199)廃倉庫での来襲-9(戦いの始まり)

 ドルジが振り降ろした鉄骨を、玲人は自らが生み出した黒針で切断した。ドルジは足元に転がる鉄骨を見ながら呟く。


 「……成程……それが、そなたの得物か……。俺のも見せたいが……此処は狭すぎるな……」


 ドルジはそう言った後……、すっと右人差し指を立てた。刹那、その先に真白い光が集まる。



 その様子を玲人の“中”から見ていた修一は――



 “玲人!! 危険だ! 障壁を展開し、沙希さんと自分を守れ!!”


 「クッ!!」 

 

 “ブオン!”

 

 修一から脳内で叫ばれた玲人は、彼の言う通り慌てて、沙希のエクソスケルトンと自分の体に障壁を展開した。



 修一は早苗から秘密裏に、アガルティアの12騎士長がどれ程危険な力を持つか聞いていた。


 何せ遊びで廃都市を数キロ範囲、崩壊できる存在だ。沈着冷静な修一とて叫ばざるを得なかった。


 ドルジが指先に集めた光りは甲高い音を立てて、輝きが増す。


 ”キイイン!”


 彼が“ツイ”と指先を動かすと、1cm程の眩い光球が地面に向かい高速で落下した。



 すると……。



 “キュン!!”


 “ガガガガアァン!!!”


 1cm程の眩い光球は廃倉庫の床に激突すると、大爆発が生じ廃倉庫全体が炎に包まれた。


 爆発音が鳴り響き……、生じた爆風で玲人も沙希のエクソスケルトンも吹き飛ばされたのだった。




  ◇  ◇  ◇




 「な、何!? 一体どうしたって言うのよ!?」


 作戦指揮通信車に乗っている梨沙は廃倉庫が突然爆発して吹き飛んだ事で驚愕して叫ぶ。対して状況を把握していた安中から通信で、直ちに指示を送る。



 『……落ち着け、坂井少尉! 先ずは廃倉庫内に居た泉上等兵と大御門准尉の安否を確認しろ。垣内隊員、彼らのバイタルサインを確認してくれ。それと回収部隊は撤退したか?』


 「は、はい! えーっと……、玲ちゃんと沙希なら無事だよ! 二人共、今は廃倉庫の外に居るみたい! 放り出された前原の奴も無事だね! 後……回収部隊は全員撤収済みだわ」


 「そう……良かった……」


 『お、おい! 廃倉庫内で何が起ったんだ!? 沙希は、玲人君は無事か!?』


 特殊技能分隊全員の安否を確認した梨沙が安堵の言葉を呟いたと同時に、廃倉庫から吹き飛ばされていた前原機から通信が入った。そこに安原大佐が割って入る。


 『……前原兵長、大事無いな? 現在、未知の能力を持つ敵性対象により、作戦区域だった廃倉庫は攻撃を受けた。だが、幸い泉上等兵も大御門准尉も無事だ。……泉上等兵、私の通信が聞こえているか?』


 『はい、こちら泉です。私は玲人君、いえ、大御門准尉の能力のお蔭で無事です』


 『そうか……ならば、泉上等兵、貴官は前原兵長と共に、作戦指揮通信車を守りつつ、未知の敵性対象から距離を置き、自動てき弾銃により攻撃を加えろ。

 敵の戦闘力は異常だ、一切の容赦は不要。伊藤曹長は対物ライフルによる狙撃を。垣内隊員は無人機による支援を行って欲しい。坂井少尉は作戦の指揮を取れ』


 『『『『了解』』』』


 安中は特殊技能分隊に淡々と指示を出す。ドルジに対して徹底的に迎え撃つ心算の様だ。



 その中で指示を受けなかった玲人が彼に問う。


 『大佐……俺はどうすれば?』


 『……敵の目的は貴官だ、准尉。本来ならば……貴官には後方で待機すべきだが……』


 玲人の問いに、通信越しの安中は……彼の参戦を渋るが、玲人は安中の言葉を遮り言い切った。


 『お言葉ですが、その選択は自分としては有り得ません。敵の目的が自分だと言うなら真正面から立ち向かい、これを撃破します』


 『止めても無駄そうだな……。准尉、敵には一切遠慮せず全力で戦え。バックアップは任せるが良い』 


 『感謝します、大佐』

 


 安中の迷う様な素振りに、玲人は迷う事無く最前線での戦いを宣言する。



 二人のやり取りを通信で聞いていた梨沙は、狙われている玲人を前線に出す安中の行動に、彼らしくない違和感を感じた。



 本来ならば標的である玲人を下がらせて、エクソスケルトン組を前に出すべきでは……そう安中に進言しようとした、梨沙だったが……志穂の慌てた声でタイミングを逃す。



 「あ、姉御!! アレ見て!!」


 「……ふざけるな……! な、何だ……アイツは!?」

 


 志穂が叫び声を上げてモニター越しに指を差す先を見て……指揮官である筈の梨沙も驚愕を抑えきれず、大声を張り上げる。


 彼女達が叫ぶのも、もっともだ。



 梨沙達が見つめる先に居たのは……ドルジだった。



 廃倉庫を包む豪炎の中、平気そうな姿で出て来るのも有り得なかったが……彼が片手で頭上に持っているモノが異常だった。


 

 彼女達はその様子を見て驚愕していたのだ。


 燃え盛る炎の中から涼しげな様子で出てきた、ドルジは左手を上げていた。


 

 その掌にはまるでビーチボールを掴むが如く……巨大なフォークリフトが掴まれている。



 フォークリフトは運搬物の重量と同等の自重が必要な為、車両自体が非常に重たい鉄塊だ。


 ドルジが軽々持ち上げているフォークリフトは倉庫で使われている為か、大型だった。軽く5トン以上の重量が有るだろう。



 その巨大な塊は炎で燃料タンクが引火したのか、炎を上げて燃えているのだ。


 燃え盛る巨大なフォークリフトを、特に重さを感じず風船を持つかの如く片手で持つ怪物相手に……梨沙を始めとする特殊技能分隊の隊員達は固まった。


 唯一人を除いて……。


 “ザッ!”


 「……お前は……俺との戦いを望むのだろう? 良いだろう、乗ってやる」


 燃えるフォークリフトを片手に迫るドルジの前に……、玲人は一人立ち、自らの武器である黒針を向けるのだった。

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