202)廃倉庫での来襲-12(最大火力)

 ドルジが放った光球により生じた豪炎の中から飛び出した玲人……。



 豪炎の前に立つ彼の体には黒い球状の壁が、盾の様に彼を取囲み浮いている。


 玲人を包む黒い球状の壁は、修一の武器である黒石球の防御形態だった。黒石球は使い手である修一の意志の通り、攻撃形態や防御形態へと自在に姿を変える事が出来る。



 殴り飛ばされた玲人をドルジの光球による追撃が襲った際……、修一は防御形態を展開したと言う訳だ。玲人は脳内で自分を守ってくれた修一に礼を言う。



 (助かったよ、父さん) 


 “確かに危なかったね、玲人……。だが、このままではジリ貧だ……どうする?”


 (試したい事が有るんだ。それをやる為に奴に仕掛ける!)


 “分った……防御は任せて”


 (ああ、頼むよ、父さん!)



 脳内で修一に話した後、玲人は矢の様に駆けながら、右手を天に向ける。すると、彼の頭上に無数の黒針が形成された。


 “ズアアア!!”


 玲人は駆けながら右手を振り降ろし生じた黒針をドルジに投付ける。


 「フン……これはさっき見たぞ?」


 ドルジはつまらなそうに呟きながら、大量に投げられた黒針を先程と同様に斧で薙ぎ払う。


 “ガキキキン!”


 無数の黒針はドルジの斧の斬撃で一掃され、霧散した。此処までは先程と同じ……。



 しかし、玲人は駆けるのを止めず……ドルジ眼前で飛び上がった。そして空中で右手で投げる仕草をする。


 すると……玲人のボディアーマーから何かが飛び出し、ドルジの体に命中した。


 “カカカカン!”


 ドルジの体目掛けて投げられたのは……黒いボタン状のカプセルだ。カプセルは彼の体に10個程張り付いた。


 それを見届けた玲人はドルジの後方に着地する。

 

 「……なんだ、此れは?」


 「実践で使うのは初めてだ……。強力過ぎてな。……喰らえ」


 体に取り付いた黒いカプセルについて怪訝そうに問うドルジに、玲人は静かに答える。


 次いで玲人はドルジの周りに障壁を展開し、右手を差し出して意識を高める。



 すると……。



 “カッ!!”


 “ドドドドドドン!!”


 取りついたカプセルが一斉に爆発する。爆炎は玲人が展開した障壁により周囲に広がらず高く天に舞い上がった。



 黒いカプセルを同時に爆発させた玲人は、仁那から移譲された“狂騰”で爆発力を大幅に増幅させた。


 それにより大型船すら一瞬で大破させる程の破壊力を生む。



 かつては戦術核兵器に匹敵すると、新見元大佐に言わせた力だ。


 玲人は“狂騰”の力を極力抑えて発動した。無人の廃屋街とは言え、滅多に使って良い力では無いからだ。


 それでも、“狂騰”の力で増幅されたカプセルの爆発力は、何処までも天高く炎を立ち上らせている。


 豪炎に包まれたドルジは爆発力も障壁で閉じ込めている為、拡散せず全て彼に集中している筈だ。



 玲人が持つ、最大火力による攻撃……。



 この攻撃により、流石のドルジも倒れたかと確信した玲人だったが……。


 “パキキ! バキン!”

 

 玲人が展開している強固な障壁にヒビが入る。そして……。


 “バキイイン!!”


 障壁が音と共に破壊され、内部に閉じ込められていた豪炎も一瞬の内に霧散した。



 焼け跡に立つドルジは……金属製のマスクは残っていたがローブや胸当ては崩れ去り、上半身だが生身の肉体が見えている。


 鍛え上げられた鎧の様な肉体は、幾つもの傷痕を刻んでいるが玲人の攻撃には無傷だ。



 よく見れば体表面に白い光が覆っており、この光が常にドルジの体を守っているのだろう。



 「まさか……この程度か?」


 「……あの攻撃でも効かないのか……怪物め」


 障壁を破り、半裸のドルジは玲人の最大攻撃を受けたにも関わらず涼しい顏で退屈そうに話す。対して玲人は苛立ちながら呟く。


 「今度は此方の番だな……」

 

 ドルジは呟きながら、左手をそっと上に向けて前に出す。すると、その動作に追従して周囲の廃ビル残骸が幾つも浮き上がった。


 “ゴゴゴゴ”


 「……楽しむと良い……」


 “ゴヒュン!”


 ドルジは呟くと同時に、左手を下げる。すると浮き上がった幾つもの廃ビル残骸が玲人の方に向かって飛び放たれた。


 “ガガガガン! ドゴオオオン!”


 投げられた残骸を玲人は辛うじて躱す。外れた残骸は地面に激突して盛大に破砕音を上げる。


 最後の残骸を躱し切った時、玲人はドルジの姿が消えた事に気が付いた。



 “拙い!!”と思った瞬間、真上から飛んで来たドルジの攻撃を受ける。


 上空から舞い降りたドルジは右手一本で凶悪な斧を叩き付けた。



 “ガギン!!”


 「おおお!!」


 玲人は雄叫びを上げながらドルジの斧を黒針で受け止める。玲人はドルジの斧を受け止めるだけで精一杯だった。



 その為、ドルジの追撃に気が付かなかった。



 ドルジは空いていた左手を玲人に向かい突き出す。すると……その動きに合わせて転がっていた大きなコンクリート塊が高速で飛び、玲人に激突した。


 “バガン!!” 


 コンクリート塊をぶつけられた玲人は、堪らず吹き飛び……ドルジが斧で破壊した廃工場の残骸に突っ込んだのだった。





  ◇   ◇   ◇

 




 ドルジが放ったコンクリート塊で吹き飛ばされ、廃工場残骸に埋もれた玲人。 


 その様子を作戦指揮通信車から見ていた坂井梨沙少尉は激高し、直ちに特殊技能分隊の隊員達に指示を出す。


 「れ、玲人!? くっそー! 前原機は攻撃! 伊藤は対物ライフルぶちかませ! 沙希は玲人の救出! 志穂は全員に映像を送れ!」


 『『『『了解!』』』』


 梨沙からの指示を受けた特殊技能分隊の隊員達は勇ましく答え、すぐさま行動を開始したのであった。



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