206)廃倉庫での来襲-17(敗北)

 此処で時は僅かに遡り、廃工場跡地にて……。



 燃え盛る炎が天高く立ち上り、煌々と夕闇を照らす中……玲人とドルジは対峙していた。



 ドルジの背後には廃倉庫が轟々と炎を上げて燃えている。先程玲人の黒針により攻撃した結果によるものだった。


 ドルジは黒針により生じた大爆発の直撃を受けたにも関わらず……廃倉庫を焦がす豪炎の中から涼しい顏をして悠然と歩み出て来たのだ。



 「……ククク……今のは、中々に良い技だったな……」


 「フン、マトモに喰らっておいて……平気そうな顔で言われてもな……皮肉でしかない」


 ドルジは愉快そうに話したが、玲人は嫌そうに答える。実際、カプセルによる攻撃が効かなった玲人に取って、黒針の攻撃は考えられる最大の攻撃だった。


 それが立て続けに無効だった事に彼は苛立ちを覚えていた。


 だが、かといって玲人は諦める心算は無かった。今までの攻撃が効かなければ新しい攻撃を行えば良いだけだ、と考えていた。



 「その眼……諦めてはいない、と言った様子……流石よ」


 「……余裕かましているのも今の内だ! 行くぞ!!」


 戦う意志を失っていない玲人を見て、ドルジは感心した様子で呟く。そんなドルジに対し玲人は黒針を構え突進する。


 “ガイン! ガキン! ガガン!”



 玲人は右手に持った黒針を休む間も無くドルジに叩き付ける。一方のドルジは巨大な斧で難なく猛攻を受け流す。


 剣戟はいつまでも続くかと思われたが……ドルジが一言呟く。


 「そろそろ、頃合いか……。様子見では、お館様の御目覚めには至らぬ」


 「……様子見だと? 寝ぼけるな」



 呟いたドルジに対し、玲人は苛ついて返答するが……。



 「寝ぼけているのは……そなたの方だ、雛の少年」


 “キイイイン!”

 


 ドルジが小さな声で話すと、凶悪な漆黒の斧が音を立てながら白く輝き出す。


 「……全てはお館様の為……参る!」


 ドルジは短く叫んで白く光った巨大な斧を振り被る。


 “ブオン!”


 “ガギイン!”


 「ぐ、ぐぐぅ!」

 


 斧で切り掛かられた玲人は、黒針で受け止めるが、恐るべき力に思わず声を漏らす。


 “ピキピキキ……”


 凶悪な斧を支える黒針が小さな音を立てて亀裂が入り出す。



 そして……。



 “バガン!!!”


 凶悪な斧は玲人の体を黒針ごと叩き切った。斬撃に伴い玲人の体も右肩から斜めに大きく切られてしまった。



 明らかな致命傷にも関わらず玲人は倒れず、折れて短くなった黒針を構える。しかし……その目は大量の出血で虚ろだ。



 それもそうだろう……。玲人は長く戦い続けたが、力を得た彼は傷を負う事など久しい。


 自らを凌駕する強者との戦い自体が初めてだったのだ。


 勝てない状況にも関わらず闘志を保っていること自体が見事と言えるだろう。



 大量に血を流しながら、立つ玲人をドルジが丸太の様な左腕を振り上げ……玲人を殴りつける。



 ”ガアン!!”


 「あがぁ!」


 殴り付けられた玲人は後方に飛ばされ、背後の作戦指揮通信車に激突するのだった……。




 ◇   ◇   ◇




 『!? れ、玲人君!!』


 作戦指揮通信車に激突した玲人を見て、最初に叫んだのは小春だった。正確には、小春の意識を纏った戦闘用アンドロイドのアンちゃんだ。


 小春は作戦指揮通信車の中に予め配置されていたアンちゃんのボディにニョロメちゃんを介して意識を移して動き出した。


 突然動き出したアンちゃんを見て、作戦指揮通信車に居た梨沙や志穂は驚いて叫び声を上げる所だったが、その時……ドルジに殴られた玲人が作戦指揮通信車に激突した、という次第だった。



 大きな衝撃と激突音より、只事では無いと判断した小春(体はアンちゃん)と梨沙達は、車外へ飛び出すと……瀕死の重傷を負った玲人が作戦指揮通信車に寄りかかる様に倒れていたのだ。



 「れ、玲人!? だ、大丈夫か!!」


 「そ、そんな玲ちゃん……」


 小春が抱き抱える玲人を見て、梨沙は大声で叫んで呼掛け、志穂は両手を口に当て震えながら呟いた。


 「玲人君!!」



 血塗れの玲人を見て前原や伊藤が慌てて駆け寄って来る。


 前原はエクスケルトンを破壊され、伊藤は廃ビルを倒壊された際に玲人に助けられていた。二人は止む無しに後方に下がっていたと言う訳だった。



 ちなみに沙希はエクソスケルトンに搭乗し、玲人や小春達を守る為に銃をドルジに向け牽制していた。



 『玲人君……! どうか! どうか! 死なないで!!』



 小春(体はアンちゃん)は叫びながら、両手を傷付いた玲人の前に向け、手を白く輝かせて治療を行う。


 彼女の両手から光が流れ、地に寝かした玲人の体を包む。


 今、彼女が行なっているのは意志力による治療“甦活”だ。玲人の傷はこの能力によりみるみる内に癒され、顏も生気を取り戻した。


 愛しき彼のそんな様子に小春が安堵した時だった。



 ”ガギイイン!!”



 甲高い音が鳴り響き、横になった玲人を取囲む様に見守っていた特殊技能分隊の面々が音がした方を振り返ると……。


 沙希のエクソスケルトンが投付けられたドルジの斧によって大破して崩れ落ちる所だった。


 「さ、沙希!!」


 倒れたエクソスケルトンを見て、前原が声を上げて駆け出そうとした。


 「落ち着け、前原!」


 「し、しかし! 伊藤さん!」


 沙希の元に向かおうとした前原を、伊藤が肩を掴んで制止する。


 伊藤としてはエクソスケルトンすら簡単に破壊するドルジ相手に、生身の前原が立ち向かっても命を捨てるだけだと判断した為だ。


 『……前原さん、伊藤さん……。此処に居て玲人君を……皆を守って下さい……。あの大きな人は……わたしが、止めます……!』


 小春(体はアンちゃん)は……意識の無い玲人の頭をそっと撫でながら、力強く答えた。そして、立ち上がってドルジの方に向かうのだった。


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