204)廃倉庫での来襲-15(その頃の彼女達)

 ……所変わって石川家……。


 丁度小春達は早めの夕食を食べ終え、本日突然訪ねてきたドルジから頂いた北海道産高級スイカを召し上がっている所だ。


 「……この甘さ……この世のモノとも思えない……流石、最高級……」


 「そうじゃなー、この品種……高いから、中々買えんからの」


 喜喜としてドルジからスイカを受け取った陽菜は真剣な顔で味わい、感無量と言った様子だ。カラオケから帰って来ていた祖母の絹江も相槌を打つ。



 「……随分と立派なスイカ頂いたわねー。お礼言わなくちゃ! 小春、スイカくれたの安中さんのお知り合いなのよね?」


 「…………」


 “ガツガツガツ!”

 

 仕事から戻った母の恵理子の問いに、小春? は答えず一心不乱にスイカを食い漁る。その食べ方は両手でスイカを持ち芸人さんが早食いで食べる、あの食べ方だ。


 「……あーダメよ、ママ! 今はお姉ちゃんじゃ無くて……仁那ちゃんだから! ね、仁那ちゃん?」


 「ふぁ!? ヴぁみがびっだ?(何か言った?)」



 陽菜に急に振られた仁那(体は小春)はスイカを大量に口に入れたまま、問い返す。


 口からはスイカの赤い果汁が零れ落ちてる……。絶対、うら若き中学生女子がヤッてはダメな行為だ。


 「……あー……い、良いわ! 仁那ちゃん、後で小春に聞くから! 好きなだけ食べてて!」


 「ヴぅあい!(はい!)」


 その様子に恵理子は聞くのを諦め、食べる事を促す。対して仁那はスイカまみれの顔を破顔させて返事と同時に獲物にかぶり付く。




 うら若き中学生女子の面目を台無しにしている仁那……。その姿を意識内に設けられたシェアハウスで呆然と見つめる者が居た。




 そう……うら若き中学生女子ボディの本来の持ち主である小春だ。シェアハウスでワナワナと震えながら頭を抱え込み呟く。


 「……に、仁那……! そそそその食べ方は……お願いだからヤメて……!」


 憔悴した様子で呟く小春だが、シェアハウス内で散々、仁那の行為を叫んで止めようとしたが無駄だった。


 融合の所為か、精神年齢が幼くなってしまった仁那は本能で動くお子様となり、一度暴走すると手が付けられない。


 そんな仁那の有り余る行動を早苗を始めとする周りの大人達は、同化する前……日常を生きる事すら大変だった仁那を思い遣ってか……”子供らしくて良いわねー”と言った感じで甘やかすのだった。



 「元気で何よりよー。所で、こんな高そうなスイカ……結局、誰から頂いたの?」


 「……ああ、早苗さんはシェアハウスで眠ってたんだ。実は、今日……」


 石川家が絶対買いそうに無い、高級スイカの出所が気になり早苗は小春に問う。聞かれた小春は、スイカを持って来たドルジの話を軽い感じで説明した。




 「……そんな恰好で、凄く大きな人だったので陽菜がビックリしちゃって! でも、とても優しい人だったんです。何でか分らないけど……わたし、頭を撫でられて……」


 「ドルジ……、それにローブ姿……そして戦場(いくさば)に、御目覚め……まさか……」



 “ママ!! 見て、テレビ!! 凄い事になってる!!”



 小春の話を聞いた早苗が有る事に気付いた時だった。シェアハウスの外……つまり小春の意識外から陽菜の叫び声が響いた。外の世界で何か有った様だ。


 早苗は只ならぬ状況を理解し、スイカを食べていた仁那へ今すぐ小春と替わる様指示するのだった……。





  ◇   ◇   ◇





 意識を仁那から替わって貰った小春が先ず目にしたのは……。テレビ画面に映し出される燃え盛る廃工場跡地だった。



 「……此処って確か……海に近い工業地帯よね……」


 「おお、確かそうじゃな……。戦争の後、廃墟になった所じゃ……。この家から結構離れてるから、危険は無いと思うが……」


 テレビの向こうでは、廃工場が崩壊し火の手が上がっている様子が映し出されている。その様子を見ながら母の恵理子と、祖母の絹江が話し合う。



 小春も映し出される惨状に呆然と映像を眺めていたが、其処に中継していたテレビリポーターが騒ぐ。


 『み、見えますでしょうか……!  無人の廃工場群に発生した火災による炎は、暗くなった辺りを煌々と照らしております! 此方、空からの中継ですが……高く上がる炎により、熱さを感じる状況です!』


 ヘリに乗っているリポーターは興奮しながら大声で状況を伝える。


 小春も地元の大事件に食い入る様にテレビを見ていたが、中継のカメラが地上を映した時……彼女は有る存在に気が付き叫んだ。


 「れ、玲人君!?」


 テレビカメラが映した映像には、一際轟々と明るく燃える廃工場の前に一人立つ玲人が見えた。


 映像は直ぐに違う場所を映した為、玲人が見えたのは一瞬だったが、小春には直ぐに彼だと分った。

 

 いつも着ている真黒いボディスーツはボロボロで、隻眼のヘルメットも無くなっていた。


 その為、小春は一目で彼だと認識出来たのだが……同時に何故、玲人がそんな姿なのかが分らず、不安で胸が一杯になった。



 ボロボロの様子の玲人を小春が動揺している最中だった。突然リポーターが大きな声を上げる。

 

 『ご、ご覧ください! ほ、炎の中から人が!?』



 リポーターの叫びと共に映し出された映像は、天高く炎を上げる廃工場の中から……巨漢の男、ドルジが悠然と歩み出る様子だった。


 「あ、あれ? 今、テレビで言ってた人……スイカのオジサンに、似てた様な……」


 テレビを見ていた陽菜が映像の中のドルジを見て首を傾げる。


 そんな時……“ブツン”突然、映像が途切れた。そして“映像が乱れて申し訳ありません……”と言うテロップが流れるのであった。


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