207)廃倉庫での来襲-18(小春組VSドルジ①)

 倒れた玲人を前原達に託して、小春(体はアンちゃん)はドルジの前に立つ。ドルジの周りは破壊された廃工場の残骸が転がり、彼方此方で大きな炎が上がっていた。


 小春の背後では、破壊されたエクソスケルトンに搭乗していた沙希を前原と伊藤が助け出してる姿が見られる。



 立ち塞がる小春を見て、ドルジが怪訝そうな顔を浮かべて静かに話す。



 「……その出で立ち……体は人形だが……宿る魂は小春殿か……。かような所へ、何故現れた?」


 『スイカ……有難う御座いました……。だけど、だけど! 貴方は玲人君に酷い事を……! な、何故……こんな事をしたんですか!?』


 「ご安心召されよ、小春殿……。この全ては……お館様の為を考えての事。あの御方の御目覚めを促す為に……我は“雛”である少年と仕合っておりました」


 『……い、一体……何を貴方は言ってるの……?』


 「あの御方の覚醒は今だ至らず……。人形を通してとは言え……戦場(いくさば)はうら若き乙女の目には辛かろう。小春殿、其処を退いて頂きたい」



 問い詰める小春に対し、ドルジは一切の迷いなく答える。言葉の意味が分からない小春に対し、ドルジは彼女に撤退を勧める。



 『ば、馬鹿な事言わないで下さい! これ以上、玲人君と戦わせ……』

 “小春ちゃん……此処は私に替わって貰えないかしら? どうしても一言、言いたい事があるの”



 ドルジの言葉に激高した小春。彼女はドルジへ向かい大声を張り上げている最中、突然に脳内から早苗の声が聞こえた。



 (……でも、早苗さん……わたしは、あの人に……!)


 “大丈夫、小春ちゃんや仁那ちゃんの言いたい事も全部言ってあげるから! ……この場は大人の女性である私に任せてよ“


 (分りました……気を付けて下さい……)


 替わって欲しいと言う早苗に小春は渋るが、明るく答える早苗から見え隠れする強い怒りの感情を感じ、小春は彼女と意識を替わった。



 『……改めて、初めましてかしら……。アガルティア12騎士長のドルジさん?』


 「ほう、その人形から感じられる意識……小春殿では無く……マールドムの混ざり者か……。確かマセス様の覚醒の際……同化したと言う……」



 小春と意識を替わった早苗(体はアンちゃん)は明るい調子でドルジに話し掛けるとドルジは興味深そうに答える。



 しかし早苗は……。



 『私の事はどうでも良い……。それより、一言だけ良いかしら? ……良くも私の息子を傷付けたわね。だから……死ね!!』


 そう叫んだ早苗は両手を差し出し、一瞬で大量の鎖を呼び出した。


 

 彼女自身の力の象徴である……漆黒の鎖を。



 生前、妾の子として蔑まれ……、唯一人の理解者だった義理の弟、修一との子を妊娠した事で実の父に粛清の為に殺されると言う、悲惨すぎる人生を歩んだ早苗。



 彼女が生み出したアーガルムとしての武器……黒鎖はしがらみで雁字搦めに縛られた過去の自分からの決別だった。


 早苗と、早苗が愛する者達を縛ろうとする者共を破壊する為の……強い意志が込められた呪いとも言える恐るべき武器。



 その黒鎖が、同胞である筈のアーガルムの騎士、ドルジを一瞬で包み込んだ。



 “ギャリギャリギャリ!!”


 生み出された無数の黒鎖はドルジを絞殺さんと縛り上げる。鎖を構成する菱形の輪は鋭い刃となっており、締め上げられた方は唯では済まない筈だ。


 漆黒の鎖で、雁字搦めになったドルジに向け、早苗は軽い感じで話し掛ける。



 『まだまだ、こんな程度で終わらないわよー。さぁ、押し潰れなさい!』



 早苗がそう叫んだ瞬間、廃工場跡に転がっていた、巨大な瓦礫が二つ浮き上がり……縛られたドルジを挟み込む様に激突する。


 “ガガガガアン!!”


 瓦礫に押し潰されたドルジに向け、早苗(体はアンちゃん)は右手を差し出し、意志力を発動する。



 すると……ドルジを縛る黒鎖が真白く光り出した。



 『コレで仕上げよ。アイサツ程度だけど、一度死んでちょうだい』


 瓦礫の中で輝く光を見ながら早苗は小さく呟いて、差し出した右手をグッと握りしめた。

すると……。


  “ドガアアアアン!!”



 地を震わせる爆発音と共に、巨大な火柱が立ち上る。早苗の黒鎖により切り刻まれた上に、瓦礫に押し潰された後の……この大爆発だ。



 流石に早苗もドルジが絶命するか、戦闘不能になっていると踏んでいたが……。



 “バシュウン!!”


 燃え盛るドルジを中心に、突然巻き起こる突風。その風で彼を焦していた豪炎は一瞬で消え去った。


 豪炎が消え去った後……ドルジは巨大な斧を掲げた状態で進み出た。恐らく自らの武器に意志力を込めて、強風を起こして炎を消し去ったのだろう。



 ドルジは凶悪な斧を下げて、早苗(体はアンちゃん)に向かい合う。恐るべき早苗の連続攻撃を受けたにも関わらず、ドルジの鋼の様な肉体には何のダメージが見られない。



 「……気持ちの良い連撃だった。しかし我には効かん。……アイサツは澄んだか? 混ざり者の女よ」


 『ふん……手足の一本位は無くして欲しかったけど……残念だわ』


 軽口を叩くドルジに対し、早苗は忌々しそうに呟く。


 「ククク……そんな“カスリ傷”程度では、我等アーガルムには止らん……脆弱なマールドムと一緒にしては困るな」


 『……化け物め、忌々しい』


 「忘れている様だが……今のそなた等も我等が同族。我を化け物と言うなら、そなた等もだぞ?」


 『そんな事どうでも良いわ……! 私の息子と夫を傷付けた報いは必ず受けさせる』

  

 ドルジの言葉に、怒りの収まらない早苗は……構えを取って戦闘を続行しようとするのであった。


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