれば直ぐにでも現実の世界に戻る事が出来た。


 しかし、今は……そうする事が出来ない。


 「しかし、このままでは……!」 


 “ヴン!”


 動けず焦る玲人が声を上げた時だった。拘束されている二人前方の空間にプロジェクターで投影される様に突然、画像が映し出された。


 そこに映し出されたのは、現実世界の様だ。夜の闇を照らす燃え上がる廃工場群とドルジが見えた。


 そして、彼と対峙するのは……。


 「!? ま、まさか……アレは小春か!?」


 ドルジと対峙する白い人型の何かを見て、玲人は驚愕して叫ぶ。


 その浮かぶ白い人型は……小春専用の戦闘用アンドロイドのアンちゃんだ。



 既に上半身のみとなったアンちゃんは……。



 地震が起きた様にひび割れたアスファルトに転がる作戦指揮通信車とその前に横たわる玲人を守る為にドルジと対峙している様だった……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る