203)廃倉庫での来襲-14(覚悟)

 ドルジの攻撃で伊藤が居た廃ビルは完全に崩れ去った。その様子に前原は……。


 『い、伊藤さん!? こいつ!!』

 

 前原は激高し自動てき弾銃は銃口をドルジに向け榴弾を発射した。


 “ドドドドドン!


 毎分250発の発射速度を持つ自動てき弾銃は、軽装甲車を破壊できる榴弾をドルジに向けて撒き散らす。


“ドガガガアン!!”

 

 放たれた榴弾は着弾と同時に炸裂し、爆風と土煙が生じる。距離が有るとは言え、これだけの榴弾を放てば、弾丸の破片が飛散し前原のエクソスケルトンでも危険だ。



 “もう十分だろう”そう判断した前原は自動てき弾銃の発砲を止めた。



これだけの爆発の中……生きている者等居る筈が無い、そう確認した前原だったが……。


 “ゴヒュン!!” “ガギイン!!”


 大量の榴弾が起こした土煙の中、真黒い何かが飛び出し、前原のエクソスケルトンに激突した。


エクソスケルトンは部品をばら撒きながら後方に吹き飛び、地面に転がる。


 前原のエクソスケルトンは下半身にドルジの斧をぶつけられ、両足が大破した。衝撃で吹き飛んだ訳だが……もはや立ち上がる事も出来ない。


 重故障アラームがけたたましくなるコックピット内に居た前原は、動かなくなったエクソスケルトンからの脱出を図る。



 『浩太、大丈夫!? 今、そっちに行くわ!』

 『ま、前原! 無事か!?』


 そんな中、同時に入る沙希と坂井梨沙の通信。


 「……俺の方は問題ありません。それよりも伊藤さんと玲人君を頼みます! 沙希、早く二人を救出してやってくれ」


『ちょ、ちょっと浩……』


“ブツン”


 前原は通信で自分が無事である事を二人に伝え、先にやられた伊藤と玲人の救出をエクソスケルトンに搭乗する沙希に依頼し、一方的に通信を切った。



 こうでもしないと、沙希が前原の支援に来てしまうからだ。


 コックピットのハッチを開け、エクソスケルトンから出た前原は凶悪な斧を片手に気だるげに此方に向かって来るドルジを見た。


 「……全くままならねェな……」


 前原は溜息を付いて呟いた後……、銃を片手にドルジに向かう。


 「……それ以上動くな」

 「……貴殿も分っているであろう……。その小さなオモチャでは……この俺には何の痛痒も与えん事を……」


 恐るべきドルジに対し、前原は銃を向け静かに言い放つ。ドルジは淡々と事実を言う。


 「かもな……でも、俺達軍人には関係無い」

 「……我々、騎士と同じと言う訳か……実に天晴な気概……。マールドムにしては、惜しい男だ……」


 前原の言葉に感心した様子のドルジだったが、彼の警告を無視し歩き出す。


“パン、パン!”


警告を無視したドルジに対し、前原は迷いなく発砲した。


弾丸は正確にドルジの額と胸に命中したが……、弾丸は何のダメージも与えず地面に転がった。


 ドルジは反撃するのが礼儀だと言わんばかりに、無言で凶悪な斧を振り上げる。


 廃ビルを一撃で破壊した、その武器で打たれれば……前原のその肉体は微塵となり、確実に命を落とすだろう。


“ボヒュン!!”


 強力な風切音を上げて振り降ろされるドルジの斧。



 死を覚悟した前原だったが……。



 “ガキイン!!”


 甲高い音がしたと同時に、振り降ろされた凶悪な斧を何かが受け止める。


 それは黒針だった。長さ1m程の黒針がドルジの斧を受け止めていた。



 黒針を持つのは玲人だ。何処から現れたのか、ボロボロになった黒いボディアーマー姿の玲人が両手で黒針を持ち、今まさに振り降ろされんとしてた斧を防いだのだ。


“隻眼”を現すフルフェイスのヘルメットは破壊され、素顔を見せていた。


 「れ、玲人君!?」

 「うおお!!」

 

 玲人は叫んでドルジの凶悪な斧を、押し返す。その上で全力で彼に蹴りを入れ後ずさりさせた。“ドガァ! ズササァ!”


 ドルジと距離を取った玲人は、彼を睨みながら後方に居る前原に声を掛ける。


 「……前原さん、後方に下がって下さい。奴の狙いは俺です。俺が奴と戦います」


 「し、しかし!? 奴はビルすら一撃で破壊する化け物だぞ! それで伊藤さんだって……! 君一人なんて無茶だ!!」


 「……伊藤さんなら無事です、俺が助けました。奴を止められるとすれば……俺だけです。さぁ、早く!」


 前原と押し問答をしていた玲人だったが、彼に叫んだ後黒針を手にドルジに向け駆け出した。そして黒針による斬撃を繰り出す。


 “ガイン! ガキン! ガン!”


 黒針により斬撃を繰り返す玲人に対し、ドルジは斧で受けながら涼しい顏で話す。


 「ククク……仲間を守る為……一人で戦う、その姿。……まさに、あの御方よ……」


 「くっ! 訳の! 分らない事を! 口走るな!」


 何かを思い出す様に呟くドルジに対し、彼の放つ言葉に玲人は苛立った。玲人は短い黒針を大量に生成しドルジに向け一斉に放つ。“ドシュン!!”


 しかしドルジは巨大な斧を一振りさせて、放たれた黒針を全て叩き落とした。


 “ガキキン!”


 次いで玲人は飛び上がってドルジの頭部目掛けて、黒針を振りかざす。頭上から彼を突き刺す心算だった。


 “ヒュン!”


 しかし、ドルジは凶悪な斧を下から上に振り上げ、玲人を襲う。


 「クッ!!」


 玲人は振り上げられた斧に、黒針で受けて此れを止めた。そして彼はそのまま宙返りして後方に飛んだ。


 後方に飛んだ玲人は黒針に意志を働かせ、白く発光させる。



 大技で彼を倒す心算だ。

  


 “キイイイイン!”


 玲人は強力な“意志力”を込めて、黒針をドルジの胸に向けて投げ放った。


 ”ギュン!!”


 “力”が込められて放たれた黒針は眩く発光し、ドルジの体を貫こうと突き進む。


 黒針はドルジを貫いて破壊しない限り止まらないだろう。


 実際、玲人はそうなるように意志力を黒針に込めた。玲人やドルジ達アーガルムは、己が意志を現実化出来るのだ。


 対してドルジは黒針を両手で掴み黒針の動きを静止させようと抗っていた。

 

 「オオオオ!!」


 ドルジはケモノの様に叫び黒針の動きを止めようとしてたが、玲人の意志力が込められた黒針は止らず、ドルジの体ごと突き進んだ。



 ドルジは黒針に押され、燃え上がる廃倉庫跡に吹き飛ばされた。そして……。



 “ドガアアアアアン!!”



 大音響と共に爆発し、大きな火球が地上に形成された。


 その後、廃倉庫跡はさらに大きな炎に包まれ、暗くなった辺りを明るく照らすのだった……。



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