200)廃倉庫での来襲-10(歓喜)

 燃える巨大なフォークリフトを片手に迫るドルジの前に、一人立つ玲人。その姿を見てドルジは感慨深げに呟く。


 「……姿、形を変えようとも……その魂は変わらんか……。ククク……ガリア……お前の言う通りだったな……。恐悦至極!! いざ、挑ませて貰う!!」


 ドルジの前に恐れを抱かず、一人立ち塞がる玲人を見て……ドルジは何やら感極まって叫んだ。



 そして……。


 “ブオン!!”


 ドルジは左手に軽々持ち上げていた燃えるフォークリフトを玲人目掛けて放り投げた!


 普通の人間なら、巨大な鉄塊に押し潰されて即死だろうが……玲人は違う。


 彼は右腕に持っていた黒針に意志力を込め……フォークリフトに向かい投げる。


 “キュン!”


 黒針は音より速く飛び……フォークリフトに突き刺さり、そのまま爆散した。


 “ドガガアン!”


 黒針がもたらした爆発により、バラバラになり飛散した。爆発による火球は傍に居たドルジも巻き込み……豪炎となって立ち上った。



 この爆発ではドルジも只事では無い筈だが……。豪炎の中から涼しい顏で彼は歩み出た。



 「……成程……貫き、炸裂する黒き牙……と言う訳か……フフフ……また、ロティが喜びそうだ……“雛”の少年……、そなたの武器は見させて貰った。……今度は、俺の番だ」


 炎から歩み出たドルジは面白そうに呟いた後、軽く右手を挙げる。



 すると――魔法の様に巨大な斧が握られた。



 その武器は、真黒い黒曜石の塊のような武骨な巨大な斧の様な武器だ。


 斧なのか岩の塊か判断に悩む形状をしているが、異様なのは其の巨大さだ。直径1m位ある円状の刃が付いた平たい塊に同じ材質の野太い柄が有る。


 玲人はドルジが手にした武器を見て……背筋が凍る想いだった。何故なら、その武器の質感や色は……正しく玲人が使う黒針と同じだったからだ。



 ドルジは巨大過ぎるその漆黒の武器を……軽々と片手で持上げ、そして水平に薙いだ。



 “ゴヒュン!!”



 するとドルジを中心に衝撃波が生じ、玲人は吹き飛ばされそうになった。玲人の後ろに居たエクスソスケルトン組はよろけ、作戦指揮通信車もガタガタと揺れる。


 ドルジが放った衝撃波でフォークリフトの豪炎が一瞬で消え去った。ブスブスと煙が立ち上り、まっ黒焦げとなった焼け跡にバラバラになったフォークリフトの残骸が転がっていた。


 巨大過ぎる武器を片手で軽々振り回すドルジ。そんな彼を前にして、玲人の脳内で修一が問い掛ける。



 “玲人……彼は……アガルティアの12騎士長は……僕達より、遥かに強いだろう……。それでも君は戦うのか?”


 (ああ……奴が俺より強い事は感覚で分る。だが……奴の狙いが俺である以上……戦いは避けれない。それに俺自身も……奴との戦いを望んでいる……! 理由は分らないが……俺のアーガルムとしての意志が……そうさせるんだ)


 修一の問いに、玲人は静かに答えた。


 “……戦いを望むはマニオスと共に生きる、僕らの宿命か……。君がそれを望むと言うなら、それを導くのが僕の役目だろう……。いいよ、君は君が望む様に生きなさい。僕は君の生きる道を導き支え、一緒に居よう”


 (……父さん、何より……心強い!!)



 修一は玲人が戦う事を止めなかった。修一は玲人がアーガルムとして生き辛さを感じている事をよく理解していたからだ。

 

 本来の力を発揮させる事が出来ず、忍耐の日々を送る事を。玲人がそんな日々に生き辛さと疎外感を感じている事も……。


 そして今日……アガルティアの12騎士長ドルジが玲人の前に現れた。彼は玲人と戦う為に来たと言っていた。


 ドルジの存在は玲人に取って歓喜をもたらした。生まれて初めて自分より強い存在が、本気を出しても構わない存在が、眼前に現れたのだ。



 そんな玲人とドルジとの戦いは止められないと、修一は覚悟した。



 戦いを司どると言うマニオスと、同一の存在である玲人にとって“戦う”事は避けられない宿命なのだろう。そして修一自身も……。


 早苗から聞いている安中、いや……アガルティア12騎士長達の思惑通りの展開に……修一は、苛立ちを感じた。



 “……早苗姉さん、ゴメン……だけど……今は、玲人の想いを尊重するよ”


 (父さん? どうかしたか?)


 “いや、それより……彼が来るよ!” 


 “ゴオウ!!”


 何故かこのタイミングで早苗へ謝る修一に、玲人は不思議に思い問うが、そこにドルジが攻めて来た。


 ドルジは一瞬で玲人の間合いに入り、バケモノ染みた巨大な斧を玲人に振り降ろす。


 “ガギンン!!”

 

 「うぐぅ!!」


 玲人は叩き付けられたドルジの斧を両手で持った黒針で受け止めた。とてつもない力で抑え込まれる。腕も足も悲鳴を上げた。


 そればかりか、踏ん張っている地面に亀裂が入り出す。


 アーガルムとして人外の膂力を持っている玲人だから立っていられるが、普通の人間なら一瞬で地面の“染み”となっているだろう。


 「……ほう、我が一撃を受け止めたか……。だが、俺の力はこんなモノでは無い……!」


 ドルジは攻撃を受け止めた玲人に声を掛けた後……、巨大な斧をまるで扇を反す如く翻して……刹那に玲人の腹部を薙ぐように水平からの一撃を与えた。


 「く!?」


 玲人は慌てて黒針を構え直し、腹部を守るが……。


 “バガアアン!!”


 恐るべき斬撃で玲人は吹き飛ばされ……近くに建っていた小さな廃工場に激突した。


 そして……廃工場の建屋はその衝撃でガラガラと崩れ落ちるのだった

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