205)廃倉庫での来襲-16(小春、参戦)

 現場の映像が突然途切れた後、ニューススタジオへと映像が切り替わった。



そして、アナウンサーがしきりに現場へのリポーターへ呼び掛けていたが……中継はされなかった。


 現場の様子が映らなくなった事で、母の恵理子はチャンネルを変えたが、どの局も現地の映像は見れなくなった様だった。


 “……あのスイカくれた、オジサン……戦場(いくさば)に向かうって言ってたけど……まさか、玲人と戦ってるのかな……”


 

“そう言う事なのでしょうね……。まさか、こんなタイミングで来るとは忌々しい……”


 シェアハウスで仁那の呟きに早苗は悔しそうに答える。早苗はアガルティア12騎士が攻めて来る事は分っていたが、裏方として止めれなかった事が歯痒かったのだ。


 (二人共、そんな事より玲人君を助けないと!!)


 小春はシェアハウスに居る早苗達に強く呼び掛けた後、立ち上がって居間から出て行こうとする。玲人を助けに行く心算だった。しかし……。



 「ど、何処に行く心算なの!? 小春! 危ないから出掛けてはダメよ!!」


 

 今から出ようとした小春を、母の恵理子が大声で制止した。その様子は、先程までの朗らかな恵理子とは思えない程の変わり様だった。



 恵理子としては、夫の高志亡き後……残された娘達を守るのは、母である自分しか無いと言う強い思いを持っていた。



 その為に小春達が危険な事に近付こうとすると、今の様に過剰な程怒るのだった。


 「……で、でも……ママ、さっきのテレビで玲人君が……」


 「ほ、本当にそうなの!? だとしても、小春に何が出来るって言うの!? もし、テレビに出ていた人が本当の玲人君だって言うなら、それは自衛軍のお仕事でしょう! ママは以前言った筈! じ、自衛軍の危ない事には、貴女の参加は認めないって!」


 「「「…………」」」


 食い下がる小春に対し、感情的になって大声を上げる恵理子。


 そんな彼女の様子に小春や陽菜、そして祖母の絹江までが押し黙った。誰も反論しないのは恵理子の気持ちが良く分っているからだ。



 そんな中、小春の脳内から早苗が話し掛ける。

 


 “……小春ちゃん、お母様の気持ちはもっともよ? 此処は私に任せて”


 (早苗さん……、どうする心算ですか? わたしには玲人君を放って置くなんて、出来ないです)


 “勿論、私も同じ気持ちよ? 大丈夫だから替わってくれる?”


 話し掛けてきた早苗に対し小春は問うが、彼女は優しく諭す様に答える。大事な所では早苗がとても頼りになる事を知っている小春は、彼女と意識を交替した。



 「……分ったわ、ママ……。わたしは何処にも行かない……。今日の所は、部屋で玲人君の無事を祈ってる……」


 「そ、そう……分ってくれたら、ママは良いのよ? 大きな声を出してゴメンね……」


 小春に替わった早苗は……小春の振りをしたまま、目に涙を溜めて上目使いで母恵理子に話す。対して恵理子も大声を出した事を謝罪した。



 そして早苗(体は小春)は俯いたまま……居間を出て階段を駆け上がって自分の部屋に入る。



 “え!? 早苗さん、まさか玲人君を放って置く心算じゃ無いですよね!?”


 “どうする心算なの、お母さん?”

 

 大きな足音を立てて小春の部屋に入った早苗(体は小春)はドカッと勉強机の椅子に座る。そんな早苗の様子に脳内のシェアハウスに居る小春や、仁那は問うた。

 

 (心配ないわ。今から玲君達を助けに行く)


 “そ、それじゃ……この部屋から抜け出して向かうって事ですか?”


 “でも、お母さん、玲人が居る所まで場所が分んないよ? 海が近い所って言ってたけど……”


 短く答えた早苗に対し、矢継ぎ早に小春と仁那が質問する。



 (二人共、ちょっと落ち着きなさい。玲君の事を心配する余り、大事な事を忘れてないかしら? 私達にはこの場に居ながら玲君の所に助けに行ける……その手段が有る事を)


 “……そうか……”アンちゃん“か……。でも模擬戦の時に全部……壊れちゃった筈ですけど……”


 “そうそう、玲人にバラバラにされちゃったよね”

 

 (大丈夫よ……模擬戦の後、こんな事も有ろうかと弘樹お兄様に頼んで大特急でアンちゃんを直させたから! 緊急対応用に一台は玲君の傍に有る筈。さぁ、二人共……玲君達を助けに行くわよ!)


 “はい!”“うん!”



 小春と仁那の問いに、力強く返答した早苗は二人に声を掛ける。そんな彼女に小春と仁那も迷いなく応える。


 次いで小春は早苗と意識を替わって貰ってから自室の勉強机に向かって座り、両手を組んで祈る様な姿勢を取る。


 目を瞑り、意識を高め……此処には無い戦闘用アンドロイド“アンちゃん”へと意識を集中する。



 今、“アンちゃん”は坂井梨沙少尉や志穂が要る作戦指揮通信車内に配置されている。



 早苗の要請により、玲人が向かう作戦地域には必ず“アンちゃん”を配備する事となっている。


 その“アンちゃん”の内部には小春が生み出した“ニョロメちゃん”が憑依させてある。小春が意識すれば“アンちゃん”を自分の体の様に動かせる事が出来るのだ。



 小春が強く意識を “アンちゃん”へ向けると……作戦指揮通信車内に配置されている白い外装を持った、女性型アンドロイドがカタカタ震えだした。


 早苗の要望で敢えて小春と似通った形状で作られた、そのアンドロイドの額には……憑依しているニョロメちゃんの目が輝いている。


 ここに戦闘用アンドロイド“アンちゃん”と小春達の意識が繋がった。


 小春と早苗、仁那の3人は玲人と修一を助ける為……ドルジとの戦いに参戦するのであった。


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