196)廃倉庫での来襲-6(参戦)

 玲人によって無力化され、床に転がっている真国同盟のテロリスト達の回収を玲人は指揮通通信車に居る坂井梨沙少尉に依頼した。


 「……こちら大御門准尉……敵性部隊の無力化を完了しました。回収部隊の派遣をお願いします」


 『了解! 皆、ご苦労様!』


 明るい声と共に、梨沙が隊員の皆に労いの言葉を掛けた。



 玲人はその言葉に少しばかり安堵して頬を緩ませた。感情を現す事の無い玲人からすれば珍しい事だった。


 その心境の変化にはある少女の存在が有った。

 


 (……漸く(ようやく)小春達の元に帰れるな……今回の任務は長かった……彼女は怒ってはいないだろうか?)


 玲人は此処には居ない、小春の事を思い遣った。仁那と同化した小春を守る為、玲人は出来るだけ小春の傍に居たが、今回の様な任務の時は小春の元から離れざるを得なかった。


 玲人の心配を受けて、魂を同居している修一から声が掛けられた。


 “玲人、小春ちゃんが怒る事は無いよ。あの子は君の事をちゃんと見て、理解している”


 (…………確かに……有難う父さん……)


 “どういたしまして! 所で……玲人、君も感じている様だね? 違和感を……”



 玲人に同意した修一だが自分が感じた違和感について玲人に問うた。


 (その通りだ、父さん……何と言うか、胸の奥がざわめくと言うか、そんな感じだ……そう、まだ終わっていない……そう感じさせるんだ……)


 “……小春ちゃんと仁那ちゃんが同化した際に、僕達自身の能力も大幅に強化されたから、些細な変化も読み取れる様になったのかも知れない。

 また、僕達自身の能力も日々進化しているからね。とにかく違和感の原因を調べて見ないと”


 (分ったよ、父さん。周囲を調べて見る)


 修一に促された玲人は周囲を調べて見る事にした。

 



  ◇   ◇   ◇




 玲人は廃倉庫内を調べて見ると、ホワイトボートが端に置いてあった。


 ホワイトボードは慌てて何か消した跡がある。完全に消されていて何が書いてあったか読み取れない。


 次に玲人は廃倉庫脇に有る管理事務所を調べて見た。


 かつて廃倉庫にて流通されていた荷物を管理する場であった其処は、倉庫が廃棄されて長い為、荒れ放題で古い型のパソコンディスプレイが物悲しく整列していた。


 事務所の中にもホワイトボードが有った。この事務所内に真国同盟の連中が屯(たむろ)していた為か、ビール缶や煙草の吸殻等が散乱している。



 事務所内のホワイトボードも慌てて消した様な跡が残っている。


 事務所内の机を見てみるとホワイトボードの周囲に置かれた机だけは最近まで使われた様に古いパソコンは撤去され、埃も被っていなかった。


 その机の上には書類が散乱しており、玲人はその書類を手に取ってみる。それは豪華客船ツアーのパンフレットだった。それも一冊だけ乱雑に置いてある。此処で玲人は修一に意見を求めた。

 


 (……どう思う? 父さん?)


 “明らかにおかしいね……テロリスト御一行様で豪華客船へのツアー参加とか有り得ないし……それに、何かの痕跡を消した感じがする……もっと周りを見てみたら?”


 (ああ、分ったよ。父さん)


 玲人は修一にそう答えて机の周囲を調べて見た。


 すると……ゴミ箱の中に途中まで燃やされた紙を見つけた。それは走り書きの様なメモと手書きの見取り図だった。


 走り書きには燃やされた為、字が判別しにくい状況だったが “大義の為……我等の存在を……の目に焼き付け……” 等と書いて有るが、焼けて読み取れない。


 見取り図は大きなホールが描かれている事より美術館か博物館の様だ。



 玲人は燃やされた紙の情報について、修一の意見を求めた。



 (……どう思う父さん? 彼等は何を企んでいると思う?)


 “テロリストが豪華客船のツアーに……美術館で鑑賞? 怪しすぎるよ……”


 (普通に考えて……テロの標的対象て所か……。うん? この感じは……?)



 玲人は修一が脳内で意見を交換している最中……、強力なプレッシャーを感じる。



 様々な敵と戦って来た玲人だったが……敵からプレッシャーを感じる事等、唯の一度も無かった。


 玲人は強過ぎたのだ。どんな敵も、多勢でも……自分が圧倒する事は有っても、圧倒される事等一度も無かった。



 ――今日までは。



 “ドガアアアン!!”



 突如、爆砕音が響く。廃倉庫内に居た玲人が音が鳴り響いた上を見上げると……、鋼鉄板で作られた天井が破壊され……大穴が開いていた。



 そして……。



 ”ドン!!”


 天井の大穴から何かが飛び降りてきた。……それは大柄な人間だった。



 濃い緑色のローブを着こみ、ローブの下には、紋様が刻まれた金属製の胸当てを装備している。

 

 背の高さは2m以上……。その背丈より驚かせられるのは、筋肉質なその身体つきだ。


 ローブを被っているとは言え、胸の厚み、首の太さより筋骨隆々とした男だと判断できる。


 顔には上部だけを隠した単眼を象った、金属製のハーフマスクを被っている。




 突如現れた不可解な男に対し、最初に反応したのはエクソスケルトンに搭乗している前原だ。


 彼は相棒の沙希と一緒に、無力化したテロリストを回収班の為、廃倉庫の外側へと搬出し終えた所だった。


 テロリスト全員を搬出完了後、一息付けようかと沙希と話している所に、先程の爆砕音が響き渡り……沙希と共に廃倉庫に戻った次第だ。


 鳴り響いた天井の破砕音を聞き……沙希と共に廃倉庫内に戻った前原。そこで見たのは……天井から降立った謎の大男だった、と言う訳だ。



 エクソスケルトンに搭乗する前原は、沙希に合図して現れた大男、ドルジに対し回り込んで銃を構え警告する。


 『援軍か! 大人しく投降しろ!』



 警告した前原のエクソスケルトンに対し……巨漢の男ドルジは、一瞬で間合いに入り……右手で軽くノックする様に裏拳を放った。


 “ガゴン!!”


 すると生身の人間が放ったとは思えない打撃音と共に、総重量4tのエクソスケルトンは吹っ飛んだ。


 “ガシャアアン!!”


 前原のエクソスケルトンはふっ飛ばされ、廃倉庫の壁に激突する。


 壁は盛大に破壊されエクソスケルトンは瓦礫に埋まってしまったのだった……。


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