201)廃倉庫での来襲-11(動揺)

 アガルティアの12騎士長が一人ドルジによる強烈な一撃を喰らった玲人。


 彼は吹き飛ばされた廃工場に激突し、その衝撃で崩れ落ちた廃工場の建屋に埋もれてしまう。

 

 廃工場の瓦礫に埋まった玲人に対し、ドルジは追撃を加えようと凶悪な斧を振り被り……放り投げた。


 “ドヒュン!!”


 投げられた巨大な斧は、恐るべき速度で廃工場跡に迫り……。


 “ガガガアアン!!”


 巨大な斧は、つんざく激突音を上げ、廃工場跡の瓦礫を吹き飛ばした。



 そればかりかドルジによって意志力を与えられた巨大な斧は、斧は瓦礫を吹き飛ばした後……独りでに飛び、進路上に有った廃屋や建屋を軒並み破壊する。



 “ガガン! バガアアン! ドゴオン!!”



 恐るべき破壊を起こした斧は、弧を描いて飛び……高く伸ばしたドルジの右手に収まる。


 “ガシィ!!”


 凶悪な斧によって廃屋群が薙ぎ倒されたお蔭で……周りはすっかりと開けてしまった。



 「……脆い石と鉄の柱で出来た……異形の街並み……。情緒も何も無い……薄汚れた場所だが……少しはサッパリしたか……。うぬ!?」 



 斧に依って広々とした廃工場周辺を見渡し、ドルジは満足そうに呟いたが自身に近付く何かに気が付き身構える。


 “ヒュン!! ガギン!!”


 ドルジの死角から現れた玲人が黒針で切り掛かり、これをドルジが斧で受ける。どうやら、斧がドルジの手元に戻る際に彼に近付いていた様だ。


 “ガキン! ガガン! ゴン!”


 玲人は間断なくドルジに黒針で攻め、対する彼は難なく受け返す。



 そしてドルジは……。



 玲人の攻撃の合間に、凶悪な斧で水平に薙ぐ!  


 “バヒュン!!”

 

 “!? れ、玲人 来るよ!!”


 「ああ、分ってる!!」


 攻撃を察知した脳内からの修一の叫びに、玲人も答えながらドルジの攻撃を身を逸らして躱す。


 しかし、ドルジは巨大な斧を振り抜いた後に、身を翻し……強力な回し蹴りを放った。


 “ドオウゥ!!”


 「ぐ、ぐううぅ!!」 


 “ズサアアア!!”

 

 鋭く強力な回し蹴りを何とか、両手で防いだ玲人は、後方に後ずさりさせられた。


 ドルジの回し蹴りは、斧を振り抜いたついでの様に軽々放たれたが……。それを防いだ玲人の両腕はジンジンと鈍く痛む。


 意志力で身体を強化している玲人だからこそ、その程度で済んだのだ。



 “次!! 追撃が!” 


 “ブン!!” 


 「!? ちぃ!」

 

 回し蹴りで後退させられた玲人に間髪入れず、ドルジは巨大な斧を投げて追撃する。


 修一の報せで、追撃に気が付いた玲人は悪態を突きながら、ドルジから投げられた斧を後方に大きく飛んで躱す。


 しかし……。


 「……遅い……あくびが出るぞ」


 躱した玲人の背後にいつの間にかドルジが待ち構え、右手を振り被りながら呟く。


 “ドゴオン!!”


 「あがぁ!!」


 “ザシャア! ゴロゴロゴロ……”


 丸太の様なドルジの右腕で殴り飛ばされた玲人は、吹っ飛び地面を転がる。ドルジはそんな彼を尻目に、一瞬で元居た場所に戻る。


 瞬歩と言う移動法なのか、巨体に似合わず恐るべき素早さで移動できる様だ。


 もっとも、その気になればドルジを始めとする12騎士長達は瞬間移動も簡単に出来たが……。



 そして右手を挙げると、ブーメランの様に投げられた斧がその手の中に納まった。


 “ガシイ!”


 転がった玲人を遠目にドルジは左手の人差し指を上に向けて立てる。すると指先に眩い光が集まる、先程、廃倉庫を吹き飛ばした光だ。


 “キュン!” 


 ドルジは殴られたダメージが大きいのか、今だ寝転がっている玲人に向け光球を放つ。


 “ドガガガアアン!!”


 放たれた光球は音よりも早く飛び……地面に激突して大爆発を起こした。



 ドルジが放った光球により生じた大爆発……。爆発は大きな火球を生じた後……豪炎が立ち上っているのだった……。




  ◇   ◇    ◇




 『玲人!!』


 『れ、玲ちゃん……そんな……』


 爆発を見て、作戦指揮通信車から見ていた梨沙や志穂が絶望の声を上げる。こんな炎に包まれれば、玲人とて生きている筈は無い……。



 そう思った二人だったが、そんな中、通信が入る。



 『……落ち着け、二人共……。指揮を司る君らが動揺してどうするんだ……。大御門准尉なら無事だ……。遠隔表示されているバイタルサインはずっと安定している。……何より、彼がこの程度でやられる訳がない……』


 「ほ、本当だ! 流石、玲ちゃん!!」


 安中の通信を聞いて、志穂が玲人のバイタルサインを確認し明るい声を上げた。しかし梨沙は何か引っ掛り、彼に問う。


 「……安中大佐……、何故……その様な、確信を?」


 梨沙の問いは軍に席を置く者としては正しくは無いと認識していた。ましてや指揮官である自分はどんな時にも沈着冷静で有るべきと……。


 そう言う意味では安中の対応は全く正しい。しかし、梨沙が疑問に想うのは……彼の揺るぎない態度だ。


 目の前に繰り広げられているのは模擬戦では無く実戦だ。しかも相手は今まで無敵だった玲人を圧倒する程の途轍もない怪物……。


 そんな存在が突然現れて、玲人を叩きのめしてるのだ。


 しかも倒れ込んだ状態での、あの爆発……。玲人の強さを良く知ってる筈の梨沙でさえ、動揺し命の危機を予感してしまった。



 だが、安中は何の疑いも無く、玲人の無事を確信している。まるで、そうある事が当然の様に。



 不自然な安中の態度に梨沙は問うが、彼は静かに答える。


 『……答えは簡単だ、坂井少尉。私は……誰よりも“彼”の強さを知っている。だから……こんな攻撃で倒れる“彼”では無い。……ほら、見るが良い……“彼”が立ち上がった様だ……』


 「え!?」


 さも当然の様に答えた安中の言葉に、梨沙は驚いてモニターを見る。すると……立ち上る豪炎の中から何かが飛び出す。


 “ボヒュ!”


 豪炎の中から飛び出して着地した玲人の体には黒い球状の壁が、幾重にも浮いて彼の体を守っている。


 それにより玲人の体は爆発による炎でも大したダメージは受けていない様だ。

 

 「れ、玲人……」


 『私の言った通りだろう? 作戦は継続……大御門准尉に敵性対象の殲滅を続行させる。坂井少尉は作戦指揮を引き続き頼む』


 「……りょ、了解しました」


 驚く梨沙に、安中は静かに作戦続行を指示する。余りに冷静な彼の言葉に……梨沙は強い違和感を抱きながらも、指示に従うのであった。


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