197)廃倉庫での来襲-7(圧倒)

 巨漢の男ドルジが軽く放った裏拳により吹き飛ばされた前原のエクソスケルトン。瓦礫に埋まったエクソスケルトンを見てドルジが小さく呟く。


 「ふむ……手加減してあのざまとは……、マールドムのレリウスと聞いて期待したが……所詮はガラクタか……」



 ローブ姿のドルジが呟いた“マールドム”と言う言葉……。それを聞いた玲人は戦闘中の状況にも拘らず、一瞬思考が停止した。



 (マールドム!? 確か其れは……小春が言っていた人類を差す言葉だ……。何故それを……奴が知っている!?)



 一方、相棒のエクソスケルトンがドルジの裏拳で吹き飛ばされたのを見た沙希はジッとしていられない。


 『よくも、浩太を! 覚悟しなさい!!』


 沙希はそう叫んで、エクソスケルトンの腕の軽機関銃を構える。この軽機関銃にはゴム弾が装備されていた。沙希は迷う事無く発砲した。

 

 “ダダダダダダダダダ!!”


 ゴム弾は低致死性だが、其れでも当たれば出血する程の威力が有る。大の大人でもゴム弾により悲鳴を上げて転がるほどの痛みを与える筈だ。



 しかし、目の前のドルジは……避ける様子も無く、涼しい顏で平然と立っている。彼の足元には命中したゴム弾が大量に転がっていた。


 “ダダダダダダダダダ!!”


 『う、嘘でしょう!? 全弾命中しているのに!!』



 驚く沙希に構わず、ドルジは足元に転がる大きな鉄骨を拾い上げた。


 先程、天井の崩壊と共に崩れ落ちたモノだ。クレーンでないと待ち上げれないであろう、その鉄骨を難なく片腕でドルジは持ち上げる。


 この間も沙希はひたすらゴム弾を発砲していたが……。


  “ダダダダダダダダダ……カチン、カチン……”


  『た、弾切れ!? な、何で……平気なの……?』


 ゴム弾が弾切れするまで、ドルジに発砲した沙希だが……、目の前の男は、平然としている。その現状に一瞬言葉を失った。


 その間にドルジは掴んでいた鉄骨を槍の様に構え……慣れた手つきで突き出した。


 “ゴイン!!” 


 “ガガガン!!”


 沙希のエクソスケルトンは頑丈な鉄骨で右肩を突かれ、そのまま後方に吹き飛ばされたのだった。激突音と共に転がったエクソスケルトンはそのまま動かなくなった。



 ドルジが呟いた言葉に一瞬気を取られた玲人だったが、目の前の大男が敵である事を認識した。そして玲人の頭上に無鵜の黒い針を生み出す。


 “ズアアアァ!”


 「……お前には、聞きたい事が有るが……先ずは大人しくなって貰う……!」


 そう言って玲人は頭上の黒針を一斉にドルジに投付けた。


 “ドヒュン!!



 無数の黒針はドルジの四肢に突き刺さり、無様に転がる筈だったが……。ドルジは平然と立っていた。



 黒針は玲人のイメージした通り、ドルジの手足……正確には手首や肘、膝や足首と言った関節に突き刺さっているが……全く貫通していない。


 全ての針は貫通せず、ドルジの手足で止まっている。


 いや、玲人の意志力で今も突き刺さろうとしている状態だが……、ドルジが頑丈過ぎて跳ね返している様だった。


 「ば、馬鹿な……!? 貫けないだと!?」


 「……脆弱なマールドムになら……通用する攻撃だろうが……。俺にはむず痒いだけだ。……返すぞ?」



 突き刺さる筈だった黒針が静止している事態に驚き叫ぶ玲人に対し、ドルジはつまらなそうに呟いた後……、貫通出来ず留まっていた無数の黒針が爆発的に飛び立った!


 “ギュギュン!!”


 「ま、拙い!! 障壁を!」


 ドルジにより反射された無数の黒針を見て、玲人は叫びながら障壁を展開した。


 “ガカカカ!!” 


 ドルジに反射された黒針を展開した障壁で何とか防いだ玲人。自ら放った黒針を跳ね返される事等、玲人に取って初めての事だ。


 (……俺の黒針を投げ返した!? 能力を使って? まさか……奴はアーガルム族か!?)


 “玲人! 思索は後だ! 彼が来るよ!”


 玲人は障壁を展開し投げ返された黒針を防ぎながら、巨漢の男ドルジについて考えを巡らせる。


 相手の存在は以前、小春から聞いたアーガルム族だと驚愕の中考えている最中に、修一から危険が迫っている事を知らされる。



 修一自体は早苗から、事情を聞いていたのでドルジの存在がアーガルムの12騎士長であると判断していた為、全く油断は無かったが玲人は反応が遅れてしまう。


 “ガイン!” 


 玲人が思索に間を取られた間に、ドルジは鉄骨を手に一瞬で迫り……、鉄骨で玲人を殴りつけた。

 

 “バガアアン!”


 殴りつけられた玲人はふっ飛ばされて壁に激突し、そのまま崩れた壁に埋もれてしまった。




  ◇    ◇    ◇




 『おい!? 玲人! 前原! 沙希! 無事か!?』


 「う……俺は気を失っていたのか!?」


 最初にドルジの裏拳で吹き飛ばされた前原は、作戦指揮通信車に居る坂井梨沙少尉の声で気が付いた。



 「こ、こちら前原……、坂井少尉……。敵の攻撃を受けましたが……俺は無事です」


 『前原! 無事で良かった! 現場の状況は志穂の“虫”で確認している! 突如、現れた単体の敵性存在……。見かけは唯の大男だが……とんでもない戦闘力を有している! お前だけじゃ無く、沙希も……玲人ですらやられた!』


 「そ、そんな……玲人君まで!? 皆、無事なんですか!?」


 梨沙の言葉に前原は驚き叫ぶ。まさか、玲人までやられるとは前原自身信じられ無かったのだ。


 『幸い、全員のバイタルサインに異常は無い……急ぎ、沙希と玲人を確保して廃倉庫から撤退しろ!』


 「了解」


 前原は梨沙に答えた後、エクソスケルトンの状況を確認する。モニターにはいくつもの軽故障を知らせるアラートが表示されていたが……どうやら動ける様だ。



 前原はエクソスケルトンを立ち上がらせ……巨漢の男ドルジをカメラ越しで確認すると……彼は長大な鉄骨をプラスティックバットの様に片手で、軽々振り回している姿を見た。


 「玲人君に匹敵する怪物が……居るとはね……」


 前原はゾッとした思いで呟きながら……、沙希と玲人を助ける為、歩き出したのだった。



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