198)廃倉庫での来襲-8(名乗り)
沙希と玲人を助ける為、エクソスケルトンで進む前原……。そんな彼にドルジが話し掛ける。
「……マールドムのレリウスを駆る戦士か……。そなたでは俺の相手は務まらぬ。“雛”の少年を置いて、立ち去るが良い」
ドルジが言う“雛”の少年の事が何の事かは分らないが、“少年”と言われて該当するのは、この場では一人しかいない。前原は脳裏に玲人を思い浮かべながら、きっぱり言い切る。
『……馬鹿か、仲間を捨てて逃げ帰れるかよ……。お前こそ俺らの敵じゃねェ……さっさと降伏しろ、テロリスト』
「ククク……マールドムとは言え、骨のある者が居るではないか……廃墟にたむろする“ゴミ共”とは大違いだ……」
前原の言葉を受けたドルジは感心した様に呟く。ドルジが言う“ゴミ共”とは……この前までリジェと一緒に相手をしていた真国同盟の連中の事だ。
対して前原はドルジと距離を取りながら、相棒の沙希と玲人に呼び掛ける。
『……沙希! 玲人君! 無事か!? 返事をしてくれ!』
『だ、大丈夫よ……浩太……。エクソスケルトンの右腕がおかしくなったけど……。所で玲人君は?』
前原の呼掛けに、エクソスケルトンに乗る沙希が返答した。二人の通信を聞いていた梨沙が沙希の問いに答える。状況は志穂が操る無人機で確認している様だ。
『……バイタルサインに異常は無いが……鉄骨で殴られ、瓦礫に埋もれたままだ』
『そ、そんな……玲人君がやられちゃうなんて……』
『落ち着け、沙希……。敵の目的は、どうやら玲人君らしい……。俺が引き付けるから、沙希は玲人君を保護して此処より脱出してくれ』
『無茶だわ! 玲人君すら倒す相手よ!? 此処は共闘すべきだわ!』
自分が囮になると言う前原に、沙希は驚き制止する。そんな中、二人に通信が入った。
『……前原兵長、泉上等兵……、こちら安中だ。状況はリアルタイム映像で把握している。泉上等兵は大御門准尉の救出を行い、前原兵長は泉上等兵の退路を確保しろ。
突如現れた敵性対象の戦闘力は未知だ……。大御門准尉の救出は二人で連携して行え。
尚、敵性対象に対し実弾の使用を認める。状況によっては、自動てき弾銃と重機関銃の使用も許可する。坂井少尉は垣内隊員と共に後方支援を頼む』
『『『『了解』』』』
安中大佐の明確な指示に特殊技能分隊隊員達は一斉に行動を開始した。沙希は坂井梨沙少尉の指示に従い、無人機を操る志穂は廃倉庫内の情報を分隊全員に届ける。
前原は安中の指示通り武装を実弾に交換し、沙希を庇うようにドルジに対峙した。
「……トルアめ……すっかり楽しんでいる様だな……。だが、我等の本懐を忘れては困るぞ……」
士気高く行動する特殊技能分隊を眺めていたドルジが小さく呟いた後……、玲人の元へ向かおうと歩き出す。そんなドルジに対し前原は……。
『何が目的かは知らねェが……玲人君の元には行かせない。今すぐ横になり降伏しろ……でなければ発砲する』
そう言って前原は腕に装備されていた機関銃をドルジに向ける。銃弾は既に実弾に変えていた。
そんな前原に構わず、ドルジは歩みを止めない。其れを見た前原は躊躇なく機関銃を発砲する。
“ダダダダダダダダ!!”
しかし……、発射された銃弾は静止していた。空中で……。
『ま、まさか……玲人君と同じ……“力”か!?』
驚愕する前原を余所に、空中で静止していた弾丸は全て地面に落下する。
“バラララ……”
そして――
「……呆けている場合か? 甘すぎる」
そんな呟きにハッとした前原がエクソスケルトンのスクリーン越しでドルジを確認すると、彼は既にエクソスケルトンの直ぐ傍にまで接近していた。
そして電光の様な動きで、ドルジは手に持っていた鉄骨で前原機を薙ぎ払う。
“ガイン!! バキバキバキ!”
薙ぎ払われた前原のエクソスケルトンは、冗談の様に吹っ飛んで廃倉庫の薄い壁を突き抜けて放り出された。
総重量4tのエクソスケルトンを鉄骨で場外ホームランする等、有り得ない状況だったが……遊びで廃都市数キロを崩壊できるドルジには息をするより簡単な事だ。
「……その力……やはり……お前はアーガルム族なのか……」
前原を殴り飛ばしたドルジを見て……復活した玲人は確信を持って呟く。
前原が一人でドルジと対峙している際に沙希によって助け出された玲人は、ドルジが軽機関銃の弾を静止させた事を見て確信したのだ。
「いかにも……俺はアーガルムの騎士……アガルティア国12騎士長が一人のドルジだ……」
玲人の問いに、ドルジは隠す事も無く淡々と答えた。
『……ア、アガルティア国12騎士長? そ、そんな国有ったかしら?』
沙希はドルジの言葉を訝しんで呟く。ちなみに沙希は玲人の横に立ち、腕の機関銃をドルジに向けていた。
玲人に倉庫外に放り出された前原機の救出に向かう様、彼に請われたが……標的である玲人の傍を離れなられないと固辞した。
投げ飛ばされた前原のバイタルサインは現状グリーンとは言え、本当は直接前原の安否を確認したかったが……、前原が沙希と同じ立場なら、任務を優先すると分っていたからだ。
「お前の目的は何だ!? 真国同盟の仲間なのか!?」
「ククク……俺が……あんなゴミ共と? 一緒にされては迷惑だ……」
玲人の問いにドルジは笑いながら真国同盟との繋がりを否定する。そして鉄骨を玲人に向けながらドルジは呟く。
「それと……俺の目的は……“雛”の少年……そなたとの戦いだ」
“ブオン!!”
ドルジは呟き終えたと同時に、鉄骨を頭上から振り降ろした。直撃すれば玲人とて唯では済まないだろう。
頭上から迫り来る鉄骨に向かい、玲人はあろう事か突進する。
そして右手に黒いモヤを集め……何かを生み出す。次いで玲人は生み出した“何か”で、鉄骨を薙いだ。
“キン!!”
“ゴドン!”
玲人が生み出したのは1m程の長さを持った大きな黒針だ。
彼は自らに迫った鉄骨を黒針で斬って捨てたのだ。玲人によって切断された鉄骨は大きな音を立てて地面に転がったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます