203)廃倉庫での来襲-13(怪物)

 梨沙からの攻撃指示を受けた前原は、玲人に追撃しようと動き出したドルジの前にエクソスケルトンにて立ち塞がった。


 そして肩に内蔵された自動てき弾銃を構える。この銃は約5cmの装甲を貫通する強力な榴弾を連射出来る恐るべき兵器だ。


 前原は今度は、警告しなかった。もはや言葉は通じないと理解したからだ。



 照準を前方に居るドルジに合わせると、肩の自動てき弾銃は銃口をドルジに向け狙いを定める。



 “ドドドン!”


 

 発射された榴弾はドルジに向かい飛んで……。



 “ドガアン!!”



 榴弾は命中すると内部の火薬が炸裂し、爆発した。この榴弾は約5cmの装甲を貫通し、爆発によって半径5m以内の人間を確実に殺傷する恐るべき弾薬だ。


 自動てき弾銃はエクソスケルトンが装備可能な兵装の中で対戦車ミサイルに次ぐ、最大火力だった。廃倉庫でのテロリスト殲滅戦において過剰と思われながら装備していた。




 しかし、目の前のドルジに対しては……。




 『ば、馬鹿な! 無傷かよ!?』


 命中した榴弾は装甲車すら無力化させる程の威力を持つ。にも拘らず生身である筈のドルジは……何のダメージも受けていない。


 上半身が裸となったその肉体は鍛え上げられ、筋骨隆々として逞しい。しかしだからと言って榴弾が効かない理由にはならない。



 『前原、俺に任せろ……精密射撃で頭部を狙う……!』


 『伊藤さん!?』


 前原の攻撃が効いていない事を志穂が操る無人機の映像で判断した伊藤は、ドルジに対し急所狙いで対物ライフルを狙撃する事にした。


 但し……使用する弾丸は徹甲炸裂焼夷弾だ。


 この弾丸は徹甲弾と炸裂弾と焼夷弾の三つの機能を持った弾丸で、余りに強力過ぎて通常時においては対人用の弾丸としては使用しない。


 仮に人体に使用した場合、防弾服を着ていたとしても、体内で爆発し木端微塵になる弾薬だ。


 逆に人体の場合、柔らかすぎて炸裂しない場合があるが……伊藤はドルジが被る顔面の金属製マスクを狙う心算だった。


 此処ならば確実に爆発させ、殺傷できるだろうと。もっともその場合……上半身が砕け散る事となる筈だが。


 完全なオーバーキル行為だったが、伊藤は躊躇する気は無かった。玲人を圧倒で出来る敵など危険極まり無いからだ。



 伊藤は対物ライフルのスコープを覗きながら、ドルジの頭部に狙いを定める。



 伊藤が居る廃ビル屋上は、ドルジが居る所まで100m程度だ。ゴム弾の射程範囲の為、廃倉庫から比較的近くを狙撃ポイントに選んでいた。


 この距離で対物ライフルの実弾なら確実に仕留められるだろう。



 伊藤がドルジの頭部に狙いを定め……、今まさに引き金を引こうとした時。ドルジが突然、顔を上げ伊藤の方を見つめた。



 そして……口元を歪め、ニヤリと笑って見せたのだ。



 伊藤は、スコープ越しでドルジが笑って見せた事に、模擬戦での玲人の姿が脳裏に浮かんだ。


 (……向こうからは死角の筈……見える訳がない……だが、あの模擬戦の時……玲人君は気付いていた。まさか……奴も同じと言う訳か? ……しかし、今は戦闘中……迷いは不要だ!)


 伊藤は背筋に冷たいモノを感じながら……迷いを振り切って引き金を引く。


 “ダーン!!” “バガン!!”


 着弾と同時に破砕音が響き、ドルジの頭部は大きくのけ反り……上半身が炎に包まれた。



 しかし……。それだけだった。



 確実にドルジの頭部に命中した徹甲炸裂焼夷弾は……ドルジの金属製マスクを吹き飛ばし……彼の半身を炎で包んだ。


 だが、ドルジは倒れる事無く踏み止まり裸となった上半身を燃やされながらも平然と立っている。


 対物ライフルの徹甲炸裂焼夷弾はドルジの頭部をスイカの様に粉々にした後、焼夷弾薬で彼の体を焼き尽くす筈だった。


 しかし……彼はそうでは無かった。……マスクはバラバラになり、彼の素顔が顕わとなった。


 短い黒髪で体格に似合わず優しげな顔に、伊藤は意外に感じたが……焼夷弾薬による高熱の炎を、煩わしそうに手で扇ぐだけと言う……ドルジの異常性に伊藤は恐怖した。



 伊藤は知らなかったが……アーガルム族はその身を頑強に有るべく強力な意志力が常に働いている。


 また、その頑強な肉体が傷付いても意志の力であっという間に再生する事が出来るのだ。


 ドルジ達12騎士長達は、他のアーガルム族より強力な意志力で……物理法則を超えた、圧倒的な防御力と再生力を持っていた。



 従って装甲車を貫く徹甲炸裂焼夷弾であっても……彼らの身を傷付ける事は出来ない。


 伊藤は理解出来ない状況に恐怖しながら……続けて狙撃しようとスコープでドルジを狙う。


 すると、彼は焼夷弾の炎が消えた様で涼しい顔をしている。



 そして、ドルジは右手を後方に回し、まるでフリスビーを投げる前の様に凶悪な斧を振り被っていた。



 ドルジの視線は……真直ぐ有る一点を見ていた。その表情は悪戯っ子が見せる様な笑みを浮かべている。



 伊藤はスコープ越しでドルジの狙いが分り叫ぶ。



 「ま、拙い!! 奴の狙いは! このビルだ!!」


 伊藤が叫ぶと当時に、ドルジは軽く手首だけで……凶悪にして巨大な漆黒の斧を投げ放つ。


 ”ブオン!!”


 その凶悪な斧は超高速で飛び……伊藤が居る廃ビルに激突し、そのまま薙ぎ倒してしまった。



 ”ドガガガガアン!!”


 廃ビルを薙ぎ倒した漆黒の斧は、ドルジの意志力によるモノか……大きく弧を描いて独りでに彼の右手に収まる。


 そんなドルジを前に……伊藤が居た廃ビルは盛大な土煙を上げて完全に崩壊したのであった……。

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