209)廃倉庫での来襲-20(小春組VSドルジ③)

 豪那虹色流星弾による攻撃を受けて、平然と豪炎の中から進み出るドルジ。


 この技は仁那が持つ攻撃の中で最大火力。この攻撃を防がれると仁那には打つ手が無いのは事実だった。


 そんな中、進み出たドルジが仁那(体はアンちゃん)の前に立ち、静かに話す。


 「……中々に鋭い攻撃だったが……アガルティア12騎士長が一人である我には効かぬ。申し訳ないが仁那殿……此処は引いて頂きたい」


 『オジサンが玲人と戦うのを止めてくれたら、私も止めるよ?』


 「……それは出来ぬ相談です。我等の悲願はお館様の完全復活……。その為に“雛”の少年との戦いが不可欠ゆえ……下がる訳には参りませぬ」


 『なら……私も同じ。此処で止める訳に行かない』


 「恐れながら……御身の御力では我を止める事は出来ませぬ。御身は御復活に伴い……本来の御力の殆どを無くされた。ましてや、仁那殿はアーガルムの武器さえ持たぬ身……どうか、これ以上の御無体を止め、御下がり下さいませ」


 『……そんなの関係ない。私を止めたいのなら、オジサンが下がってよ!』


 口調柔らかく制止するドルジに、仁那は激高し大きな声を上げてドルジに向け殴り掛かった。


 しかし、その拳はドルジが掲げる凶悪な斧によって止められる。


 「効かぬと申し上げた筈……致し方ない。人形とは言え無礼を働く事をお許しを」


 “ガキン!!”


 ドルジは止むを得ず、斧で仁那(体はアンちゃん)を軽く薙ぐ。


 ほんの軽く振っただけだったが、鋼鉄で出来たアンちゃんは吹き飛ばされ、地に転がる。転がされた仁那は直ぐに立ち上がり、ドルジの斧を見て呟いた。



 『それが……オジサンの武器……』


 「左様です。我が意志を具現化し、我が力を何処までも高める得物……。此れを手にした我には、無手の仁那殿では何をどう足掻いても無駄に御座います」


 『ふ、ふざけないで!』



 仁那は生まれて初めて本気で怒っていた。



 ついこの間まで、仁那は体を動かす事も出来ず、肉体崩壊の危機にされていた。そしてその状況を小春が命を賭けて救ってくれた。


 生まれてから、小春が救ってくれるまでの14年間……。仁那は常に玲人に守って貰っていた。玲人が戦い続けているのも仁那を守る為だった。


 どんな時でも仁那の為に守ろうとしてくれた玲人。彼の戦いは、彼の想いは、小春と同化して幼くなった今の仁那でもはっきりと覚えている。

 

 だからこそ、仁那は玲人を傷付けたドルジを許せなかった。同時に、守られるしか出来なかった自分が玲人の為に戦える事に強い使命感を感じた。


 『……私が玲人を守る……私が玲人の為に戦うんだ……!』


 仁那は誰に言うでは無く一人呟く。


 ――玲人を守る為に私が戦う――


 そんな強い想いを抱いた仁那(体はアンちゃん)に異変が生じた。


 彼女の両手と両足に突如黒いモヤが生じ手首と足首に纏わり付いた。黒いモヤは輪の様な形状をを形作りながら……直ぐに黒光りする漆黒のリングとなった。

 

 そのリングの大きさは直径は10㎝位だろうか、仁那の両手首、両足首に巻かれている。


 仁那(体は小春)の細い手首足首にそのリングは大き過ぎたが、不思議な事に手首足首を中心にして浮いていた。


 この漆黒のリングこそ、仁那が生み出したアーガルムとしての武器だった。それは彼女が自分以外の誰かを守りたいと強く願った事に生み出された強力な武器だった……。


  仁那の玲人皆を守りたいと願う強い気持ちから生まれた漆黒のリング。そのリングを不思議な気持ちで見つめた仁那の意識奥から突然声が響いた。


 “仁那ちゃん……ついに貴女もアーガルムの武器を手にしたのね……”


 (……お母さん……この黒い輪っかが……私の武器なの?)


 早苗の声に仁那は逆に問い返す。対して早苗は静かに答える。ちなみに二人の会話は意識奥で行われており、現実世界では一秒の時間も経過していない。


 “そう……私の黒鎖や……小春ちゃんの錫杖と同じ……。仁那ちゃんだけの武器……。だから……その武器の使い方は仁那ちゃんなら、分かる筈よ”


 (……うん……不思議だけど……私はコレの使い方を知ってる……。私は……生まれた時から、小春と一緒になる時まで……ずっとずっと……動けなかったわ……。だから私は小春の体を使える様になった時……走ったり……掴んだりする事が……とっても嬉しかった。 だから、私の戦い方も……好きなアニメの様に……体を使って戦うの……。

 この武器は……そんな私を幾らでも……強くするんだ……。私の思った通りに動いて……形を変えて、思った分だけ強くなる。だから……この武器を持った私は……誰よりも強くなる!)


 脳内での早苗との会話を終えた仁那は自身が生み出した武器を見遣る。武骨な黒いリングが鈍く光る。


 (今なら誰にも負ける気がしない……)


 新たな武器を手にした仁那を見たドルジが感慨深そうに呟く。


 「それは……正しくアーガルムの武器……よもや、この土壇場で手にされるとは……見事なり」


 仁那はそんなドルジを見て叫ぶ。


 『……オジサン、覚悟!』


 「……かつて、マセス様は錫杖が武器だった。しかし、現世の貴女は“輪”と言う訳か……ふむ、興味深い。いざ、参られよ!」


 アーガルムの武器を手にした仁那がドルジにリベンジを挑むのであった。



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